第99話 城塞都市デリア(5)

「カズマ。ミエルさんに事情を説明してきました」


 丁度、男――、デジルというゴロツキと話が終わったところで、エミリアが宿の裏庭へと入ってきた。


「そうか。ミエルは何と?」

「あの……、お客さん」

「連れてきたのか」


 いま、宿の裏庭は凄惨な状況へ様変わりしている。

 リオンに運ばれてきた30人近くの男が意識を失い倒れているだけでなく、俺がお話をしていた男は血塗れで倒れているからだ。


「ヒール」


 とりあえず傷口だけは治しておく。

 

「迷惑をかけてしまい、ごめんなさい」

「気にすることはない」


 頭を下げてくるミエルという宿を一人で切り盛りしている少女。

 ただ、一つ言えば子供が宿を何とか体裁だけでも保てていたのは、殆ど客が来なかったからだろう。

 通常であるなら、子供一人で宿の運営なんて出来る訳がないからな。


「リオン、お前は、中庭の連中がおかしな気を起こさないように監視していろ」

「了解だ。マスター」

「カズマ、何か分かったんですか?」

「まぁ、だいたいな。ミエル、母親が行方不明になってから5日が経過したと聞いたが本当か?」

「は、はい……」


 コクリと小さく頷く少女。

 その様子に俺は後頭部を掻きながら、エミリアの方を見る。


「カズマ。もしかして――」

「ああ、事情はあとで説明するが、こいつらは銀の宿泊亭を潰して総督府に高く売りたいらしいな。それで、邪魔な上物を壊す前に、宿を切り盛りしていたミエルと、その両親を追い出そうとしたみたいだな」

「――そんな!」

「それじゃ……、お母さんは……」


 憎しみの篭った瞳でゴロツキ達を見るミエル。

 そして、それはエミリアも例外ではなかった。


「カズマ、それではご両親は――」

「父親の方は療養していると聞いたが、母親の方は拉致監禁しているようだな。父親が療養しているというのは本当なのか? ミエル」

「は、はい……。お父さんは、瘴気に宛てられて意識不明の重体で……」

「瘴気の話は聞いた」


 瘴気は、アルドガルド・オンラインの世界において魔物が生まれる元凶となる毒という設定になっていた。

 そして瘴気は魔界の空気そのもので、草花を枯らし動植物を魔物に変える力があると設定も存在している。

 つまり、かなり有毒なものだ。

 もし人間が大量に吸えば魔物化する事もありうる。

 しかも意識を失った化け物に――。


 ただ、そのことをミエルに話す必要はない。


「とりあえず、ミエルの母親を救い出したいと思うが――」

「え?」


 呟きながら大きく瞳を見開き、俺の方をみてくるミエル。


「そんなに意外か。もうすでに、こいつらは俺に喧嘩を売ってきたからな。売られた喧嘩は買う。そして、すでに、ここからは俺の喧嘩だ」

「――いえ。私達の喧嘩ですよね?」


 エミリアが怒った眼差しで、俺に問いかけてくる。

 




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