第178話 VS 地竜ウェイザー(1)

 視界内に表示していたエミリアの光点が移動したルートではなく、一直線にエミリアの元へと引き上げたステータスのまま走る。


 ――スキル『疾風迅雷LV1▲』を習得しました。

 ――スキル『砂上踏破LV1▲』を習得しました。

 ――スキル『空間把握LV1▲』を習得しました。


 視界内に開いた半透明のプレートに習得したスキルログが流れる。

 それを確認しながら全てのスキルのレベルをMAXの10まで引き上げ、さらに加速する。


「マスター」


 後ろから、付いてくるリオンが苦しそうな表情で追ってきているが、徐々に距離が離れていく。


「あまり無理をするな」

「いえ。マスターの従属として、奥方様を守れなかった妾は――」

「そうか。なら、気合でついてこい」

「はっ」


 もう俺は、リオンの方を振り返らず砂漠の上を走る。

 

「光点が停まった? もうすぐか!」


 距離としては10キロほど。

 その程度なら、いまの俺の移動速度ならわけない。

 目的地まで、距離が近づいていく。

 そして目的地と思われる場所が、視認できる場所まで来たところで、数百メートル先の眼下には、巨大な遺跡の影が見えた。


「あれは……」


 その遺跡の形には見憶えがある。

 たしか……、魔の祭壇と呼ばれる場所だったはず。

 それは、アルガルド・オンラインの世界において悪しき魔法を覚える為の祭壇がある場所で、クラスではネクロマンサーなどがよく根城にしていた記憶がある。


「何故、魔の祭壇に……」


 エミリアが、どうして魔の祭壇に連れてこられたのか分からない。

 だが――、ゲーム内では少なくとも邪神と関係のあるイベントではよく利用されていた。


「地竜ウェイザーは何かを企んでいると見た方がいいな」

「マスター」

「追いついてきたか」

「はっ。それよりも、ここは……、魔神様が降臨された場所では……」

「魔神が?」

「はっ」


 魔神か。

 この世界の善なる神と対を成す存在であり魔族の神。

 そして四竜を作り存在。

 それが降臨した場所となると……。


「急ぐぞ」

「はっ」


 リオンを連れだって俺は魔の祭壇の遺跡へと向かおうとしたところで、目の前の砂漠が突然持ち上がる。

 

「――ッ」


 思わずバックステップで距離を取る。

 リオンも俺の後方に居た事で何とか反応できたようだが――。


「地竜が直接、俺の目の前に来るとはな……」

「ほう。水竜エンブリオンが、性懲りもなく追いかけてきたと思ったが……」


 二足で砂漠の上に立ち、頭上から俺を見下ろす地竜の目。


「まさか人間如きが、この場所に足を踏み入れるとはな……」

「ウェイザー! マスターに向かって、そのようなモノの言い方は!」

「なるほど……。このような矮小な存在を、水竜たるお前がマスターと呼んでいたのか」

「何!?」

「四竜が人間如きをマスターと呼ぶとは……、落ちたモノだな。エンブリオン」

「何を!」

「リオン! これは俺の戦いだ。手を出すな」


 俺は、右手でリオンとヴェイザーの会話を断ち切り、頭上から見下ろしてきているウェイザーを睨みつける。


「エミリアをどうした?」

「人間には関係のないこと。いま去るのなら、生かしてやってもよいが?」

「そうか」


 どうやら話をしても時間の無駄のようだな。

 なら――。


「俺のエミリアに手を出しておいて、ただで済むと思っているんじゃないだろうな?」


 




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