第98話 城塞都市デリア(4)
俺が足を砕いた身なりのいい男。
そいつにヒールをしてやる。
「さて、これで歩けるようになったな? ついてこい」
「は、はい……」
「リオン。お前は、そこらに転がっているコイツの仲間を裏庭に運んでおいてくれ」
「了解した。マスター」
「エミリア、宿の人に事情を説明してきてくれ」
「はい」
それぞれ指示を出したあと、俺は男と共に本来なら幌馬車を停める予定であった宿の裏庭に向かう。
そして到着したところで――。
「俺の馬車をどうしようとした?」
「いえ、馬車というより宿の利用を……」
「つまり俺達が宿を使わせないように画策したという事か?」
「は。はひっ」
「宿を使わせない理由は?」
「そ、それは……」
「また足を砕かれたいのか? 砕いてヒールをすれば無限にお前は痛みを味わう事になるんだが、それでもいいなら俺は一向にかまわないが?」
「話します! ぜひ! 話させてください!」
「よし、話せ」
人間、正しい付き合い方というモノがある。
真摯にお願いをすれば聞いてくれるものだ。
「じつは、ここら一帯を区画整理することになっているんだ。総督府主導でな」
「つまり地上げ屋か」
「地上げ屋?」
「――お前が気にすることない。――で? 誰に命令されているんだ?」
「うちのボスだ。総督府が区画整理のために、低い建物を潰して高層建築を作るために高値で土地を購入するという話を掴んで……」
「それで嫌がらせをしていた訳か」
「そうだ……」
「それにしても、俺に喧嘩を売ってくるとは馬鹿な事を仕出かしたな」
「ふん。こっちだって貴様らのような頭のおかしい奴に、関わりたくなんてない! ぎゃあああああ」
おっと、思わず足を踏みつけて右足の甲を踏み砕いてしまった。
俺は倒れ込む男の首を掴み持ち上げて倒れるのを防いでやる。
「ヒール」
「あ、足が……、治った……!?」
「――さて、こっちの戦力は理解したな? 俺達から手を引くか、それともお前達の組織を壊滅させられたいのか好きな方を選べ」
「ふん! 粋がっているの今のうちだ! 銀の宿泊亭の――、ミエルの母親を俺達は拉致しているんだぞ! 俺達が戻らなかったら……」
「なるほど」
だいたい理解できてきた。
コイツが俺に事情をペラペラと話したのも、絶対に勝てるという切り札があったからだろう。
それにしても、カウンターの女の子の名前を確認しなかったがミエルという名前なのか。
「つまり母親を拉致されたのを知った上で、ミエルは何も出来ないということか」
「いや、ミエルは母親が俺達の組織が拉致したということは知らない。行方不明という事になっているがな! あと父親は、もう――」
その言葉に、俺は男の首を持ったまま持ち上げる。
「もしかして、ミエルの父親にも何かしたのか?」
「な、なにもしてないが――、瘴気に宛てられていて、どっちにしても長くは生きられない」
「つまり、宿は子供一人では切り盛りすることはできない。どちらにしても時間の問題だったわけか」
「ははは。分かったのなら、手を離せ!」
「いや、気が変わった。その母親を拉致している場所まで案内してもらおうか?」
「正気か? 貴様! いくら貴様が強くても――」
「関係ないな」
まったく、どうして次から次へと問題に巻き込まれるのか。
とりあえず、さっさと問題を解決して、ゆっくり休みたい気分だ。
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