第261話 獣人国の冒険者ギルド’(1)
冒険者ギルドの中に入れば、床は木材で作られていて踏みしめればギシッと言う音が返ってくる。
それと共に、一斉に冒険者たちの視線が俺に向けられてくる。
冒険者たちは、全員が獣人族のようで犬や猫と言った一般的な獣人から兎や鳥と言った他国では珍しい種族も見て取れる。
「おいおい。なんだよ。臭えと思っていたら人間様かよ!」
冒険者ギルドの出入り口に一番近い場所に座っていたレザーアーマーを着た冒険者一行が、俺を見ながら小馬鹿にしたような発言をしてくる。
「ガルアス、止めなさいよ」
「ちっ! ルーエン。お前は、人間について何か思うところは無いのかよ? 他国では、獣人狩りが行われているんだぞ!」
「少し飲みすぎだぞ。ガルアス」
「まったく。エンジョミンまで、ルーエンと同じことを言いやがって」
仲間に静止されたのが気に喰わないのか、酒の入っているであろう木のジョッキを傾ける男。
男は、仲間に止められても、吐いてしまった言葉の手前引っ込みが付かないのかは知らないが、手にしていた酒の入っているであろう木製のジョッキを、粗雑に作られた木のテーブルに叩きつけると、木製の長椅子から立ち上がると、俺の進行方向――、冒険者ギルドの受付嬢が座っているカウンターへの進路上に立ちふさがった。
「ここからは通行止めだ! 人間族が、獣人国に入ってきてるんじゃねーよ!」
身長が2メートル近い狼族の獣人。
男は、俺を見下ろしたまま、叫んでくる。
内心、溜息をつきながら、俺は男を止めたパーティメンバーと思わしき狼族たちの方へと視線を向けるが、二人とも、どうしたものかと表情を曇らせていた。
「(――止めるつもりは無いということか? いや、一瞬、止めていたのは冒険者ギルド内での問題はご法度だという規約から止めたと考えた方がいいかもな)」
内心、理由を探しながらも俺としても冒険者ギルドの建物内でゴタゴタするのは宜しくないと思い、横を通り過ぎようとしたところで、狼族の男は俺の襟首を掴んできた。
「おいおい。何を無視して通り過ぎようとしているんだよ」
「……はぁ」
「何だ?」
「冒険者ギルド内でのゴタゴタはご法度だろ? お前の仲間も止めていたんだから、こういう時は文句だけ遠巻きに言いながら酒を飲むのが普通だろ?」
「……おまえ、何と言うかプライドっていうのが無いのか? 普通なら、ここまでされたら、喧嘩を買うのが普通だろ?」
「買わねーから」
「――そ、そうか……。それより! ――って、ことは! お前は依頼者ってことか?」
――ああ、なるほど。
たしかに依頼者相手に喧嘩を売れば冒険者同士のいざこざよりも、さらに面倒なことになるしペナルティも課せられるからな。
どうりで、言葉に勢いがなくなったと思ったが。
「一応、冒険者だが……」
「冒険者なのかよ! ――なら!」
感情の起伏の激しい奴だな。
「さっきも言ったが冒険者同士のゴタゴタは許可されてないだろ。手を、そろそろ離せ」
俺の言葉にムスッとした男が、手に力を込めていき――、俺はそのまま歩き出す。
「ちょっと! 待てやっ! うおおおおお!?」
俺の着ているYシャツは、獣人の握力程度で破けるほど弱くはないほどに強化している。
つまり、何が起きるのかと言うとレベルとステータスが圧倒的に高い俺は、獣人の男が俺のYシャツの襟から手を離さない限り、ズルズルと引き摺ることになるわけで――、
「お前っ! ちょっと!」
ずるずると、冒険者ギルドの受付嬢のカウンターまで、狼族の獣人を引き摺りながら歩く俺。
必死に俺のことを足止めしようと両足を床板につけて踏ん張っているが、それは無意味とばかりに2メートルを超える大男は、踏ん張ることすらできずにカウンターまで引きずられていき――、
「ワーフランド王国冒険者ギルド本店へようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
後ろで俺を必死に引っ張る狼族の獣人と、微動にしない俺に対して交互に視線を移しながら、冒険者ギルドの受付嬢をしている狸族の女性が引き攣ったような表情で話しかけてきた。
「冒険者ギルドマスターと話がしたい」
「ギルドマスターですか? 失礼ですが、冒険者ギルドカードを提示してもらえますでしょうか?」
「ああ。そうだな」
アイテムボックスを開く。
それだけで、冒険者ギルド内で、此方を伺っていた冒険者たちから驚きの声が上がる。
「おいおい。アイテムボックス持ちかよ……」
「かなりレアなスキルだろ? あんなのを持っているなんて――」
「一人で冒険しているのか?」
「仲間に勧誘するか? 採取とか楽だよな?」
「おいおい。人間を仲間にしたら大変なことになるぞ?」
次から次へと、そんな声が聞こえてくる。
その中で、俺はアイテムボックスから冒険者ギルドカードを取り出す。
「これが身分証になる」
「――こ、これは!? Sランク冒険者の!?」
俺の冒険者ギルドカードを受け取って確認した受付嬢の驚いた声と共に、襟首を掴んでいた手が外れる。
振り返れば、俺にいちゃもんをつけてきていた狼族の獣人が数歩下がっていて――、
「まじか? こんなのが、Sランク冒険者だって……、言うのか?」
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