第304話 魔王軍幹部サキュバスクィーンの襲撃(2)

「そうか……」


 短く必要なことだけ答えたと同時に、俺は、足元の砂利を踏みしめつつ、女を真っ直ぐに見つめる。


「――ッ!」


 女が唐突に空中に手を向けると、空中が裂ける。

 あれは……、アイテムボックスか持ちか……。

 やはり、こいつもプレイヤーだということか。

 女は――、明日香と言う女は、空間の裂け目に手を入れて、一歩運の大剣を取り出した。


「ライトニング・エッジか……」


 刀身は黄金色に光り、柄は白い雷に被われている大剣。

 アルドガルド・オンラインのガチャガチャから出る景品。

 強化次第では、デスナイト・フレア・ソードに匹敵する一品。


「やっぱり知っているのね?」

「ああ。だが、別段に珍しくもない」


 何せ、アルドガルド・オンラインのサービスが始まり10年目には月額課金から基本無料になりアイテム課金――、ガチャガチャが実装されたのだ。

 そしてガチャガチャが実装されてから出てくるアイテムの中に雷属性の付与がされている武器が追加されるようになったのは売上不振という点から見ても明らかであった。

 実装当初は、高位のBOSSからしか極限られた可能性でしか手に入らなかった魔法武器の代用品である『ライトニング・エッジ』は、超高額でプレイヤー間で取引されたものだ。


「何を言っているのかしら?」


 明日香は、誇るかのように『ライトニング・エッジ』を横一閃に振るうと、ネットリとした笑みを俺に向けてくる。


「このライトニング・エッジは、アルドガルド・オンラインの中でも、まだ数本しかない希少な魔法武器なのよ? 私は、これを150mで購入したの! それが、珍しくもなんともないなんて意味が分からないわ」


 どうも話が噛み合わない。

 俺が知っている『ライトニング・エッジ』は、すでにサーバーに豊富に溢れていて、1本15K 程度で取引されていたというのに。

 

「そうか……」


 だが、俺はマトモに応じるつもりはない。

 話はあとで制圧したあとに聞けばいい。

 何より、俺の妻であるエミリアを侮辱したことは許せない!

 互いに魔法剣を突き合わせるような形で、剣を構え――、二人同時に地面を蹴る。

 途端に吹き荒れる突風――、続いて鳴り響く剣撃が――、周囲のストーンサークルを一瞬にして破壊し消し飛ばす。

 俺は、咄嗟にエミリアに被害が出ないようにと考え、明日香と鍔迫り合いをした瞬間を見計らってストーンサークルがあった場所から、彼女を吹き飛ばす。

 数十メートル後方までおれの力のみで吹き飛ばされた明日香は舌打ちをしたかと思うと、間合いを詰めてくる。


「ハアッ!」


 明日香の気迫の篭った横薙ぎ。

俺は振るわれてくるライトニング・エッジを、デスナイト・フレア・ソードで受け止める。

 それと同時に、明日香の手にしていたライトニング・エッジから青白い雷が迸り、俺の全身を絡めるように攻撃してくる。

 

「――っ!」

「魔法武器ってのは、こう使うのよ! この武器の強化数は+6! 雷の魔法が発動する可能性は9%! 見せてあげるわ! ベテランプレイヤーの戦い方ってのをね!」

「そうか。見せてもらおうか?」


 再度、鍔迫り合いしていた剣で、相手の剣を弾く。

 それと同時に視界内に複数のウィンドウを同時に開くと、魔法発動予約を入れる。

 その間の時間、凡そ1秒以下。


「粋がるのもいい加減にしなさいよ! たしかに、この世界においてプレイヤーの力は絶対よ! 何せNPCはレベルを上げて強くなるというシステムを知らないのだから!」


 ペラペラとしゃべるやつだ。

 魔法セット完了。

 敵の行動パターンを予測すると同時に、噛み合わなかった会話から、相手がどの程度の装備を所持しているのかを予測。


 ――さて、この世界に来てのまともなFPK戦だ。

 そう、心の中で考えると同時に意識と戦闘思考を切り離す。

 あくまでも心は熱く――、頭は冷静に――、


 明日香から距離を取ると、彼女は猪突猛進に突っ込んでくる。

 まるでFPK初心者と言わんばかりに。

 本物のFPKを、毎日何十回と繰り返していた俺からしたら鴨に過ぎない。

 俺まで、あと数歩と迫ったところで、突然、彼女の身体がよろめく。


「――う、うそ!? 何が、起きたの? ――え? バフが全部消えた!?」


 そこで、始めてハッとした表情を俺に向けてくる明日香。


「貴方っ! 一体! 何をしたのよ!」


 答える義務もないな。

 俺は追い打ちをかけるように、スロー、ウェポンブレイク、アーマードブレイクの魔法をかける。

 それらは、魔法発動を口にする事もなく視界内のカーソルからの発動だ。

 女の手に持つライトニング・エッジは粉々に砕け――、村娘風のワンピースはビリビリに敗れ裸体だけが残り、体がゆっくりにしか動かせない裸の女が一瞬で出来上がった。


「――は? え? きゃああああああああああ」


 そのへんは羞恥心があるんだな。

 ――と、言うか、コイツ本当にFPKしてたのかよ……。

 俺が戦っていた暗殺FPK集団と比べなくても限りなく弱いぞ?

 まぁ、俺には関係の無い事だがな!

 俺は両刃の剣で、女の身体を峰うちしたあと、気絶させて裸のまま縄で後ろでに縛り上げた。


「よし、完璧だな」


 あとで目を覚ましたら色々と聞くとしよう。

 それにしても、ゲーム世界の課金武器をアルドガルド・オンラインの世界に持ってこれるとかどうなっているんだ?





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