第302話 王墓ダンジョン(17)

「カズマ、これは!?」


 俺の方を振り返ってくるエミリア。


「これが、次の階層に繋がる階段だな」

「次の階層?」

「ああ。ここからは気を付けていくぞ」


 コクリとエミリアが頷く。

 それを確認したあと、俺は階段を下りていく。

 階段は、真っ直ぐに下へと伸びる。

 俺を先頭にして階段を下りていく中で、俺とエミリアの階段を下りる足音だけが壁――、床――、天井に反響する。

 

「何だか不思議な感じですね」

「そうか?」

「はい」


 階段を下りること3分ほど。

 到着した場所は、学校の体育館一つ分ほどの広さ。

 広間の中央部分には、黒い大理石で作られた巨大なモノリスが立っていた。

 それは、アルドガルド・オンラインのプレイヤーなら誰しもが知っているモノであった。


「システム・コンソロール・ストーンが、何でここに?」

「カズマ! あれです! あれが代々、王家の墓標として使われている石碑になります!」


 エミリアは、自身が墓標を語る石碑に駆け寄ると、俺を手招きしてきた。

 どうやら、この空間にはモンスターはいないらしい。

 それにしても……、この空間は未実装の何もない空間が本来は広がっていたはずだが……。

 やはりイベントの『魔王の行進』と何か関わり合いがあるのだろうか?

 ――いや、ここで熟考しても分からないか……。


 手を振っているエミリアの元へと向かう。

 彼女の傍らまで移動したところで、俺は目の前に鎮座しているモノリスを見上げる。

 

 ――システム・コンソロール・ストーン


 それは、アルドガルド・オンラインの世界においてギルドの創設や解散、結婚、チートやバグを利用している悪質ユーザーの報告を運営に行う端末として利用されていた。

 それは各町・各都市に存在していた。

 ただし、この世界では見たことがなかった。


「これが、エミリアの言っていた王墓の祭壇なのか?」

「はい」

「そうか……」


 それにしても、これを祭壇っていうとはな……。


「とりあえず、これに報告すればいいのか?」

「はい」

「ちなみに、ここで誓えばいいのか?」

「えっと……」


 エミリアが、モノリスに手を触れる。

 すると――、


――地球生体物の遺伝子を確認しました


「――なっ!」

「どうかしましたか? カズマ」

「いや、このモノリスを起動させる事ができるのか?」

「モノリス? 王墓の祭壇ですか?」


――名前を提示してください。


「エミリア・ド・ワーフランドです」


――個体名称エミリア・ド・ワーフランドの遺伝子情報を確認いたしました。ログインします……ログインしました。行いたい手続きをお伝えください。


「結婚の報告に参りました」


 ――確認しました。婚約指輪を装備した上で、コンソロールパネルに触れてください。


「カズマ」

「……」


 モノリスとのやり取りに俺は思わず硬直してしまっていた。

 やり取りがまるでゲームの世界と同じだったからだ。


「――お、おう……」


 すでにエミリアも俺も結婚指輪はしていたので、エミリアに促されるままモノリスに手を触れると、モノリスが突然! 光始める。


「――え? な、なにが!?」

「どうかしたのか? エミリア」

「えっと……、お母様に聞いていた内容と違うから。だって――、こんなに光ることなんて――」

「そうなのか?」


 まぁ、たしかに。

 普通なら、モノリスが結婚を承認して終わるだけだ。

 だが、光はどんどん強くなっていくだけで承認しましたというアナウンスが一切流れない。

 原因が分からないまま、どうしようかと考えていたところで――、


 ――アルドガルド・オンラインのプレイヤーである田中一馬のログイン情報を確認しました。

 ――田中一馬のインベントリに運営からのメッセージを記載した便箋を転送しておきます。


「え? え? カズマ! この声!? どういうことですか? タナカ・カズマって誰のことですか?」

「いや。ちょ――、ちょっと待ってくれ。俺もよく分かってないんだ」


 モノリスが俺に――、運営が何を俺に伝えたいのか分からないが、重要な事だという事は分かった。


「ほんとうですか?」

「ああ。本当だ。それよりも、一体――何のことなんだ?」


 もう一度、モノリスに触れる。


 ――結婚を承認しました。


 そうアナウンスが流れてくると同時に、俺とエミリアが薬指に嵌めていた指輪が光り輝く。


「ご先祖様に、結婚は承諾してもらえたみたいです」


 途中、ハプニングがあったが納得できる結果が出たからなのかエミリアはホッとした表情を俺に見せてきた。


「それにしてもよく分からない声が聞けましたね? カズマ」

「そうだな」

「それに何だかカズマのことを知っているような感じでした」

「そうか?」

「はい! でも、この祭壇は代々、ワーフランド王家関係者しか動かすことは出来なかったはずなのですが……」


 エミリアは、どこか納得できないと言った表情をしているが、それよりも重要なことがある。

 俺はモノリスに触れるが、まったく反応しない。


「エミリア」

「はい」

「祭壇に触れてみてくれないか?」

「え? あ、はい」


 エミリアが、モノリスに触れるが、やはりモノリスはまったく反応を示さない。


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