第146話 砂上の戦闘(5)

 街の全体像が徐々に見えてくる。

 もちろん、幌馬車のハーネスを握って引いているのは俺であり、幌馬車の中にはエミリアとリオンが居たりする訳だが……。


「マスター」


 時折、リオンが捨てられた仔猫のような表情で俺に話しかけてくる。

 

「妾が、人間以外に化生出来るのなら問題は……」

「気にするな。そもそも、こうなる事を俺は想定していたからな」

「さすがはマスター。ならば、妾に最初に言っておいてくだされば……」

「ふっ……」


 実際は、まったく想定はしていなかったが、少しだけ見栄を張ってしまったが、それを指摘するような野暮な者は俺のパーティにはいないので、問題はない。

 しばらく、幌馬車を引いているとエイラハブを囲っている石組みの城壁が見えてきた。

 城壁の色彩は、砂漠の特色であるクリーム色。

それは石に含まれている鉱石の含有量が違うのだろう。

 近づくにつれ石と石の間にはつなぎ目が多く見られたので、接合材のような物が使われているようには見受けられない。


「経済的に、あまり豊かではないのか?」

「そんな事は無いと思いますけど……。どうしてですか?」


 思わず呟いた言葉にエミリアが反応する。


「いや、街を守る城壁が見えるだろう?」

「はい」

「本来、城壁というのは自然災害などの防波堤を担うものだ。まして、ここは砂漠だからな。砂塵などを守る為には、きちんとした作りをするのが当然なんだが……」

「そうなのですか」


 まぁ、俺もうろ覚えだが……。

 それに、アルガルド・オンラインの世界では魔物も存在している。

 そうなれば城壁の質の有無は死活問題の何物でもない。

 事実、城塞都市デリアもハイネもケインであっても城壁の作りだけはきちんとしている。

 だからこそ、こんな砂漠のど真ん中に存在する街の城壁の出来には違和感があった。


「でも、経済的にというのは……」


 目を伏せて、何か言いたげな素振りを見せるエミリア。

 ただ、その言葉は続かない。

 何か言い難そうな雰囲気であり、俺も敢えて聞くようなことはない。

 誰だって言いたくない事の一つや二つはあるからな。


 幌馬車を引いて10分ほど。

 底上げしたステータスと、何時の間にか取得していたスキル『馬車うま』というスキルで、何とか街の城門前までたどり着く。

 

「しかし、見張りの兵士もいないのは不用心だな……」


 一応、周囲を確認するが城壁から街の中に入る為の門を見張っていなければおかしいはずの兵士がいない。


「リオン、エミリア。少し、街の様子を見てくる」

「マスター、それでは妾が」

「お前は、エミリアと幌馬車を守っておいてくれ」


 エミリアの態度からしても、エイラハブの街には何かがあるように感じてしまうのは、俺の考えすぎかもしれないが、用心に越したことはないだろう。


「了解した。マスター」

「気を付けて行って来てください」


 リオンとエミリアに見送られるようにして、俺はハーネスから手を離し、幌馬車から離れる。

 そして、5メートル近い城壁を見上げてから跳躍。

 一足飛びに城壁の上に降り立ったところで、俺は目を見開く。


「魔物の襲撃か?」


 エイラハブの街の北側――、つまりリーン王国の王都側から火の手が上がっているのが視界に入ってきた。





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