第69話 ハイネ城炎上!(16)

 結界から外に出たところで、横たわっているエミリアの姿を確認する。

 とくに見た目には怪我などは無く、意識を失っているだけで、呼吸も安定している。


「魔神様」

「これからは、カズマと呼べ」

「はっ――、申し訳ありませぬ」

「仰々しい話し方も必要ない。もっと砕けた口調で話せ」

「分かりました。それよりもカズマ様。この者は、カズマ様の――」

「俺の妻だ」

「何と――、奥方様でいらっしゃいますか。それでは、我が主も同然」

「分かったなら、お前が水竜だということを隠しておけよ? その姿でずっといるように」

「分かりました」

「それとエンブリオン」

「はっ」

「これから、お前の名前はリオンな」

「私の真名は……」

「分かっている。だが、もしエンブリオンの名前を知っている奴がいたら厄介だからな」

「分かりました。カズマ様」

「様付けは止せ」

「では、マスターと」

「もう好きにしろ」


 俺は、溜息をつく。

 とりあえず水竜を味方というか配下にすることは出来たが、これをどうハイネ領主に説明するべきか。


「とりあえず、神殿から出るぞ」

「御意に――」


 エミリアを抱き上げて、リオンを連れたまま湖底から上がっていく。


「マスター」

「何だ?」

「人の気配はしませぬが、膨大な量の亜人が近くに潜伏しているようですが、どうしますか?」

「どういうことだ?」

「向こうをご覧ください」


 リオンが指差す方向。

 それはハイネ城の方角であり――、ハイネ城は、炎に包まれて燃えている。


「――おい」

「妾は何もしておりませぬ!」

「本当だろうな?」

「魔神様の名にかけて」

「――なら……」


 俺は、『イーグルアイLV10』を発動しつつ、ハイネ城の方へと再度、視線を向けるが、距離が遠すぎる。


「さすがに……」

「マスター、どうやら空飛ぶ亜人種が城を攻撃しているようです」

「そうか」


 さすがに腐っても最強のモンスターと呼ばれている4匹の内の一匹。

 

「とりあえず、いくか」

「人間を助けにですか?」

「当たり前だ。依頼が残っているからな」


 俺はエミリアを抱きかかえたままハイネ城へと走る。

 数分走ったところで、ようやくハイネ城を攻めてきている魔物の姿が視界に入る。


「あれは――、サキュバスか?」

「サキュバスクィーンもおりますな」


 俺の視線の先には、青白い肌をした露出のえげつないビキニを着た女たちが空を飛び回り城へ炎の魔法を放ち続けている。

 そして、その中に、一際――、立派なバファローの角と尻尾を持った青い肌の女が巨大な炎の塊を作り出し城へ向けて放っていた。


「あれがサキュバスクィーンですぞ。マスター」

「ああ、何となく理解できた。――それと……」


 ――なるほど……。

 俺は思わず歯ぎしりする。

 こんなに早く会えるとは思っても見なかった。


「なあ――」

「はっ……」

「人間が魔物化することはありうるのか?」

「心が腐りきった者ならば、魔の核を受け入れる事が出来る器さえあれば、魔に反転し魔物化することも可能ですぞ」

「なるほどな……」


 俺は、ハイネ城に向けて高笑いしながら炎の魔法を連発し城を破壊しているサキュバスクィーンを見ながら口角が上る。

 それは、空を滑空している魔物。

 そして――、俺を殺そうとした女。


「リオン」

「はっ」

「エミリアの護衛を任せた」

「マスター! それでは、妾の立場が!」

「命令だ。アイツは俺が殺す。リオン、貴様の仕事はエミリアを命をかけても守り通すことだ。分かったな?」

「承知!」


 俺はエミリアをリオンに任せたあと、視界内に表示されている魔法欄を高速に開いていく。

 それと共に城へと向けて一歩ずつ近づいていく。


「皆月茜。今日が、貴様の最後だと知れ!」


 

  

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