俺達の常識はなかなか浅かった件

 開発部を堪能した翌日、岳が待ちに待ったイベントにみんなで行くことになった。

 あまりに開発部ではしゃいでしまったために朝になって本日の目的地を聞く始末。

 いや、俺も沢田も普通にコミケに行くものだと思っていたのだ。

 岳の好きなサークルさんも参加するのは分かっていたのでてっきりそこに行くものだと思っていたのだ。

 だから行先なんて聞くまでもない、はずだったのに!!!


「じゃじゃーん!本日メインイベントはドームで開催の第12回ダンジョンマーケットでっす!」


 俺と沢田、そして護衛という名目の監視役三輪さんと橘さんと並んで堂々と入り口に掲げられた横断幕を見上げながら前もってコンビニで購入しておいたという入場券を手渡されて……


「いや、ちょっと冷静になりましょう!

 あなたたち三人はネットで素顔をさらして動画を上げてるのですよね?!」

「「あ!」」

 それがどういう意味か分かった俺と沢田はともかく

「別に今回は出店側でもなければゲストでもないんだからお店を回って楽しめばいいんだよ!」

 思いっきり純粋に遊ぶ気満々の岳にそれはないわーと思うもすでに気付いた人たちに俺達は遠巻きに見られていた。

 因みに橘さん達は護衛という事でガチ自衛官の格好をしている。ダンジョン対策課のユニフォームで。だけど残念な事にここにはまねをした手作りコスプレイヤーもたくさんいるので彼ら彼女らの斜め上を行くクオリティは本物と素材違いぐらいでしか差はない。ほんとなんでそこまで詳しいのか謎だと相沢は思えばスマホを手にした女の子たちが橘さんに声をかけていた。


「あの、写真いいですか?」

「すみません。写真はNGですので」


 スマホを手にした女の子たちが橘さんに尋ねるも笑顔でスマートにお断り。

 きっとこういうのをモテる男の経験値なのだろう。

 大丈夫。

 俺、自分という人間を良く知っている。

 うん。

 問題ない。

 あれだけネットで騒がれて俺達の事をまとめてくれる動画や俺個人を分析してくれている動画がここ数日ネットで上位を占めていたのにダンジョンマーケットというこの場で注目されたのは橘さんと三輪さん。


 結局顔だよな!!!


 あと服装。

 ゆるーいジャージを着た俺なんてだれも見向きもしない。

 って言うか岳はここぞとばかりちゃんとした格好をしているし、沢田もがっつりメイクの女の子らしい服装をしている。

 俺だけ浮いてしまった結果に誰が批難するだろうか。

 出かけるというのは事前から分かってたとはいえジャージ。

 いかにも寝起きでここまで来ましたと言わんばかりのジャージに少なからずジャージは処分なんて考えてしまったものの俺の心岳知らず。腕を組んで会場に突入することになった。

 

「はー、一面ダンジョン産のアイテムばっかだな。あと冒険者用の装備」


希少価値の高いダンジョン産の素材でできた武器は驚くほどのお値段。

 だけど10階までなら地上で鍛えた武器でも余裕で対応できるからいろんな工業メーカーが軒並み並んでいる。

「へー、使ってるキャンプ用品もある」

 なかなか10階以降は迷子対策も兼ねて解放されないけど俺達が11階以降でキャンプ動画を上げていたせいかキャンプメーカーも参戦していた。

「あー、なんかいい匂いがする!」

 確かに良い匂いがしていたけど沢田が目を光らせたのはダンジョン産のお肉などを使った露店だ。

 ドームという構造上火が使えないのでIHコンロで皆さん料理を提供している。

主にうさっきーの串焼きが一番人気。

 だけどこういうのは雰囲気が大切なので普通にタコ焼きも大人気だ。

 ただどれも長い列ができているので俺達は並ばなかったけど……


「アイザワガクさんですよね!

 めっちゃファンです! ダンジョン踏破おめでとうございます!」


 なんてカレー屋の人にカレーをおごってもらった。

 もちろん橘さん達の分もだ。

 身バレしているとは歩いているだけで分かっていたつもりだがこれだけ混雑した中でもモーゼの十戒のごとく人混みが左右に分かれていくので……

「山に帰りたい……」

「まだこちらでのスケジュールは詰まってますので帰れませんよ」

「スケジュール?!何それ!」

「極秘任務なので詳細は教えられません」

 しれっという三輪さんと視線を合わせてくれない橘さん。

 どうやら俺達の東京遠征はそれなりにこき使われる事となりそうで、きっと今日のこのイベントに遊びに来ることも飴と鞭というやつだろう。


 となればだ。


「岳!遊び倒すぞ!欲しいものは買って食べたいものは食べまくるぞ!!」


 そんな俺の号令にいつの間にかったのだろう。いくつもの紙袋を俺に差し出しながら


「とりあえず預かってて」


 俺が言わなくてもしっかり目的の物は購入している岳の荷物を無の心で収納。

 周囲で感嘆の悲鳴が上がる物の


「次に来れるのはいつになるか分からないからね! 

 相沢もしっかり必要なものは買うんだよ!」

「ああ、うん。だけど頼むから……」

「あー!ハラハラクッキングのブース発見!

 美味しいXのXX部位のXXXX料理の実演だって!

 調理器具の販売もやってるから見てくるね!」

名字で呼ぶのやめて?なんて言おうとしたもののすぐに岳のおぞましい奴の絶望料理に俺はフリーズしたまま手を伸ばすだけで……


「安心して。

 今回は相沢の反応が正しいから。

 さすがに私だって無理だから!」


 低階層に出る黒くてテカテカした奴らの料理なんて俺は見たくも知りたくもないという様に岳を三輪さんに頼んで俺達は設置された特設会場でアイドルを目指す冒険者たちのステージを堪能しながら先ほど見たばかりの光景を忘れるように楽しむのだった。



 もちろんこれがSNSにさらされて、ちょうどそのころ雪軍曹の部下たちによる尊さん強化合宿が繰り広げられてるなんて知らなくて……


 後に


「東京遠征、楽しそうだったな……」


この短期間でレベル20にまで上げられてポチャッとしたおなか周りがシュッとしてガチッとした変貌とどこか誇らしげなイチゴチョコ大福に何があったのか聞けないのはまだもうちょっと先の話。










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