想定外の連続は相変わらず理解不能です

 これはどういうことだ?

 一体どうしてと思ったけど俺達には共通点が一つ。


「「「マゾシューズ!!!」」」

「にゃ?!」


 思わず足元を見てしまえば雪まで泥水の上を居心地が悪そうに歩いてやって来た。


「想像以上に高機能?」


 思わず俺の解釈が正しいか聞くもまさかの正解。

 「これが宝箱から出てきた靴だからか、マゾの皮製品だからかの違いも検証しないとな」

「相沢ってこんな時でも冷静ね……」

 呆れたような沢田の声。だけど俺はこう見えても

「結構動揺してるんだけど」

「だったらそう言う顔をしなさい」

 なんて、一つの危機を脱出してまた浮かび上がる沢田の笑顔につられて俺も沢田同様に笑顔になる物の目の前では岳が剣を構えてマゾと対面している。

 笑ってる場合じゃない。

 床はゆるくて岳のあの雪には劣るけど俺でさえびっくりする瞬発力が生かされないのが酷く残念で


「岳!泥水収納するぞ!」


 なんて声をかける。

 俺達の立ってる泥水の下に岳の武器の大半が沈んでしまっているのだ。

 しかも透明度ゼロ。

 今となっては槍とかの先端が見えるだけ。

 つまり俺達の身長ぐらいは泥水が溜まって居るという事になるとなれば浮力の働きそうもない以上俺達は15階でこの濁流にのみ込まれるとあえなく死亡と言うことになる。

 冗談じゃない。

 圧倒的レベル差でここまで来れたけどあの魔象は明らかに知能が人間レベルに近い状態になっている。

 だってそうだろ?

 そもそも魔物が魔法のキャンセルなんてするのかと考えれば岳から本を借りて以来読み漁った異世界ファンタジーのジャンルに区分される本では大体高レベルの魔物となっている。そう、知能は人間並みに……

 だけど俺は深呼吸を繰り返しながら知能が人間並みとは言え生まれ落ちたばかりの魔物。経験と言うものがない以上とっさの動物的感でしか判断が出来ない。

 つまり……


「勝ったな」

「なにが?」

 

 何を唐突にと言う沢田の疑問に俺は確信を込めた笑みを浮かべ


「岳がかっこいい所見せてくれるってさ」


 意味が分からないと言う顔の沢田だけど、その視線が岳の方へ向いた瞬間から魔象は同じように濁流の上に立つ岳に驚きと怒り、それを超えた憤怒の視線で連続二回は出来ない濁流の代わりに振りあげた鼻で自分を鼓舞するように鳴きながら突進をしてきた。

 ただしそこはこの濁流を生み出した魔象。

地の利はあるようで普通の地面に立つような確かな足取りで突進をしてくる。

 一度でも踏まれたり押しつぶされたり鼻で吹き飛ばされたら即終了の攻撃。

 どう処理をすると言うように眺めていれば沢田が俺のシャツの袖を握りしめていた。


 生まれてから保育園、小学校、中学校、高校と同じ学舎で学んだこの村たった二人の同学年の幼馴染。

 上も下も学年を飛ばしてしかいない中で同じ年という奇跡に姉弟と言うように育った二人。

 俺には分らないような、分かりたくないようなそんな嫉妬。 

 二人と居る時どうしても混ざりきれない孤独を感じる瞬間でもあるけど、二人が俺を手放してくれないからここが居場所だと言うように甘えられる場所でもある。

 だから


「沢田、どんな結果になっても今手を出したら岳の奴絶対俺達の事許さないから」


 絶望の色をにじませた瞳に俺は笑って答える。


「こういう時こそ岳を信じる、ってやつだ」


 なんて不安になっている沢田を励ます。

 さっきみたいな予想外な事はもうこの15階ではおきない。

 あったとしてもこれ以上驚く事はない。

 だってそうだろ?

 一度驚かせれたのなら二度あれをしてももうそれは驚くと言う要素ではない。

 ただの予測不足の出来事でしかない。

 だから驚く事はないと言うように岳の背中を見ていれば……


 動いた


 その瞬間岳は短い髪をなびかせて魔象とすれ違い、お気に入りの剣で魔象の腹を横から切り付けていた。


 分厚い皮と脂肪を突き抜けて確実に肉体を傷つけるそんな一閃。 


 真っ二つ、というにはいかないが確実に致命傷と言うようにう肉と骨を断つ鮮やかな一振りだった。


 


 振り向いた岳が剣に付いた血糊を振り払えばそのかすかな空気の振動で魔象は崩れ落ちた。


 だけど俺みたいに真っ二つと言うわけでもない魔象は荒い息を零すと同時に血を流し出しながらも岳を睨みつける瞳は10階の魔狼にはない意思の灯る瞳。


 ああ、そうか。

 お前たちは……


 崩れ落ちたと同時に魔象は泥の中に沈むように墜ちて行き、その後俺が濁流の泥水を収納してもその姿はなく、ただ宝箱だけが残されていた。


 


 なんとも言えない予想外の展開に俺はもちろん沢田は当然のように座り込むし、魔象が残した宝箱をただ眺めていただけの岳。

 あまりの想定外の戦いに無言が続いたけど


「岳、お前の戦利品だ。

 自分で宝箱開けろよ」


 そうやって促せばやっと時計の針が動いたと言うように動き出した岳が宝箱を開ければ魔象の靴と魔象のマント、そこに水の魔剣、ではないものが収められていた。

 見た目は魔象の牙から作った剣に近い姿。

 だけど文字のような細かい装飾が施されてあり、何よりも俺が複数持つマゾから手に入れた魔剣とは違うと言うような存在感。

 恐る恐ると言うように岳が手にすればその瞬間雨が降っているような空気とでも言うのだろうか。

 圧倒的水の匂いと潤う大地の匂いに周囲が支配されて……


 その剣を視れば


水の魔剣

ランク:7/10

攻撃力:400

備考:水魔法+濁流Lv5

   水の操者


 俺の知らない備考欄の追加項目に目が留まり、なんだか納得がいった。

 俺達がダンジョンから生み出されていると思っていた魔物はどこからか召喚されたもので、それはランダムだから同種でも上位種が呼び出される可能性もあり、岳はその希少な確率を引いたのだと思えば戦った魔象の謎の行動すべてが納得できた。


「相沢見て!

 なんか相沢から借りた剣よりかっこいいのが出てきた!」


 なんて無邪気に俺に見せてくれる岳に俺はすげー!と心の底からの驚きと羨望と 


「絶対岳にぴったりな剣だな!」


 そんな風におめでとうと言えば照れ臭そうに笑う岳はすぐに方向転換して


「沢田見て!なんか相沢の剣よりちょーっかっこいいと思わない?!」

「よし!研いで私の包丁にしてやる!」

「や、やめてー!!!」


 俺の不安なんて吹っ飛ばすように14階へとかけて行った二人を見送りながら足元で鎮座する雪に


「暫く岳の事頼むな?」

「にゃー」


 しょうがない、そんな鳴き声に俺は岳の幸運値の高さを少しだけ羨ましく思うのだった。


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