第3話 もふもふな狐の獣人に助けられた。

 薪が爆ぜる音と共に俺は、目を開ける。

 周りを見渡すと、そこは針葉樹が密集している場所で、目の前には薪に木の枝を放り込んでいる銀髪の美少女が居た。

 

「君は……」

「エミリアと言います」


 俺の声に反応したエミリアと名乗った獣人の美少女は、俺の額に手を当てながら「ヒール」の魔法を唱える。

 それにより、体の節々に感じていた痛みが少しだけ緩和した。


「君が、俺の体の治療を?」

「はい。何とか間に合いましたけど……」


 彼女は、俺の両手へと視線を向ける。

 自然と俺も自分の腕を見て溜息をついた。

 皆月茜に焼かれた俺の腕は完全に炭化していて痛みすら感じない。

 

「気にする事は無い。君を――、守れて良かった」

「え?」

「エミリアは、自分の命よりも俺を心配してくれて声をかけてくれただろ?」

「はい……。ご迷惑でしたか?」

「とんでもない」

「それより、どうして、あんな場所で倒れていたんですか?」

「仲間に裏切られただけだ」

「そうなんですか……。私と一緒ですね」

「エミリアもなのか?」

「はい。私は、獣人なのに先祖帰りということで回復魔法が使えたので……」

「――ということは、普通の獣人は回復魔法が使えないのか?」

「回復魔法だけではないです。全部の魔法が使えません」

「そうか……」


 獣人は、魔法を使う事ができない。

 それはアルドガルド・オンラインでは当然の仕様だった。

 それにしても、俺は気がつくのが遅かった。

 1年近く旅をしていたのに、ガルドランドとアルドガルドが同じ世界だと気がつかなかった。


 MMORPGアルドガルド・オンラインの世界は、ガルドランドが崩壊した未来が舞台の世界だ。

 つまり、俺はゲームの世界の前の時代に召喚された事になる。

 そして今、俺が居るガルドランドは近い将来に必ず崩壊する。

 この世界が、ゲームに忠実なら、その可能性は非常に高い。

 まったく面倒なことだ。


「ごめんなさい。転移魔法を使ってもらったのに、怪我を治すことが出来なくて」

「話せるようになっただけ良かったよ。それに命も助けてもらったし」


 俺はお礼を言う。

 

「いえ。それじゃ、私、何か食べ物を探してきますね」

「すまない」


 エミリアは、ふさふさの白い尻尾を左右に揺らしながら針葉樹の方へと向かっていく。

 その後ろ姿を見送ったあと、俺はエミリアが、アルドガルド・オンラインでは既に絶滅していた妖狐族だということに気がつく。

 公式で発表していた特徴と似ていたから。


「たしか公式だと妖狐族は、稀に回復魔法が使う事が出来る巫女が生まれたはず」


 俺は、設定を思い出しながら自分の視界内に見えるアイコンへと視線を向ける。

 視界内には、ゲーム画面と同じアイコンが幾つも並んでいる。


「考えるだけで操作できるのか」


 一応、称号を確認しておく。


【称号】

▲裏切られし者


「あんまりいい称号じゃないな」


 少し嫌な思いを味わいながら、ステータス画面へ移動する。


 ステータス

【レベル】1

【物理攻撃力】10

【物理防御力】10

【移動回避力】10

【魔法攻撃力】10

【魔法防御力】10


【残りポイント】10000



「なるほど……。アルドガルド・オンラインのスタート時と同じステータスってことか。たしか、金子とかはステータスがオール50くらいって言っていたな。そう考えると俺のステータスは弱いな……」


 湧き上がってくる怒りを抑えながら、現状を把握する為に考える。


「この残りポイントは、転生システムを使った時に、どのくらいキャラを強化したかで貰えるやつだな。たしか、この世界に召喚される一ヵ月前にゲーム内のキャラを転生させた時のポイントは10000ポイントくらいあったからな。その辺は合っているな」


 一人呟きながら、考察する。

 どうせ、身動きが取れないのだ。

 エミリアが戻ってくるまで、どこまでアルドガルド・オンラインのシステムが利用できるのか見てみるとしよう。






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