第279話 殺していいのは殺される覚悟のあるやつだけだ!

「――で、女王陛下。話しというのは何だろうか?」


 俺は、エミリアの前であったが務めて事務的に話すことにする。

 相手がこっちに好意を持って接してきているのなら、それなりの対応をする腹積もりを決めたからだ。

 そんな俺の上半身の服裾をエミリアは、周りが気が付かない程度の強さで引っ張っていくる。

 どうやら、俺が最初に好意的に接していた時から、方針転換したことに対して心配しているようだが――。


「カズマ殿が強いという事は証明されました」

「――で?」


 それだけのことを伝えるだけなら謁見の間で直接的に、伝えた方がいい。


「……カズマ殿に、お願いがありまして――」

「だろうな」


 そうじゃないと、こんな秘密の会合に俺を呼びつけたりすることはないだろうし。

 大方、自分でやっておいては何だが、兵士たちが精神的にダメージを受けたとか言うんだろう。


「じつは、今回の儀式について――、参加した兵士の半数が恐怖からか兵士を続けたくないと……」

「それで? 以前に、女王陛下は俺を殺すつもりで兵士には戦うように命じると言っていたよな? つまり、相手を殺すってことは、殺される覚悟を持つ――、殺されても文句は言わないって事なんだが、そのへん理解して俺と戦ったんだよな? まさか、一方的に俺を殺せると思ったから喧嘩を売ってきたとか、そんな舐めてふざけたことを口にしたりはしないよな?」


 機先を制する形で女王陛下に俺の明確な意思を伝える。


「……」


 もちろん、無言になる女王陛下。

 まぁ、そんなところだろうよ。

 そして、兵士たちが国を守ることに恐怖したから、俺を雇いたいとかそんなところだろう。

 そして、そんな要請を俺にしたいってところか。

 あくまでも予測に過ぎないが、こんなところのはずだ。


「その点は、誠に申し訳なく思っております」

「それは儀式の前に言ってほしかったな」


 俺は出された紅茶を口にしつつ答える。

 そして、俺は壁際に並んでいる女性近衛騎士達に視線を向けるが、誰もが俺と目を合わせることはしない。

 以前は、同じ会話内容で、騎士団連中から文句を言われたが、力を示した以上、俺には叶わないと理解したのか全員が黙したまま。


「分かっております」

「今更、分かられても俺としては困るんだがな……」


 これは本心から出た言葉だ。

 

「――で、俺に何かを求めても、俺からは何も出来ないという事だけは伝えておきたい。もちろん、女王陛下も、その点に関して理解はしているんだろう?」

「それは……はい……」


 神妙な面持ちで女王陛下は頷く。

 すでに俺の獣人国における立場は非常に悪いモノで固定してしまった。

 何せ、獣人王国軍を一人で壊滅させるどころかレベリングのためにリスキルしまくったからだ。

 おそらく王国中の貴族からも嫌われるどころか命を狙われる状況にすら陥っているまであるだろう。

 まったく面倒なことだ。


「――それでも、良ければ話は聞くが?」


 無言になる女王陛下。

 正直、俺が女王陛下の立場だったら、国から追放した方がいいと金を渡して出ていってもらっている。

 だが――、今回は伴侶のエミリアが居て、彼女はワーフランド王国――、つまり、この国の唯一残っている王女殿下だ。

 それを一緒に追放したら、政が混乱するのは少し考えれば分かることで。


「カズマ殿。図々しいお願いだという事は重々承知していますが、しばらく王国に滞在して頂くことはできませんでしょうか?」


 その言葉に、俺は一瞬、何を馬鹿なことを――と、思ってしまう。

 それは最悪手に近いからだ。

 俺が滞在することを女王陛下が認めれば、間違いなく王家に対して獣人たちの怒りが向かう。

 王女殿下を孕ませたこと。

 そしてワーフランド王国軍を壊滅させリスキルさせてレベリングしたこと。

 それらを踏まえれば、俺をこの国に滞在させる事はデメリットしか無い事は考えれば分かることのはずだが……。


「それは、百害あって一利なしだと思うんだが?」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「簡単に説明するのなら、多くの問題を抱えているのに、何一つ利益が出ないという意味だ」

「それなら大丈夫です」


 その楽観的な言葉に俺は溜息をつく。


「大丈夫じゃないだろ? 軍の中には貴族の子弟も多数いるのだから、間違いなく俺に恨みを持っているはずだ。そんな俺に対して国の滞在を許可するなんて王家への忠誠が根こそぎ無くなる可能性だってあるんだぞ?」

「――でも、国が無くなるよりはいいと思っています」

「国が?」

「はい。ワーフランド王国は、魔王領への通り道です。そして、私達は優れた身体能力があるからこそ国を守ってくることができました。それに地龍様の加護もありましたから」

「ふむ……。つまり軍が壊滅している現状では、他国に攻められるかも知れないということか?」

「遅かれ早かれ不信感を持たれており、獣人に対する偏見が人間の世論を構築している以上、国力衰退した今では――」

「まぁ、それを招いたのは女王陛下の失策だろう?」


 俺は身も蓋もないツッコミをする。 

 


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