第232話 沈黙の洞窟

「沈黙の洞窟か」

「流石はカズマ殿、博識でございますね。さすがは地竜の主だけはありますね」

「水竜たる妾の主でもある!」


 後ろから馬の手綱を引いて付いて来ていたリオンが誇らしげに胸を張りながら叫ぶ。


「す、水竜とは……まさか……」

「うむ。ハイネの湖を住処としていた水を司りし偉大なる水の竜たる妾! エンブリオン! それが妾の本当の名である!」

「――わ、我も! 地竜ウェイドルザークである!」


 二人の自己紹介により沈黙の洞窟に入る前に凍り付く場の空気。

 お前らは、この世界では最強の四竜なのだから黙っていろ! と、突っ込みを入れたかったが、もう今更だろう。


「ほ、本当で、ございますか?」


 顔を真っ青にして――、というかダークエルフなのだから、そこまでは目立たないが、如何にも血色の悪い表情で俺を見てくるカレン。


「ああ、本当だ。特に危害を加えるような真似はしないから気にしないでくれ」

「わ、わかりました。ウェイドルザーク様は、前科がありますから、あれですけど……」

「なんだと!」

「イドルは、もう少し落ち着いた良いのではないか?」

「なんじゃと! リオン!」

「イドルもリオンも落ち着け。そして迷惑をかけるな! 特に俺には!」

「申し訳ありません。マスター」

「主様、申し訳ありませぬ」

「まったく……、すまないな。カレン」

「いえ。こちらとしても、まさか伝説の四竜のうちのお二方が来訪されるとは思いませんでしたので……」


 たしかに、ダークエルフのカレンが言う通り、本来であるならば四竜は自分達の住処から移動することはない。

 とくにゲームの世界では、イベントの時くらいしか専用MAPに出現することは無かった。

 なのでダークエルフ達が驚いているのも、仕方ないことだ。


「気にするな。非は、こちらにあるからな」

「わかりました。――では、ご案内します」


 ダークエルフ達に案内されて、沈黙の洞窟に足を踏み入れる。

 ゲームの世界の設定では、暗殺者たちの村へと通じる洞窟であり、ダークエルフ以外が足を踏み入れた場合は、命を無くすというテキストが存在していた。

 生きた者が足を踏み入れ確実に命を落とす。

 言葉を発していた者は、モノ言わぬ躯と化す。

 だからこそ『沈黙の洞窟』という設定でゲーム内では呼ばれていた。




 ――スキル『罠感知LV1』を取得しました。




 洞窟に足を踏み入れた途端に、スキルを獲得してしまった。

 俺は念のためにスキル『罠感知LV10』へ引き上げ、パシップ設定にする。

 それと同時に洞窟の至るところに光る場所が表示されると共に、どんな罠なのかがテキストとして表示される。


「なるほどな……」


 至るところに致死性の罠が仕掛けられている。

 いまの俺のレベルなら、とくに問題ないが、この世界の一般人なら即死するレベルの代物だ。


「どうかなさいましたか? カズマ殿」

「――いや、何でもない」


 俺の呟きをダークエルフの聴覚が拾ったのか問いかけてきたが俺は誤魔化しておく。


「そうですか」


 頷くカレン。

 それから互いに何も話さずに歩く。

 時折、カレンは立ち止まり何かを確認し、また歩き出すということを繰り返していることから、何か目印があるのかも知れないな。

 俺達一行は、沈黙の洞窟に入り1時間ほどで、洞窟を抜ける。

 そして地底の大空洞に足を踏み入れた。

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る