第209話 王都リンガイア(8)第三者視点
王都リンガイアの城壁を舞台にした戦いは東西南北の城門だけでなく、小さな門を含めると数十あり、それら全てが同時に戦闘を開始した。
人口20万の王都を守る騎士団や兵士、そして冒険者や自警団の数は5万を超すが――、100万を数える魔王の軍勢の前には、着実に、その数を減らしていっていた。
「まさか……、これほどの数を投入してくるとは――。まだ大国アルドノアを狙うなら、この数は、理解はできる……。だが――」
リーン王国の元・宮廷魔術師であるラウルフは、膨大な津波のように押し寄せてくる魔物の群れに攻撃魔法を放ちながら歯ぎしりをする。
一匹一匹の魔物の強さは、騎士団でも対応できるほどであった。
ただ、その数は尋常ではない。
王都の人口の5倍以上の数。
正確な数をリーン王家は把握出来てはいなかったが、実際に自身の目で見た威圧はすさまじいモノであった。
次々と落とされる投石。
さらに茹った油が城壁の上から下へとぶちまけられる。
数千、1万近い魔物が短時間で絶命するが、それでもまったく魔物の攻め! という勢いに衰えはない。
「このままでは……」
次々と齎される情報により、どこの城門も小さな門も死守するのが精いっぱいで、元・勇者へ討伐を送る余裕はなく、それどころか虎の子として用意していた高位の冒険者までも投入し守らなければ、どうにもならない程、絶望の縁に立たされていた。
「仕方ない。大規模攻撃魔法を使う」
すでに攻城戦が開始してから数時間が経過し疲労困憊な弓兵たちに代わり、少しでも敵の脅威を減らせればと、詠唱を開始する。
ラウフルの詠唱に伴い大気は湿り気を帯び、上空には雷雲が形成されていく。
「ライトニング・クラウド!」
ラウフルの手持ちの魔法の中でも最強に位置する広範囲雷撃魔法。
それらが1000を超える魔物の群れを一掃していく。
「――なんだ。人間の中には、多少は使える奴がいるみたいだな」
極大雷撃魔法を放ったことで魔力の殆どが枯渇しかけたラウフルの体は、悪意に満ちた声を聴いたと同時に空中を舞い、城壁の上の通路を転げる。
「――っ! い、一体、何が……?」
意識外からの攻撃。
それは完全に虚をつくモノであったが、辛うじて事前にかけておいた防御スペルによりラウフルの体は、数本のあばらが折れる程度のダメージで済んでいた。
「ほう? 俺の攻撃を受けて生きていられるとは、お前! 強いな!」
体高が3メートルを超す白い虎の体を持ち両足で立っている魔物。
「まさか……四神の力を――」
「ほう。知っているのか? それなら、話は早い」
「貴様が、貴様が!」
「ああ、俺が勇者だ。貴様らが異世界から無理矢理召喚した元・勇者の金子隆だ!」」
その言葉と同時に金子の体が、ラウフルの視界から消え――、数十メートルの間合いを一瞬で積めるとラウルフの正中に拳を叩きつけていく。
攻撃を防御魔法で防いでいたラウルフであったが、最後の防御スペルが砕かれると同時に壁に叩きつけられる。
血を吐き倒れるラウフルの頭に足を乗せる金子。
「――さて、貴様を殺せば、この戦いも、これで終わりか? 人間の癖に良く頑張ったと褒めてやろう。あの狂った女神の従僕の分際にしてはな!」
足に力を込めていく金子。
すでに周りの兵士達は金子の遠距離の遠当てという遠距離の拳攻撃に倒されており、誰一人助けに立ち上がる事が出来る者はいなかった。
「さて、死ね!」
声高々に、ラウルフの頭を踏みつぶそうとしたと同時に、城壁と城門を攻撃していた魔物の群れの一部が唐突に爆発し数十の魔物が空中へと放り出される。
「――な、なんだ……何が起きた?」
ラウフルの頭から足を退ける金子。
そして彼は視線を爆発が起きた場所へと向ける。
するとそこに20歳前後の金髪の女性が立っており、何かしらの魔法を展開すると同時に地面が爆ぜ、魔物を次々と屠っていく光景があった。
「誰だ? あれは……」
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