第117話 デリア総督府消滅(17)
「何がおかしい?」
「――いや、まさか人間が、私に対して、物言うとは……」
「カーネル様!」
「アイゼン。どうして、貴様が此処にいるのか知らんが、どうやら、その人間を此処に連れてきたのは貴様のようだな」
「……そうですが」
「なるほど……、ただ一人、傀儡の術が効かない。そして、消すと面倒になりそうだから総督の姿で利用してきたが、それが仇となるとは……。どうやら城塞都市デリア内で冒険者が展開し我が配下と戦っているのも、アイゼン、貴様の仕業か? っくくく、まさか取るに足らないと思っていた女に、私の計画の邪魔をされるとは思っても見なかったぞ!」
「なんだと!?」
「それは、どういう意味ですか?」
「もう隠している必要もないか……、なら見せてやろう! 私の本当の姿を!」
突然、突風がラムドやアイゼンが居る総督の執務室から回廊側へと吹き付ける。
それにより、俺が立っていた扉が砕けた。
「――ッ」
俺は、咄嗟に扉をブチ破って飛んできた人物を受け止める。
それは、アイゼンであった。
「大丈夫か?」
「……うっ……、いったい……何が……」
アイゼンは混濁した意識で室内へと視線を向けるのが分かった。
そして、室内には魔物に斬りつけていたラムドの姿が。
「ラムド!」
「俺のことはいい! それよりもアイゼンの実力では、不死者リッチの相手は無理だ! 俺が時間を稼ぐ!」
「馬鹿を言うな!」
「カズマ、貴様がコイツの足止めをしても、俺ではアイゼンと連れて即時撤退は無理だ! お前の身体能力なら何とかなるはずだ!」
俺に命令してくるラムド。
そのラムドが相手をしているのは黒のローブを身に纏った骸骨であり、体の周囲には光光球を無数に浮かばせていた。
「ほう……。カズマとは――。貴様が、我が魔王軍に逆らう者で間違いはなかったようだな」
「――何!?」
「貴様のことは、魔王様より聞いているぞ? この世界の勇者であり新生魔王軍四天王の一人であるアカネミナツキを倒した冒険者だと」
「「――なっ!?」」
ラムドとアイゼンの驚きを含んだ視線が俺に向けられてくる。
「俺は勇者じゃない」
「ほう……、絶対的なる不死なる力を持つ魔王軍四天王を二人も倒しておいて、良くも囀るものだ」
フードの骸骨は、ラムドを無視し俺に向かってくる。
「俺を無視するんじゃないっ!」
後ろから斬りつけるラムド。
その身のこなしは、Aランク冒険者の名に恥じないもので、流れるようにリッチの頭へと振り下ろされたブロードソードの刃――、それはリッチの細長い腕によって受け止められていた。
「愚かな……人間が。貴様程度の実力が、新生魔王軍四天王の一人であるエンシェント・リッチたるアデルデンに通じるとでも思ったか!」
ラムドが振り下ろしたブロードソードの刃を掴むアデルデン。
そして、そのままブロードソードを振り回す。
もちろん、柄を握っているラムドは空中で強制的に舞を踊らされる格好になり、壁へと叩きつけられる。
「グハッ」
血を吐きながら倒れ込むラムド。
「まったく、これだから劣等種族は……。そうは思わんか? 勇者よ」
「俺は勇者じゃないと何度も言っただろう?」
「――そ、総督は! カーネル様は……カーネル様はどこに!?」
「ふん。カーネルは、すでに殺した」
無常に告げられる言葉。
それを聞いたアイゼンは「そ、そんな……」と、呟いているが――、それを見ていたアデルデンは愉快に笑う。
「カカカカカッ。心地よい絶望だ! 貴様ら人間の絶望の感情! それこそが我が力となる!」
「どうして……どうして――! どうして、カーネル様を!」
「決まっているであろう? 貴様の目の前に居たカーネルは何を利用して作っていたと思う? カーネルの中身を喰らい、そして生贄にして、その皮を私が着ていたのだよ!」
「なんという……」
「まぁよいではないか! 人間なぞ、我々――、魔王軍にとっては家畜に等しい存在である!」
そう高らかに宣言するアデルデンは壊れたように叫び笑う。
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