第262話 獣人国の冒険者ギルド’(2)
「ああ。俺が、Sランク冒険者だということに何か問題でもあるのか?」
「――い、いや……なんでも……」
「それなら、元の場所に戻ってくれ」
俺の言葉に、獣人は下がると仲間たちの元へと戻っていく。
そんな後ろ姿を一瞥したあと、
「――で、冒険者ギルドマスターに合う事はできるのか? できないのか?」
「――い、いえ! すぐに伝えてきます!」
冒険者ギルドの受け付け譲は立ち会がると、すぐにカウンターの奥――、事務所らしき場所の奥側の扉を開けて出ていく。
しばらくすると扉が、バン! と、勢いよく開くと息せきかけて狸族の獣人女性が俺の目の前まで駆け寄ってきた。
「カズマ様! ラグドリアンさんが大至急! お会いしたいとのことです! こちらに来て付いてきてください」
どうやら、俺に冒険者ギルドマスターは会ってくれるようだ。
しかも慌てている事から見て何か問題が起きているらしい。
「分かった。案内してくれ」
「はい!」
冒険者ギルドのカウンター内に通されたあと、事務をしている冒険者ギルドの職員たちの横を通り過ぎる。
その際に、冒険者ギルドの職員たちが視線を向けてくる。
事務所エリアから、通路へと入ったところで――、通路を歩いていると、
「カズマ様。Sランク冒険者は、長年冒険者ギルドで働いている職員でも滅多に見ることがありませんので、職員がジロジロと見るのはご容赦ください。みな、Sランク冒険者を見るのが初めてなのです」
「そうか」
まぁ、獣人国と他国――、人間国の間では交流は少ないからな。
必然的に人間の冒険者が来ることも少ないから、Sランク冒険者も立ち寄る事が激減するのだろう。
たぶん、そんな理由な気がする。
「――カズマ様をお連れしました」
「入ってくれたまえ」
室内から重厚な声が聞こえてくる。
俺に目配せしてくる冒険者ギルドの受付嬢。
「カズマ様、どうぞ」
受付嬢が扉を開けてくれたあとで、冒険者ギルドマスターの部屋の中へと足を踏み入れれば、「待っていたよ」と、ハーピーのような恰好をした獣人が話しかけてきた。
冒険者ギルドマスターからソファーに座ることを勧められる。
「私は、ラグドリアンと言う。ワーフランド王国の冒険者ギルドマスターをしている。君が来ることを待っていた」
「そうなのか?」
コクリと頷くワーフランド王国、王都の冒険者ギルドマスターは、真剣な表情に変わる。
「それって、俺のことを警備兵が確認しにきた事とは――」
「それは別口だ」
「ほう……」
エミリアとは別口とは、また、これは……。
「――で、具体的には、どういった感じなんだ?」
「シルフィエット王女殿下が、カズマ殿を探しているそうだ」
「リーン王国の王女が?」
「ああ」
「何の理由で?」
「どうやら、カズマ殿を保護したいという理由から冒険者ギルドにカズマ殿の情報を求めてきているようだ」
「保護ね……」
また面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。
「とりあえず、俺の情報は王女には提供しないように頼む」
「それがな……」
俺の言葉に困った表情をするギルドマスターは、「一応、冒険者ギルドの運営資金は各国の王族や貴族が提供しているからな。一応、国境を越えて、各国の冒険者ギルド同士、連携はしているが、その運営母体はあくまでも国だ。国からの要請を断る訳にはいかんのだよ」と、溜息を交えて説明してくる。
「なるほど……。そういえば、よくよく考えたら冒険者ギルドの運営母体は国だったよな……」
「うむ。――で、あるからしてお前さんの個人情報と居場所はリーン王国上層部には筒抜けと言う事になる」
うわー、めんどくせえ。
しかも、未だに諦めていないとか、しつこいにも程があるだろ。
「まぁ、お主が来てくれたから、丁度言えたからよかった」
「俺からしたら良くないんだがな……」
「――で、お主から、冒険者ギルドに来たってことは何かあったのか? この国の王女殿下を救ったと門番の者から聞いておるが……」
「あー、それがな……。じつは――」
詳細を説明していく。
話が進むにつれて、冒険者ギルドマスターの表情が――、眉間が! 皺が寄り、その都度、表情が険しくなっていく。
そして、話が終わったところで、冒険者ギルドマスターが深く溜息をついた。
「また、とんでもない事になっておるな」
「――で、立ち合いとかは」
「無理に決まっておるだろう。この国の冒険者ギルドの運営母体を考えてみろ」
「だよな……」
それぞれの国内に存在している冒険者ギルドの管轄は、その国の王家や貴族が資本であり、資本家に対して冒険者ギルドが逆らうことはできない。
よくある物語上に出てくる超法規的な冒険者ギルドなぞ存在しないのだ。
「なら、困ったな……」
「一つだけ方法があるぞ?」
「方法?」
「お主の強さを見せるのは2週間後であろう? ――ならば、リーン王国の上層部に掛け合って、リーン王国の冒険者ギルドの連中を立ち合い人とすればよい」
「その手があったか!」
「うむ。だが、シルフィエット王女殿下を通さないと正式に依頼するのは難しいが――」
「それは……」
つまり、リーン王国の王女に借りを作ることになる。
「……なあ、ここに通信できる設備はあるんだよな?」
「あるが、どうするつもりだ?」
「城塞都市デリアに繋げることはできるか?」
「出来るが……、まさか……王女殿下を通さないつもりか?」
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