第280話 仕方ねえなあああ!

「それは……」

「そもそも、俺は、龍族を従えていると説明したはずだが? 龍を従えている人間が龍よりも弱いわけがないだろうに」

「……」

「カズマの言う通りです! お母さまにも、私は説明しましたよね? 人族憎しで、お母様は、誰が国益に叶う人物なのか見極めようとしなかったのです」


 ――ダンッ!


 エミリアの声と共に、彼女の母親グレースがテーブルを両手で叩いた音が室内に響く。


「エミリア! 貴女は、人間に何をされたのか忘れたわけではないでしょう!」

「――でも、カズマは別」


 グレースの言葉を、短く切って捨てたエミリア。

 そんなグレースは、歯を食いしばるようにして俺を見てくるが、そんなに睨んできても自体は変わらない。


「何か、言いたいことがあったら聞くぞ?」


 わざと挑発めいた口調で、俺はグレースを煽る。

 ここまで来たら、もう口先だけでの話し合いなど無駄だと悟っていたからだ。

 命のやり取りを向こうから仕掛けてきた以上、こちらが譲る部分なんてものは一切! ない!

 相手を徹底的にやり込めること。

 それが、俺やエミリアの出来ることだ。


「貴方は……、娘を――、エミリアをどう思って――」

「どう思うも何も、エミリアは俺の妻だと何度言えばいい? コイツに世界が手を出すようなら、俺は世界を滅ぼす覚悟もあるぞ?」

「……」


 俺の言葉に、女王が動きを止める。


「カズマ! やっぱり私の旦那ですわ!」

「だろ」


 ちょっとバカップルのような感じに一瞬なってしまうが、すぐに表情を引き締めて女王の方へと視線を向ける。


「そうなのですか……。そこまで娘を……」

「ああ。――で、どうするつもりだ? 俺と戦うか? 国の威信とやらをかけて。今度は、女王陛下自らが」

「それは、断るわ」

「懸命な判断だ。力量の差は分かったんだろう?」

「ええ」

「それなら、どうするつもりだ?」

「貴方を傭兵として雇い入れたいと思うわ」

「ふむ……。エミリアは、どう思う?」

「そうね。カズマが、傭兵をしてもいいのならいいけど、私としては傭兵として雇うって部分に問題を感じるの。だって、傭兵とカズマと直接雇用したいって意味でしょう?」

「それは……」

「それって他の貴族や兵士から反感を買うと思うの。それなら冒険者ギルドに依頼を出して、冒険者を一時的に通して依頼をした方がいいと思うのよね。それも、この国とは別の冒険者ギルドに」

「あーなるほど。つまり、別の国の冒険者ギルドを介して依頼をかけることで直接的には雇用していませんという体を作るってことか?」

「ええ。私は、その方がいいと思うの」


 そうエミリアが提案してくる。

 たしかに別の国を経由するのなら、それは問題ないのか? と、思ってしまうが、人間族の冒険者ギルドを介するのなら、他国の王侯貴族を通しての依頼になるので、問題ないだろう。

 たぶん、きっと……。


「ふむ……。それならいけそうだな」

「――でも、城塞都市デリアの冒険者ギルドマスターは来ていたわよね? カズマ」

「問題ないだろ。ソフィアに依頼をすれば何とかなるはずだ」

「ケインの冒険者ギルドで大丈夫かしら?」

「丁度、リーン王国の王都からは距離があるからな。冒険者ギルドで依頼を受けたあとに、俺が承諾して、その結果が王都の冒険者ギルド本部に届くまで時間はあるはずだ。そのタイムラグで何とかするしかないな」

「――なら、シルフィエット王女殿下にも話は通した方が――」

「それは面倒になるから事後報告でいいな」

「たしかに、そうね」

「あなた達、二人とも何の話をして――」

「だから国を守りたいんだろう? その話をしているだけだ。――で、俺たちの提案する内容で、あとはアンタが承諾するかだけなんだが、どうする?」

「……分かったわ。お願い、国を守って」

「了解した。だが、料金は高いからな」


 俺は金額を含めて女王と商談を行うために口を開いた。




 ――1時間後。


 エミリアを置いて一人部屋に戻った俺を出迎えたのはイドルとリオンであった。


「マスター! 妾に! 状態異常魔法をかけるなんてひどいぞ!」

「うむ。このイドル、ご主人様に酷い目にあったのだ」


 二人とも、お怒り心頭気味だが――、


「ちょっと色々とあってな。それよりも二人とも、明日からも王宮に暫く滞在する事になりそうだから、あまり無茶な事はするなよ?」

「それはマスターにだけは言われたくないのじゃ」

「うむ。あれほどの大規模攻撃魔法を扱っておいて今さらと言った感じがするのだ」

「失礼だな。あれでも威力は抑えてあるからな」


 俺は今後の方針を含めてイドルとリオンに簡単に説明していく。


「なるほど……、相も変わらず、この国は――」


 どこか思うところがあったのかイドルはポツリと呟く。


「マスターの力を借りようとは――、そもそもマスターは、その力の一端を示していたというのに、国力が減ったのは、あの愚かな獣人の雌の自業自得ではありませぬか?」

「まぁ、いまさら言っても仕方ないからな。その辺は、残ったエミリアが言ってくれているだろう」


 二人は、どこか不満そうな表情をしていたが――、



 

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