第186話 砂漠の町前哨戦(1) 第三者side

 ――燃え上がる城門。

 それを見ながら、異世界から勇者として召喚された男――、高山浩二は歯ぎしりする。

 

「茜が行方不明になったというのに、どうして俺がこんな地方都市を攻めなければいけないんだ」


 苛立ちを隠す素振りすら見せない言葉。

 その様子に周囲の魔物たちは体を硬直させる。

 それは、そのはずで、高山浩二の身体は、すでに人間からは掛け離れており、人間の肌はドス黒く変色し、体躯も3メートルを超える。

 さらに腕の太さは、女性の腰ほどもあり、目は赤く濁り、爬虫類のように瞳には縦筋が入っていた。

 そして何よりも――。


 高山浩二という男は、赤い血肉を口に運んでいた。

 それは、魔物・人間を含めた生物の肉を凝縮した塊。

 あまりにも凄惨な食事に、さすがに多くの魔物たちは恐怖を抱いていた。

 魔物よりも魔物らしい元・勇者。

 魔物に転生する際に、人の心の内が、大きく影響を及ぼすという呪法であったが、その影響をもっとも受けた勇者3人組の一人。


「おい! まだ、エイラハブの町は攻略できないのか?」

「人間どもの抵抗が強く――」


 最後まで言い終える前に、立ち上がった高山は、オーガの頭を握りつぶし口に運び咀嚼し、骨を吐き捨てる。


「まったく役に立たないゴミ共だ。これじゃ世界を手に入れるまで暇すぎるだろうが!」


 高山は、尻尾を器用に使い、砂漠に突き刺していた勇者の剣「ブレイブ・ソード」を掴むと、上空へと放り投げる。

 柄から切っ先まで2メートル近い大剣は空中で回転し落ちてきたあと、高山の手に納まる。


「仕方ねーな! 俺が、全員、殺してやるか!」


 高山が、一歩踏み出すと、その殺気により魔物たちは怯え左右に分かれていく。

 それは、まさしくモーゼが海を割ったかのように。


 エイラハブを守っている城壁まで、あと数十メートルまで、高山が近づいたところで、一斉に城壁の上から矢が放たれ高山へと振ってくるが――。


「くだらねぇ。スキル発動!『ブレイブ・バースト!』」


 横薙ぎに勇者の剣を振るう元・戦士の高山浩二。

 その斬撃により、衝撃波が放たれ彼に対して向かってきた矢が空中で全て粉砕される。

 さらに威力は衰えず、エイラハブの町を守っていた城壁の一部を消し飛ばす。


「ハハハハハッ! 弱い! 弱すぎる! お前らは、何をしていたんだ! 10万もの魔物を連れてきて、10万もの魔物が落とせない砦が俺様にかかれば一瞬だ! これが、神に選ばれた勇者の力だ!」


 高らかに叫ぶ。

 そう、高山は笑いながら天を見上げ大声で――。


「どいつもこいつも雑魚ばかりだ! それなのに、俺達を人間は認めようとしなかった! そう! 世界が間違っているなら、俺様が正さないといけないよなあああああああ!」


 城壁が消失し、落下した兵士に手のひら向ける高山。

 そして、腕を数十メートルほど伸ばすと態勢を整えようとしていた女兵士の頭を掴むと腕を縮める。

 ほんの一瞬の出来事。


「ヒッ!」


 一秒にも満たない時間で、魔王軍四天王であり元・勇者に捕まった女兵士は、あまりにも醜悪で、殺意に染め上げられた高山浩二の眼を見て恐怖のあまり声を上げたが――、その声は絶叫に塗り替えられた。


「まずい……。やはり鍛えた肉は女でも不味い」


 胸元を食いちぎり咀嚼された事で即死した女兵士の亡骸を高山はゴミのように砂漠の上に捨てる。


「まぁいい。戦いに加わっていない生きのいい女子供の肉だってあるだろうよ。お前達! 人間は、全員皆殺しだ!」


 狂気に支配された声で、叫ぶ高山浩二の命令に、魔王軍は一斉にエイラハブの――、城壁が破られた箇所へ向かって突撃を開始した。





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