第119話 デリア総督府消滅(19)

「Dランクだと……? そんな馬鹿なことが――、ある訳がない!」


 詠唱を開始するアデルデンは、黒のローブを取り払う。

 すると俺が砕いた骨が総督府の建物の方からアデルデンの元へと集まっていく。


「見せてやろう! 勇者カズマよ! この私の本当の姿を!」

「だから、俺は勇者じゃないと言っているだろうが!」


 どうして、コイツは俺の話を聞かないのか。

 アデルデンの黒のローブの下は、人の恰好をした骨。

ただし、中心部には牛乳パックの1リットル程の大きさの赤いルビーが存在しており、不気味に脈動している。


「この世界に一つしかない宝玉レッドルビーよ! 今こそ、力を示せ!」


 一際、『ドクン!』と、言う不気味な音が周囲に鳴り響くと同時に、暴風がアデルデンの体を包み込み、城塞都市デリアの方からも無数の骨が、アデルデンを取り囲んでいる竜巻の中へと吸い込まれていく。


「マスター!」

「カズマ!」


 俺の元へ、リオンとエミリアが走ってくる。


「二人とも無事か?」

「うむ」

「はい」


 二人から間髪入れず返答が帰ってくる。


「エミリア、幌馬車の上にいるラムドとアイゼンにヒールをしてやってくれ」

「分かりました」

「リオンは、気絶している連中を幌馬車へ入れてから、幌馬車を引いて総督府の敷地内から退避してくれ」

「妾にかかれば、あの程度の魔物、一蹴できるが?」

「これは命令だ、リオン。不確定要素が高い行動はとれない。まずは傀儡とされている人間を助けることを最優先にしてくれ」

「了解した。マスター」

 

 俺が指示を出すと二人とも行動を開始する。

 そして、数秒が経過したところで町から飛んでくる骨は無くなり、黒い光が竜巻の中から迸ると同時に竜巻が解けていく。


「くくくっ」


 くぐもった声。

 それは低く重厚的な物であり、周囲に重く圧し掛かるモノ。

 そして竜巻が消え、中から巨大な物体が姿を現す。


「これが! これが、私の本当の姿だ!」


 竜巻の中から現れたのは、全長20メートルほどの漆黒のボーンドラゴン。

 胸元には、巨大な赤黒いルビーが鼓動しており、血には黒い液体を落していた。


「私の名は新生・魔王軍四天王の一人! 不死の竜王アイゼン! 勇者カズマよ! ここで貴様を殺す為に待っていたぞ!」


 そう叫ぶと同時に、アデルデンは巨大な竜の咆哮を周囲へと放つ。

 

「あっ……」


 微かに聞こえる声。

 それはエミリアのモノだというのが瞬時に理解できてしまうが――。


「マスター、問題ない。竜の咆哮には、魔力耐久が低いモノには呪いとなり降りかかるのだ。まだ魔力抵抗値を上げ始めたばかりの奥方様では耐えられなかっただけだ。だから戦いに集中するのだ」

「リオン、あとは任せたぞ」

「マスター、了解した」

「愚かな! この私から逃げられるとでも思ったか!」

 

 漆黒のボーンドラゴンは、20メートルとは思えないほどの巨体でリオン目掛けて走り出す。


「――くっ!?」

「この妾に喧嘩を売るとはいい度胸だ!」


 すっかり迎撃するつもりのリオン。

 こんなところでリオンが水竜に形態を変えて戦うことになれば怪獣大戦争になってしまう。

 

「させるか!」


 俺は、ボーンドラゴンの尻尾を掴み、アデルデンの歩みを止める。


「ばかな!? 人間が、この大質量たる私の歩みを素手で止めるとは!?」

「うおおおおおおお」


 俺はアデルデンの独白を無視し、四肢に力を籠め、歯を食いしばり、総督府の建物へと向けてアデルデンの巨体を投げ飛ばす。


「ば、ばかなああああああ」


 声を上げながら総督府の方へと吹き飛んでいくアデルデンは、白の大理石で作られた建物と激突し、崩れた瓦礫の中へと埋まる。


「マスター、助けてもらわずとも」

「助けたつもりはない。それよりも、早く救助したあとに撤退しろ」


 俺の命令に頷いたリオンは、総督府の周辺に倒れていた兵士を纏めて幌馬車へ載せると、総督府の敷地から出ていく。

 幌馬車が、敷地外に出ていったところで総督府の建物の瓦礫――、大理石の下から漆黒のブレスが天を貫く。


「おのれ、勇者カズマ……」


 瓦礫の下からは無傷のボーンドラゴンたるアデルデンが姿を現した。





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