第212話 VS 金子隆(2)第三者視点
互いに近づく。
一歩一歩と――。
そして――、田中一馬の拳が金子隆に届く超々近距離――、わずか50センチほどの間合い――、互いの呼吸が分かるほどの近しい間合いで、田中一馬と金子は互いを見る。
「さあ、見せて見ろよ! 狂った女神から得た力ってのを!」
「ああ!? そんなモノは知らねーよ!」
振り上げた拳を、振り下ろすかのように振るう金子。
その拳を、左手の手の平で受け止める一馬。
女神と魔族の力を手に入れた金子の一撃――、その威力は絶大であり、田中一馬が立っていた足元の地面を中心に深さ10センチ、直径10メートル程のクレーターを作り出す。
それと同時に、一馬が放った右拳のストレートは、金子の腹部へと突き刺さるが、それと同時に「――ガンッ!」という金属音が鳴り響くが、数メートルほど、金子の体が空中に浮く。
「なんだよ。やるじゃねーか!」
ニヤリと闘争心を剥き出しにする金子。
「能書きはいい。さっさと掛かってこい」
田中一馬が、指を折り曲げ挑発するかのように語る。
「上等だ! 一馬の癖に生意気なんだよ!」
「それは奇遇だな。俺は、お前を殺してやりたいと何十年も思っていた」
互いに肉薄し拳を叩きつけ合う田中と金子。
二人の拳が打ち付け合うたびに周囲に衝撃波が撒き散らされ、周りの魔物が二人の戦いの余波に寄り吹き飛ばされるのではなく消し飛んでいく。
「ハハハッ! やっぱ! いいぜ! 勇者同士の戦いはよ! 存分に力が振るえる! お前も、そう思うだろ! かずまああああああああ」
「……力か」
「ああ! 人間どもは、俺達が手に入れた力を! その力を行使しようとしただけで、異端者扱いしやがったんだ! 俺達は、女神から力を与えられた救世主様だったにも関わらず! 最初は、俺達に尊敬の目を向けていた連中も、俺達が持つ強い力を振るっただけで、軽蔑・侮蔑の目を向けてきやがった!」
叫びながら、息をする暇もなく田中一馬に拳を叩きつけ、蹴りつけ――、猛攻を繰り返す金子隆。
「そうか。――つまり、お前達は力に溺れて、その力を悪用したということか」
「悪用? 何を言っている? 俺達は神に選ばれた最強の人類にして最強の勇者にして救世主様だぞ! 俺達を勝手に召喚した連中は、俺達に平伏し奉仕するのが生きる証だろうが!」
金子隆の右中段回し蹴りを、左腕で受け止めた田中一馬は口を開く。
「くだらねえ」
「何?」
「たしかに、この世界の人間が俺達を自分勝手に召喚したのは事実だ。――だが、それを、この世界の人間に八つ当たりするのは筋が通らないだろうが!」
「何を――! 偽善を! 語ってやがる!」
左右から間髪入れず残像が無数に残るほどの速度で拳を繰り出す金子。
その拳に、田中一馬は――、彼は自身の拳をぶつける事で全てを相殺。
彼らを中心にして数千の魔物が戦いに巻き込まれて、その命を潰えていく。
「偽善じゃない。心情の問題だ」
「心情か? ――なら、俺達の心情は決まっている! このツマラナイ世界を――、俺達を見下した世界を滅ぼすことだ!」
「なるほどな」
一馬は、そう短く金子の言葉に答えると口を開く。
「やっぱり、お前らは何も変わってないな」
目を細める田中一馬。
その表情は無表情に近かったが、眼には怒りの感情が渦巻いていた。
そして――、それと同時に金子隆の体は、突然――、吹き飛ばされ地面の上を転げていく。
「――グハッ!」
地面の上を転げ魔物の群れに突っ込み、それでも金子隆の体の転がる勢いは止まることがなく、大岩に激突したところで、ようやく彼の体は転身を止めた。
「――さて、金子」
「き、貴様……。い、一体……、何をした……」
ふらつく足。
小鹿のように震える足で立ち上がった金子隆は悠然と歩いてくる田中一馬の姿を見て不敵に笑った。
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