第300話 王墓ダンジョン(15)

「はい。どうしましょうか?」

「手で持てるだけ持って帰るというのも手だが……」


 幸い、ここはモンスターが近寄らない安全圏だし、とりあえず軽く中身を見てみるか。


「エミリア、使えそうなモノだけピックアップして持ち帰るとしよう」

「分かりました」


 エミリアと共に、錬金術師の部屋を物色する。


「ふむ……」


 俺は本の中身をペラペラと捲りながら考える。

 本の中身自体は、特に俺が知っている情報の羅列にすぎない。

 問題は、アルドガルド・オンライン攻略通信に書かれている内容が、そのまま転写されて分割されて本になっている点だ。

 これは、この世界の人間に見せていいものなのか?


「カズマ」

「どうした? エミリア」

「何冊かチェックをしたのですが、知らない文字ばかりで、まったく読めないです」

「そうなのか?」


 俺は普通に読め……あっ!

 途中まで思考したところで、俺はハッ! と、してエミリアの方を見る。


「――ど、どうかしましたか? カズマ」

「エミリアは、この文字が読めないんだよな?」

「は、はい! カズマは読めるのですか?」

「そうだな……」


 俺はアイテムボックスから羽ペンと、羊皮紙を取り出し日本語で、自分の名前である田中(たなか) 一馬(かずま)の名前を書く。


「エミリア、これは読めるか?」


 エミリアは首を左右に振る。


「いえ、読めないです。もしかして……これって、カズマが居た世界の文字なのですか?」

「ああ。そうなる」


 やっぱりか……。

 俺たちとは違ってエミリアが、俺たちの世界の言語が分からないとなると、この国の人間は読めない人が多いのかも知れない。


「ちなみにエミリア」

「はい」

「この文字を使っている国はあるか?」

「――いえ。少数部族については分かりませんが、公用語としてなら、他国の言語を習得させられましたが見たことはないです」

「そうか」


 ここに王族のエミリアが居てよかった。

 彼女が他国の言語でも日本語を見たことがないのなら、高い確立で日本が存在していない可能性がある。

 まぁ、100%ではないが……。

 そうなると――。

そこまで考えたところで俺は錬金術師の部屋に転がっている本を見て溜息をつく。

読まれなくてよかったと。

そして読まれる可能性が低くて助かったと。

 ただ問題は、モンスターの絵やアイテムの絵が書かれていることだ。

 絵だけでも、得られる情報は莫大なモノになる。

 そこだけは注意が必要だろう。


「――なあ、エミリア」

「はい? どうかしましたか? カズマ」

「この絵とか、どう思う?」


 俺は、水竜エンブリオンの絵を見せる。

 それは、水竜のステータスや特徴・弱点が書かれた物でリオンの竜化した際の絵が書かれていた。


「え? カズマの国の言語しか書かれていませんけど?」

「――? ここに絵があるだろう?」

「絵ですか? 絵のようなモノはありませんけど……。カズマが指さしている場所には、カズマの国の言葉が並んでいるだけで……」


 エミリアの、その言葉に俺は絶句する。

 エミリアは、本の中身の言語が読めないのではなく絵すら認識できていないということに。


「そうか……」


 俺は本を閉じる。

 どうやら何か別の力が働いているようだ。

 もしかしたら、ワールド・オブ・ダンジョンが出現した原因と関わり合いがあるのかも知れない。


「少し待っていてくれ。調べてみるから」

「はい」


 エミリアが、しょんぼりとした中で、俺は一人、錬金術師の部屋を調べていく。

 やはり、どの本も攻略通信の中身の丸パクリだ。

 本棚をチェックしたあとは、唯一、執務机が置かれている場所へと向かう。

 執務室机の上には、何冊かの本が重ねられている。

 そして、その本の中身はキャラクターリメイクに関する内容。

 中身も、やはりというか攻略通信の中身を映したものだった。


「特に目新しいモノはないな……」

 

 そう思ったところで、執務机の中身を調べていたら一か所だけカギの掛った引き出しを確認した。

 これは――。


「鍵とかないよな?」

 

 執務室の近くを見てもカギが置かれている形跡などない。 

 仕方なく力で引き出しを引くとバキッ! と、言う音と共に引き出しが空いた。

 引き出しを開けてみれば――、一通の封筒が入っていた。

 

「これって……封筒だよな?」


 引き出しの中から封筒を取り出し、小刀で蝋封を切ろうとしたところで俺は手を止める。


「――こ、これって……。アルドガルド・オンラインの運営のマークか? どうして、ここに……」


 何で、こんな場所にあるのか分からないが、何故か封筒の中身を確認しないといけない気がする。

 俺は、蝋封を小刀で切り封筒を空ける。

 すると、やはり予想通り手紙が入っていた。

 

 ――ゴクリ。


 唾を呑み込む音が――、心臓の鼓動がやけにハッキリと聞こえる。


「緊張しているのか?」

 

 そう自分に言い聞かせながらも手紙を封筒から取り出し広げる。

 すると、それと同時に視界内に唐突にコンソロールパネルが開くと、赤いウィンドウが開いた。

 そしてウィンドウ内にログが流れる。


――アルドガルド・オンライン運営からの大事なお知らせです。



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