第190話 砂漠の町前哨戦(5) 第三者side
「ふん、ラッセルのやつ、ずいぶんと囀っているようだな」
「そうなのですか? 竜人様」
「ああ、――って、どうしてお前がここにいるんだ? ガルーブ」
人間の血液を濃縮させワインと混ぜた独特の香りのする血のワインを口にしながら、一人呟いていた高山浩二は、自身を竜人と呼んだ者へと視線を向けていた。
「我が主、カネコより竜人様に何かあれば手助けをするようにと仰せつかっておりますゆえ」
「ふん。必要ない」
「分かりました。では――」
「ああ。金子には、ハイネの町を落すように伝えておけ。茜が、あの町で行方不明になっているのは確かなのだからな」
「御意に――」
立ち上がるガルーブという男の頭には羊のような角が生えており、顔以外は猿のそれであったが、顔だけは美男子そのものであった。
「まったく……」
蝙蝠の翼を生やし飛んでいくガルーブの後ろ姿を見て高山浩二は「人間の顔の皮を剥いで被ることに何の意味があるのか……」と、何の感慨もない言葉を彼は呟く。
その頃、エイラハブの町では既に形勢は決しようとしていた。
城壁の上には無数に転がる人の頭。
その数は100を下らない。
さらに右腕を失ったベルガルが片膝を回廊につき、自身の片腕を奪ったラッセルを見上げ睨んでいた。
「この私に背中を見せずに抵抗してきたことは美しい。だが――、愚か! 愚か! 愚か! 愚か! 愚かである!」
「ふん、どちらにしても貶めるのだな」
「貴様ら人間もよく行っている行為! ――それは総意! ――それは当然!」
面白おかしく笑う。
それは、道化のように。
そんな姿を見ていて、ベルガルは血反吐を吐きながら、疑問に思っていたことを聞くことにする。
どちらにしてもベルガルの寿命はもって数分。
聞いても意味はないが、町を襲ってきた理由だけは知りたいと思ったのだ。
しかも大軍を擁してまで襲ってきた理由を、どうしても……。
「しかし、貴様らの目的は一体何だ? どうして、こんな町に攻めてきた」
「ふむ……」
そこで声を出し笑っていた道化であるラッセルが黙ると周囲を見渡す。
「たしかに……、今回は意味がなかったようだの」
「どういうことだ……」
「決まっている。このような些細な町に魔王軍が大軍を持って攻めてくると本当に思っているのか?」
「なん……だと……!?」
「まぁ、貴様の命もあと少し。冥途の土産に教えてやろう。この町には、この世界の理から外れた者がいると報告があったのだ」
「何? どういうことだ?」
「貴様も知っているだろう? 異世界から召喚された勇者というのを」
「まさか……」
「そう、そのまさかだ。この国に連れて来られた者がいたのだよ。異世界から来た者がな」
「……つまり、貴様らの目的は……」
「そう。この町でなく異世界からきた者を抹消しにきたのだ」
「なるほどな……。だが――」
「分かっておる。もう、ここには居ないというのだろう?」
「……」
黙り込むベルガル。
「まあ、よい。そのままでも出血で死ぬが、私の鎌で、その命刈り取ってやろう! 神の慈悲でな!」
ベルガルの首に目掛けて振り下ろされる漆黒の鎌。
それは確実に人の首を刈り取る軌道を描き振り下ろされ――、甲高い音と共に鎌は吹き飛ばされた。
「――なっ!?」
顔を上げる。
その白い仮面をかぶった顔を。
ラッセルの視線の先――、そこには……。
「何とか間に合ったようだな」
「カズマ……」
何かを投擲した様子のカズマが立っていた。
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