第256話 王城での謁見(13)

 ざわつく謁見の間。

 大変に! 本当に! 居た堪れない!

 顔を伏せたまま、チラリと横に座っているエミリアを見れば、彼女は顔を上げて誇らしげに――、そしてドヤ顔している。

 まるで俺がおかしいのか? と、思うほどの自信を表情に貼り付けていて――、


「つまり……番ということか?」


 誰かが、――否! 両脇に並んでいる王国の重鎮たちの中から、そんな言葉が飛び出した。

 番って言葉……。

 やはり、獣人族だなと変に納得しつつも――、


「そうですか……」


 何と言うか、女王陛下と言えば静かにエミリアの言葉に相槌を打っている。

 それでいいのか? それで貴族とか重鎮は納得するのか? 俺は、思わず心の中でツッコミを入れるが、「一国の王女の言葉とは到底思えない!」と、言う言葉が、両脇に並んでいる獣人の中から聞こえてきて「確かに!」と、俺は思わず心の中でだけで頷く。


 事前に、俺とエミリアの仲を知っているのだから、もう少しオブラートに話を進めてくれてもよかっただろうに。

 俺が、大人しく批判を受けていた意味が、まるで無くなってしまったのは如何にして!?


「エミリア」

「はい」

「獣人国の貴族や王族が、人間族を伴侶とする場合、どういう仕来りになっているか理解はしているのでしょうね?」

「分かっています。貴族なら自身の治めている領民。王族ならば王国民に納得してもらう方法をとるということですね?」

「分かっているのならいいわ。カズマ殿」

「はい」

「カズマ殿は、Sランク冒険者として武勇に優れていると、報告を受けています。よって、貴殿は力を示さなければいけません」

「力? 獣人の戦士と戦えと?」


 コクリと頷く女王陛下。

 ここまでは、大体の話の流れは事前に話した通りだ。

 途中経過は色々と問題は大いにあったが……。


「それでカズマ殿は、よろしいかな?」


 女王陛下の近くに立っていた狼の顔をした獣人が確認してくる。


「ああ。構わない」

「そう。それでは、本人の承諾も得たことですし――」

「お母さま。それよりも条件は? 今まで、王家と婚姻を結ぼうとした人族の者はおりません。王国民を納得させる為の条件を提示して頂きませんと――」


 エミリアが慌てた様子で、女王陛下に語りかける。


「そうね。宰相!」

「はっ!」

「ワーフランド王国法では、貴族と婚姻を結ぶ際に、男であるのなら領民を納得させる為! 領軍――、つまり結婚する貴族が有する軍と戦うことが習わしとされています」

「――なっ! ――お、お母様! そんな話! 私は知りません!」

「そうかしら? 宰相」

「はっ! このワーフランド王国法は、エミリア様が失踪されてから決まった法です。知らないのも当然かと思われます」


 宰相と女王陛下に呼ばれた者の発言に、困惑した空気が謁見の間に流れる。

 中には、「いつ法が変わったんだ?」と、言いだす貴族もいる。

 これは完全に嵌められたな……。

 そこまでしてエミリアと俺が夫婦なのを否定したいのか……、それとも俺の力が見たいのか……、もしくはこちらの侮っているのか。

 そのどれかだろう。


「詭弁です!」

「やれやれ――」


 俺は許可が下りてない状態で立ち上がる。

 突然の俺の行動に、ざわつく謁見の間。

 そんな中でも俺は気にする素振りもせずに立ち上がったあと、腕を組む。


「いいだろう。俺の力を見せてやるよ」

「カズマ……、いいのですか?」

「ああ。ここまで舐められていて、黙っていると逆に問題だろう?」


 頷くエミリア。

 それと同時に――、


「不敬であるぞ! 貴様っ! 人間の分際でっ!」


 宰相と呼ばれた狼顔の獣人が俺に喰ってかかってくるが、俺は一瞥すらせずに女王陛下を見る。


「ワーフランド女王陛下。俺の力を知りたいのなら、見せてやるよ」


 俺の言葉に、にやりと笑みを浮かべるエミリアの母親。


「聞いたわね? 宰相」

「はい。それでは、王国法によりカズマ殿は一人で! ワーフランド王国の国境警備兵を外した全ての軍と戦ってもらう事になります」

「ほー」

「カズマ殿。了解は得た上での決定です。異論はありませんね?」


 そう女王陛下が提案してくるが、俺は首を振る。


「臆しましたか?」

「――いや、生死についてはどうするつもりだ?」

「そうね。力を見せてもらうのだから生死は問わないという事でどうかしら?」

「お母さまっ!」

「エミリア、貴女は黙っていなさい。いまは雌の出る幕ではないわ。雄が、自身の価値を見せる正当にして神聖な決闘を決める場なのよ?」

「カズマ、国境警備兵を抜いた数となると、その数は1万を超えます! 一人では、とても手が足りません!」

「――問題ない。生死に問わないのならな。女王陛下、それで手を打とう。ただし、俺は一切! 手加減はしないからな。そのつもりで軍隊を集めることを言っておこう」

「ええ。楽しみにしているわ。Sランク冒険者、カズマ殿。王国民を納得させる為に力を見せる用意は2週間後! それいいわね?」

「いつでもいい」

「そう」

「――では、カズマ殿。おさがりください」


 宰相の言葉に、俺とエミリアは謁見の間を後にした。

 



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