お宝の力

沢田はさっそく自力でゲットしたマゾシューズに履き替えてマゾマントをパレオのように纏う。

「なんかご陽気なワンピースだね」

「ただのセンタークロス巻きだよ」

 言いながら胸のあたりで端を交差したら紐のようにねじって首の後ろで結んだらくるりと一回転。

「ジャージの上からだから残念だね!」

「帰りに源泉に行くからそこで着れば?」

 なんて提案に分かってないなと沢田は首を横に振って

「こういうのは手にした時に着るからこそいい物なのよ」

 わかってないわねーと言いながら結び目を解いて丁寧に畳む。

「これ片づけておいて」

「もういいのかよ」

 丁寧に畳まれたマゾマントはそれでも記念品と言うように丁寧に扱われていて、それを受け取って片付ける。

「まあ、あれ着て戦うのって実用的じゃないし、せっかくゲットしたのを汚したくないじゃん」

 なんて確かにねと納得の言葉。

「それに岳もやる気になってるから早くリセットしてあげないと」

 言われて岳を見ればなぜかバットで素振りをしていた。

 確かにやる気だなと思うもそれでいいのかと思いながら沢田が倒したマゾを収納。

「マゾのお肉って今一つなんだよね」

 中々料理のテンションが上がらない素材に沢田はつまらなさそうに言うものの

「どっちかと言うと素材向けの魔物だからな。

 自衛隊の所で武器とかの開発部が欲しがってるんだよ。皮とか骨とか」

「そういや千賀さんも言ってたね。マゾ皮でグローブとか靴とかが自衛隊内で普及しだしてるって」

「まあ、うちはマゾシューズとマゾマントでポンチョとか作ってるから支給されてないとか言ってたけど」

「マゾ皮で作った帽子がなんか機関銃の弾を弾いたとか言ってよ」

「目指せマゾ皮でフル装備か……」

「思ったより厚いし動き悪そう……」

「防御力は高そうだけど機動力は落ちそうね」

 言いながら14階へと向かう。

 岳は雪を頭に乗せて早く早くと急かすも羨ましい姿。

 なにそれ……

 後ろ足を岳の肩に乗せて肩車状態の雪しゃん可愛すぎだろとスマホを取り出して写真を撮りまくる。

 ご機嫌にしっぽを揺らす雪に

「岳がマゾと戦うからこっちにおいで」

 なんて言えば雪はするりと床に降りて俺達の先頭を歩く。

「相沢ふられたー」

 なんて沢田に笑われたけど俺の心は大雨警報発令中だ。

「なんで岳が良くって俺がダメなんだ……」

「えー?あれじゃね?

 俺の方が頭の居心地がいいんだよ」

「そうねー。軽そうだしー?」

「それー!」

 なんて笑いあう沢田と岳。

 岳よ、もうちょっと人の言葉を聞けよと思うも、改めてリセットされた15階に向って階段を降りれば形成されていく魔象。

 武者震いと言うように待ちに待った一騎打ちの時間。

「相沢、俺の武器全部出して」

 沢田と同じリクエストにずらりと岳のコレクションを俺は取り出して床に刺していく。

 その中で最新の武器クズバットを手にしてマゾが具現化するのを待つ間に

「毒霧は?」

 沢田と同じように聞けば

「やばいと思ったらよろしく」

 つまり最初からいらないと言う事。

「じゃあ、雪も待機だな」

「んなー……」

 不服そうな声。

 たぶんさっきの岳へのサービスはこの戦闘に混ぜさせろと言う雪のおねだりだったのだろう。

 俺だったら絶対お願いしちゃうところだけど

「雪ー、俺のかっこいいところ見とけよ!」

「なー……」

 会話すら成り立っていなかった。

 だけどご機嫌になった足取りで具現化したマゾの濁流へのモーション。

 そこに岳は床を蹴って一瞬で駆け寄って開けた口のあごの下から思いっきりバットを振り上げていた。

 「いたっ!!!」

 思わずと言うように沢田が口を押えて呻くも

「痛いのはマゾだって」

「判ってるけどこういうのつい言っちゃうじゃない!」

 岳の集中を邪魔しないように小声で沢田は言い訳をする。

 確かにその気持ちわからなくもないが……

 と言う間にいつの間にかジャンプして天井に足を付けて逆さまの状態になっていた岳は天井を蹴りつけて空中で反転し、マゾの脳天に向ってバットを振りかぶって叩きつける!

 なんとも言えない鈍い音と床に着地したはずの岳がまた軽くジャンプをしてからの横っ面をフルスイング!

 完全に脳みそを揺さぶられてふらふらとしたマゾは膝をついてしゃがみ込んで倒れてしまった。

 それを見て岳はバックステップで俺の側にあったマゾの牙から作った剣を手にしてマゾに襲いかかるものの倒れた時に鼻を大きく振り上げるあのモーションだった事に気付いて


「岳!濁流が来るぞ!」


 とっさにマゾのステータスを見ればさっきあの下から上に向って叩きつけた時に濁流が不発に終わったと思ったけどどうやら先にキャンセルされたらしくて魔力がフルの状態で残っていた。

  振り上げた鼻を振り下ろしたかと思えばどこからか土混じりの水がマゾの足元からあふれ出し


「マジか?!」


 岳がとっさに飛びあがりあふれる泥水を避け、俺達は身に着けているマゾマントの切れ端の力を信じる物の跳びあがって壁にクズの角を何本か打ち付けてその上に退避する。 

 雪はスキル:エアリアルで壁に足を付けてこの様子を眺めていた。


 途端に不利になる足場と泥水の中に水没してしまった岳の武器。これでは泥水の中から探すのは至難の業だろう。


「岳!」

 

 大丈夫かと声をかければ


「よゆー!よゆー!」

 

 俺と同じように壁に剣を突き刺してその上にチョンと乗っていた。

 だけど濁流はまだまだ魔象を中心にあふれ出して壁にぶつかり波立つ勢い。

 あっという間にマゾの半分ぐらいの水量が部屋を埋め尽くして……


「マゾが泥水の上に浮いてるだと?!」


 あまりに衝撃な光景に叫んでしまえば

「相沢ってマゾの濁流試してたよね?!」

「この先のフィールドダンジョンでだけどね!」

 なんて逆切れ気味に言ってしまって気が付いた。 

壁に囲まれていないフィールドダンジョンだからどこまでも流れて行って気が付かなかったけど、この狭い室内では逃れない泥水はどうなるか?そんなものただ溜まるだけ。

 今も勢いよくあふれ出る泥水にどこまであふれ出すんだと冷や汗が流れてしまう中……


「あ……」


 沢田が泥水に向って落ちて行った。

 壁に刺したクズの角が甘かったところに乗っかってしまっていたのか一緒に落ちるクズの角。手を伸ばすもそのまま沢田は反応出来ないまま落ちていって……


 俺は目を瞠る。

 とっさに駆けつける雪も途中で足を止め、マゾと戦っていた岳も助けようと沢田の下に向って足場の剣をそのままに駆け付けたものの……


「沢田が泥水の上に立ってる?!」


 間に合わずスライディングしていた岳もそのまま泥水の上で転がっていた。

 

「ドユコトデスカ?」


 思わずカタコトになって俺も実験と言うように足場から降りて二人の側に行けば確かに床はふわふわだけど立っていた。





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