第108話 デリア総督府消滅(8)
冒険者ギルドの板張りの廊下を進むこと1分弱。
突き当りの木製の扉前に到着したところで――、
「こちらが冒険者ギルド、デリア支部のギルドマスターの業務部屋になります」
「ああ、ありごとう」
案内してくれた年配の受付の女性へ礼を言いながら扉を2回ノックする。
「入ってくれ」
「失礼する」
扉を開けて中に入ると、そこには40歳後半と思わしき男がソファーに腰かけていた。
男は、麻のシャツを着ていても分かるくらい鍛え抜かれた肉体をしており、俺を値踏みするかのように見上げてくる。
そして、男は立ち上がると口を開く。
「君の噂は、かねがね聞いている。デリア冒険者ギルドを預かっているラムドと言う」
「カズマだ。一応、冒険者ランクはDクラスだ」
「ほう……」
男は眼光するどく目を細めると俺を見てくる。
「何か?」
俺は、言葉を返しながら、視界の端にいる人物が何故に此処にいるのか? と、考える。
「彼女の事が気になるかね?」
「――いや、ただの冒険者として――、そして冒険者ギルドの受付嬢として知り合いなだけだ」
肩を竦めながら俺は言葉を返す。
「お久しぶりです。カズマさん」
「どうして、ソフィアが此処にいるんだ? それよりも、何時俺達を追い抜いた?」
「ロックバード便を使いました」
「なるほど……」
ソフィアの言葉に俺は頷く。
アルドガルド・オンラインの世界で存在した空の移動手段であるロックバード――、つまり巨鳥便は、NPCが使う事が出来る移動手段である。
もちろん、ただガルドランドの世界で存在しているとは考えていなかったので盲点だった。
まぁ、NPC専用という部分で俺が使えるかどうかは甚だ疑問ではあったが、いまは、それは置いておくとしよう。
「カズマさんは、ロックバード便をご存知なのですね?」
「まあな……」
「ふむ。ロックバード便は、魔王軍に対抗する為に国家間の情報伝達を含めて、試験的に運用を開始したばかりだが……、カズマ君は、一体、どこでその情報を?」
「情報は、冒険者の生存に関わることだから教えることは出来ないな。それより、ソフィアが、デリアに居る事の方が俺には気になるんだが、何かあったのか?」
俺の言葉に、ソフィアは大きく溜息をつく。
「何かあった! では無く、大きく問題がありました!」
顔を上げるなり、怒った素振りで俺に話しかけてくるソフィア。
「そ、そうなのか? それなら、ラムドと先に話をしてもいいが……」
「いえ。私の用事があるのはカズマさんですので」
「そうなのか?」
「はい」
俺に用事か? 俺が、ソフィアが緊急な要件で会いにくるような事をした覚えは一切ないんだがな……。
しかも、国家間の情報をやり取りする為に、試験的に運用を開始した輸送を使ってまで……。
「――で、俺に用というのは何だ? 今、大変なことになっていて、ソフィアの相手をしている暇はないんだが?」
「大変なこと? またカズマさんは何か問題事に首を突っ込んでいるのですか?」
ソフィアが、俺が何時も問題に巻き込まれているような言い方をしてくるが、俺だって好き好んで問題に巻き込まれている訳ではない。
「――なら、ソフィアへの説明はあとでいいな」
「――え?」
「――という事でラムド」
「何だ?」
「城塞都市デリアの地下に不死者が溢れている可能性がある。すぐにデリアの冒険者連中を集結させて、市民の避難誘導をしてくれ」
「なんだと?」
「それは本当ですか? カズマさん」
「可能性があると言ったろう? まずは避難誘導をしてくれ」
「分かった。それなら総督府にも連絡を入れておいた方がいいな」
「――いや。恐らくだが、総督府は魔物と何らかの繋がりがある。兵士達は知らされていないようだから……」
そこまで言いかけたところで、扉が強く開かれた。
「ギルドマスター! 大変です! 町中に、ゾンビやスケルトンが突然、出現しました!」
「――ッ」
俺は思わず舌打ちする。
どうやら、遅かったようだ。
「本当なのか?」
「はい。町中を巡回していた冒険者からの報告です」
「それなら衛兵にも――」
「それが衛兵は、突然に住民を襲い出したそうです」
「どういうことだ?」
「ラムド。いまは考察している暇はない。引退した冒険者をかき集めてデリアの住民を助けることが最優先だ」
「分かった。すぐに招集の鐘を鳴らせ!」
冒険者ギルドマスターの言葉に、冒険者ギルドの男性職員は頷くと、部屋から走って出ていく。
「カズマ君。今回、どういう事になっているのか事情を説明してくれるな?」
「ああ。そうだな……」
時間は無いが協力を取り付け、効率的に冒険者を動かす為には情報の共有は必要だろう。
だが、それはあくまでも全て俺の推測にしか過ぎないのが難点だ。
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