第230話 森のダークエルフ(3)

「……ま……、魔神だと?」


 思わず絶句する。

 俺を、そんな呼称で呼んでくるのは、リオンとイドルだけだと思っていたからだ。

 

「――なにを……何を……知らないフリをしている……」


 どうやら、俺が知らない何かをダークエルフは知っているようだな。

 それにしても、俺は、ここまで敵愾心というか殺意というか憎しみを向けられるようなことをした覚えは一切! 無いんだが!

 俺は、死んでも困るので土魔法で作った手錠で、ダークエルフ達を四肢を拘束してから回復魔法をかけた。

 そのあとは、事情の確認だ。


「――さて、これで普通に話ができるな。まずは、確認しておきたいが、お前達の考えは間違っているんじゃないのか? 魔神なんて聞いた事が無いぞ? 人違いじゃないのか?」

「我々が見間違うはずがない……、我らが神聖な森を破壊し蹂躙し去っていった龍の群れを統率する地竜の主たる貴様を!」

「……何かの間違いじゃないのか?」


 どこかで聞いたような話しだが、とりあえず知らないフリというか無関係なフリをしておこう。


「いいや。我らは確かに聞いたのだ! 森林を通っていく時に針葉樹海を破壊していく者に問うた時に! 主様の命令で通っているだけだと!」

「だが、それだけでは判断をつけて俺に襲い掛かってくるのは問題なんじゃないのか? 確固たる証拠がないというのに……」

「それなら教えてやる!」


 女のダークエルフは、口を動かす。

 それは魔法の詠唱。


「貴様! マスターに、向けて何をするつも――」

「リオン。好きにさせておけ」

「ですが! マスター!」

「俺の命令が聞けないのか?」

「ハッ。申し訳ありません」


 俺がリオンを嗜めている間に、ダークエルフの魔法詠唱が終わり空中に何やら映像が出力というか表示されていく。


その映像には、イドルが作り出した小さな地竜が映っており、その前には何十人ものダークエルフが地面に倒れていた。


「貴様らは、何のために、神聖なるダークエルフの針葉樹海を破壊していくのだ!」

「特に何の感慨もない。ただ、主様の命で獣人国ワーフランドの守護に移動しているにすぎない!」

「主だと……?」


 流暢な言葉が、イドルが作り出した小さな竜の口から紡ぎ出されていく。

 それと同時に地竜が自慢するかのように空中に映像を出す。

 それは、俺の映像で――。

 

「我が主の名は、カズマ! 魔神カズマ! Sランク冒険者にして、数々の勇者や魔王の配下を打ち取った最強の神である! そして、我は、カズマに作られし四竜の一体である地竜ウェイドルザーク! 文句があるなら掛ってくるがよい! だが! 我が主様に勝てるとは思うなよ! 矮小なる雑魚どもよ!」


 それだけ語ると、小さな地竜は樹海の木々を薙ぎ払いながら去っていく。

 そして――、そこで映像が途絶えた。


「お・ま・え・なー!」

「痛い! 痛い! 頭が割れまする! 主様!」


 イドルの頭を掴んだあと、力を入れていく。


「はぁー」


 俺は盛大に溜息をつきながらダークエルフの枷を解いていく。


「どうだ! 分かったか! どうして、我々が怒っているのかということが!」

「まぁ、分かった。とりあえずイドルを好きにしてくれ」

「主様!?」

「まぁ、お前達では地竜には勝てないよな……。――で、俺はどうすればいい?」

「賠償金を請求する!」

「なるほど……。妥当な線ではあるな。――で、いくらほどを考えているんだ?」

「金貨600……金貨1000枚だ!」

「分かった」


 俺はアイテムボックスから金貨1000枚を取り出しダークエルフの前に置く。


「枚数を数えてくれ」

「本当にいいのか?」

「ああ、とりあえず迷惑をかけたのは事実なようだからな」


 それにエミリアの国の隣がダークエルフ族が暮らす針葉樹林なら余計な揉め事を起すのは良くはないだろう。


「お前の力を持ってすれば、金を払わずとも……」

「自分に非があるのなら、きちんと賠償をする」

「ほんとに、お前は、あの地竜の主なのか? あの横暴な地竜の……」

「不本意ながら、今は俺は主と言う事になっているな。とりあえず、枚数を数えてくれ」


 枚数を数え始めるダークエルフ達。

 その横で高位の攻撃魔法で、イドルをボコボコにして躾しておく。

 ボロ雑巾のようになったイドルを幌馬車に投げ入れたあとは、俺の方を体を震わせながら見てきているダークエルフ達と目が合う。


「どうした? 金貨の枚数はあったか?」


 コクコクと頷くダークエルフ。

 そしてゴクリと唾を呑み込む音が聞こえたかと思うと、


「ありました……」


 ――と、緊張感の篭った声で答えてきた。




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