第189話 砂漠の町前哨戦(4) 第三者side

 油が撒かれ火が付けられた事で、炎上し続けることにより炎の壁へと変った場所を見ながら、目を細める竜人はニヤリと笑う。


「なかなか出来る奴がいるな」


 不敵な笑みを浮かべる高山浩二は燃え盛る炎が壁を作っている場所を見ながら立ち上がると腕を頭上へと上げたあと下す。

 それは魔物に進軍せよ! と、意味合いが込められていた。

 エイラハブの町を囲っていた10万を超える魔物の群れは、一斉に壁へと突っ込んでいく。

 もちろん、炎の壁に突っ込んでいくものも居り、次々と炎に焼かれ絶命していく。

 さらに、壁へと取りつく魔物には冒険者や兵士達から矢や魔法が放たれていく。

 そして――、最初こそは防御側の反撃は勢いがあったが……。


「物量の差と言う奴だな」


 10万もの魔王軍に対するは1000人にも満たない兵士や冒険者の混成軍。

 しかも魔物の中には、サンドドラゴンや、サンドタートルなどという体長10メートル近い竜種も存在しており、その進軍を食い止めることは、エイラハブの町の戦力だけでは事実上不可能であった。


「……な、……なんと……、何と言う数だ……」


 ベルガルは、あまりにも絶望的な状況に項垂れるように言葉を紡ぐ。

 どれだけ倒そうとも途切れない魔物の攻勢。

 城壁の上から見る限り、視界におさまりきらない程の魔物群れ。

 さらには、一向に動こうとしない勇者。


 ベルガルは完全に勇者に舐められていると感じながらも、どうしようもできない状況に歯ぎしりする。

 最初こそ、冒険者や兵士達は優勢に反撃をしていたが、次々と炎の壁を突破してくる竜種相手に手一杯であり、すでに城壁下の城壁が崩れた個所の防衛網は、ほぼ壊滅していた。


「うわあああああ」

 

 声がした方へとベルガルが視線を向けた時には、城壁上には砂漠に住む体長2メートルほどのサンドウルフが数匹昇ってきており弓を構えていた兵士を咀嚼していた。


「ばかな! 一体、どこから!?」


 ベルガルは、城壁に立てかけておいた槍を手に持ち兵士を喰らっていたサンドウルフの腹部目掛けて槍を突きだし、サンドウルフを屠り、城壁の外へ捨てる。

 そこで彼は見た。


「そういうことか……」


 無数の魔物死体。

 それらが積み重なり、高さ5メートル以上もの城壁を登る死体の階段を築いていたことに、彼は――ベルガルは気づいた。

 もはや、城壁は落ちたも同然であり、城壁の上には数十もの兵士や冒険者の死体が転がっていた。

 さらに、武器や防具で武装する砂蜥蜴の兵士達までもが、死体の山を上がってくる。

 砂蜥蜴の兵士は、普通の兵士よりも戦闘力が高く、彼らが城壁上に辿り着けば、手練れの冒険者や兵士以外は殺されるしかない。


「撤退だ! すぐに撤退だ!」


 ベルガルは大声で命令を下す。

 城壁は落ち、下では竜種が暴れまわり、市内へ入る防衛網は半壊状態。

 どう見ても防衛はできない。

 あとは無駄死にするだけ。


 ベルガルの命令に、次々と冒険者や兵士が城壁から逃げようと階段を降りようとするが、突然、階段を降りようとしていた冒険者達の頭が空中を舞う。

 そして、胴体が力無く階段から転げ落ちていき血飛沫を周囲に撒き散らしていく。


「――な!」

「ひいいい。死神だ! 死神のラッセルだ!」


 ベルガルの声と共に、周囲から悲鳴の声が上がる。

 それら悲鳴を上げた冒険者や兵士の頭が次々と空中へと舞い上がっていく。


「まさか……勇者だけなかったのか……」


 兵士や冒険者の首を刈っていく死神。

 それは、魔王軍参謀の一人であり、神々の人柱であり闘神と呼ばれる存在。


「戦いから逃げるなぞ、美しくない! ああ、美しくない! 人間は、死こそ美しく至高! さあ、人よ! お前らの原罪の悲鳴を聞かせておくれ!」


 長さ2メートルを超える持ち得に1メートル近い歪曲した刃の鎌を持った白い仮面をかぶり白のタキシードを着こなした青年声の男は、歌うように言葉を紡いだ。






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