第213話 VS 金子隆(3)

「そうか……」


 顔を上げた金子は、獰猛な笑みを浮かべ叫ぶ。


「ああ、いいぜ! こうでなくっちゃな! 勇者同士の戦いなんて一番面白いだろうが! ――なら! この俺も奥の手を出させてもらうぜ!」


 懐のアイテムボックスから赤黒い液体が入った小瓶を取り出す金子。

 

「あれは……」


 それには俺は見憶えがあった。

 アルドガルド・オンラインの世界において、中盤で実装された攻撃速度と移動速度を爆発的に引き上げる秘薬『ブラッディ・カオス』。

 消耗品であるにも関わらず手に入れる為には、『血の盟約たる壺』を、入手しなければいけない。

 さらに、その壺から『ブラッディ・カオス』が出てきて入手できる確率は1%以下なのに、その壺を手に入れるためには、狩場に何百時間も篭る必要があるというレアアイテム。


「もうとまらねーぜ! 俺様の本気を見せてやるぞ!」

「そうか。好きに何でも使え」


 俺も、『錬金術師LV10』で作りだした『ブラッディ・カオス』と、その『ブラッディ・カオス』の上位ステータス上昇秘薬『ドラゴン・カオス』を取り出し口に含む。

 ブラッディ・カオスだけなら、全ステータスは+100。

 だが、『ドラゴン・カオス』という金色の液体を飲んだ場合のステータスは二つを併用することで全ステータスが+1000へと増加する。


「しねっ!」


 俺が秘薬を飲むと同時に、金子が距離をつめて連撃を繰り出してくるが――、互いに拳を交わす。


「――な、何故だ!? この俺様の攻撃が当たらねえ!?」

 

 金子の攻撃が俺に当たらないが、俺の攻撃は次々と金子の体にヒットしていく。

そのたびに、白い虎の表皮が裂け、その白い体毛は真っ赤な血により汚れていく。


「くそがっ!」


 理解できないのだろう。

 俺に攻撃が当たらない理由が――。

 自分よりも強い相手というのは、どういうものなのか。

 そう――、他人を虐げて愉悦に浸っていた人間の屑というのは、自分が本当に追い詰められた時に、どうにもできず、感情的になり、攻撃が単調になる。


 ――だからこそ!


「金子!」


 俺は、俺を殺そうとした奴の名前を叫ぶ。

 そして――、俺の拳は金子の拳とぶつかり合い――、金子の右拳を粉砕。

 さらに続いて左拳も粉砕し、金子の胴体は、俺の右回し蹴りにより地面と水平に吹き飛ぶ。


 俺は、たしかな手応えを感じながらスキル『疾風迅雷LV10』を発動。

 一瞬で、吹き飛んでいる金子に追いつくと、その頭を掴み地面へと叩き付ける。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 痛みと絶叫から声を荒げる金子。

 だが、俺は――、そんなことは知った事ではない。

 そのまま、金子の体を空中に投げ飛ばす。


「あっ――」


 一瞬の空白の間。

 何が起きたのか理解できてない金子の表情。

 ただ、金子の顔の半分は地面に擦られたせいで焼失していた。


「死ねっ! 火魔法LV10! フレア!」


 光が――、大気や大地から収束し、爆発的な閃光を供だって、金子を中心に核融合が起き爆発する。

 そして――、その中から転がってきた小さな丸い物体。

 それは地面の上を転がり、俺の元へと――。


「あ、あ、あ……。た、たすけ……」

「まだ生きてるのか」


 呆れた生命力だな。

 だが――、ちょうどいい。

 思わず殺してしまう所だったが、生きていてくれた事は素直に喜ぼう。


「さあ、地獄の始まりだ」


 
















 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る