真夜中のルディネ

俺がそんなどうしようもない悲しみに囚われている間にも時間はどんどん進んでいく。

沢田が今日は


「折角冷凍庫と冷蔵庫が復活したんだから手の込んだ料理は今度にして、今日は軽く焼肉パーティにしちゃおうか!

 部位ごとの食べ比べ!贅沢だよね!」


マロとウサッキーの足と胸肉、そして肩肉などおなじみの部位を切り分けて並べて行く。

前回よりもスタートが遅い為、とりあえず食べられればいいやと思う22歳集団は炭火も程よい感じになった所で肉を次々に乗せて行く。

勿論周囲には今回大活躍の雪さんを始めとした御一行とこの家のアイドル(?)イチゴチョコ大福のトリオが待機している。

爛々と光る眼差しの中俺達はとりあえず美しい刺しの入ったピンクの肉を網の上に並べてジュウジュウ脂がしたたり落ちる様子につばを飲み込む。

香ばしい匂いが広がればイチゴチョコ大福が三匹揃ってじっとしてられないと言わんばかりにお座りをした状態でじりじりと俺達の方に近づいてくる。

もちろん涎はだらだら垂らしているも、生態系の頂点は人間様だと言う事を強く教え込んできた為にはしたなくもちゃんとお座りをして待っている。

その間にも表面には肉の焼けた色と網目が薄っすらと焼きつく様に


「最初は肉の味を最大限に引き出す為に塩だけでどうぞ」


沢田が用意した焼き塩を見て俺と上田は視線を合わせて頷く。

割り箸でさっと肉をさらい、滴り落ちる油が塩の皿に落ちるのも気にせずにちょんと一度だけ肉の角に付けて二人の顔を一度確認すれば二人とも俺を確認しているのを見て三人示し合せたかのように一口で食べる。


「ん―――!!!」

「うめえええええええ!!!」

「マロ!お前旨すぎだッッッ!!!」


悶える様に、岳は実際走り出して行った。すぐ戻って来たけど。

俺は山のように一口大に切られたマロを次々網の上に並べてみんなの分を焼きだす。

勿論今回の一番の健闘賞の雪に膝に乗るように足を叩けば、いつまで待たせるのとひょいと膝の上に乗る。

さっと炙っただけのレア肉を紙皿の上に置いて雪に与えればカツカツと物凄い勢いで、肉は飲み物ではありませんと言わんばかりに食べて行く様子に周囲の待機組も遠吠えをする始末。


「ほら、みんなちゃんと待てだ!」


ざっと火を通して落ちた脂が炭に落ちてじゅわーと立ち上る煙と共に広がる香ばしい香りに雪の愛人とその子供達も待ちきれないとうろうろする様子がほほえましい。

普段はつんしかない属性の奴らが早く早くと足元にまとわりつく様子にこれで触らせてくれたら完璧なのにと思うも、この家のルールは俺を頂点に雪が居てイチゴチョコ大福の三匹が優先順位だ。

時々雪に頂点の座を奪われている気もするが、エサの供給源は俺の為に一応雪には格上の扱いをしてもらえている。

雪に何枚か肉を取り分けている間にイチゴチョコ大福がいつの間にか持参した餌の器に肉を取り分けてもらう。

雪もだけどイチゴチョコ大福にも塩は付けない。

脂分で胃もたれするかもしれないからと沢田が冷ましたおじやを器にこんもりと盛り付ける。もちろん肉を外した骨で取った出汁のおじやだ。俺も〆に欲しい……

勿論おネコ様の器にもおじやを盛ってその上に細かく切ったマロ肉を振りかけて行くと言うには大盤振る舞いと言わんばかりにおかゆが見えないくらいに肉を盛り付けて肉だけ食い逃げ厳禁と言うようにざっとかき混ぜる。


「豪勢だなぁ」

「ふふふ、骨に絡みついた肉を丁寧にこそぎ取っただけでこの量よ。

 当然おじやの中には骨も入れておいたから後でしゃぶっていいのよ」


途端に食事に集中して獣のオーケストラが無くなってやっと静かになった。そして俺達も一息付けたと言った所で岳がビールを持ち出した所で俺達はウサッキーの肉へとシフトチェンジする事にした。


「マロはこてっとした濃厚さが美味いけど、ウサッキーのあっさりしてるのにジューシーな味わいも最高よね!

 炭火の焼き鳥みたいな名古屋コーチンみたいなぷりっぷりな食感サイコー!」

「沢田悪い。俺達そこまでグルメじゃないんだ」

「食って美味けりゃいいじゃん!」


俺と岳の言葉にそうだけどさ……と意気消沈の沢田だが


「マロ肉でビーフシチューならぬマロシチューも想像だけで涎が出そう。

 これだけジューシーならローストマロもイケるだろうし、寧ろもう片方の足はゆっくりと丸焼きにしてそぎ落としながら食べるって言うのも手よね!

 ウサッキーは香草焼きにして、いやいや、圧力鍋でフライドチキンも捨てがたい。

 だったら胃の部分に香草を詰めてローストするのもいけるわね……」


俺達の言葉で止まる沢田ではなかった。


「相沢……

 沢田が謎の呪文を唱えてるよ……」

「大丈夫だ。俺達には知らない未知の世界だがそこは沢田の世界だ。

 邪魔さえしなければ俺達には幸せの世界だから黙って肉でも食ってろ」


そう言いながらうへへうへへと未知の料理へと意識を旅立たせている沢田を他所に俺はレモン果汁を持ち出してきてウサッキーの肉を試す事にする。


「そうね。塩レモンも作っておきましょうか。

 ウサッキーは麹に付けて柔らかくするのも良いけど、塩レモンで味付けして焼くのも悪くはないわね、いやレモンクリームがけもいいわね」


ギランと光るその目の輝きにびくびくと怯えながら背中を向けてウサ肉を口へと運んだ。


缶ビールが3つ、4つと空き缶を積み上げて行けば腹を満たした犬猫はさっさと自分の寝床へと戻って行く。

まだどっぷりと昏い時間だからね。

ぱちりとはぜる炭の音を聞きながら新たに缶ビールを開ける。


「とりあえず銀色のヤツ1ケース注文よろしく」

「まいどー」


言いながらも岳も新しいビールを開ける。


「って言うか、お肉美味しすぎてビールが進む~」


いつの間にか大根おろしで食べている沢田はまだまだ食べる様子。

こいつ俺より食べてるんじゃね?

なんてカツカツと食べて行く様子を眺めながら違和感を覚えた。



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