心の滓を洗い流せ
どう見ても無理に口に突っ込んでいる様に見えて俺は自分の迂闊さを呪う。
心の傷は簡単には癒せない事を何で忘れていたのだろうと……
「沢田、ほどほどにしとけよ」
「んー?大丈夫だって。お肉まだまだあるよ?美味しいよ?」
「はいアウト確定ー」
「……」
「えー?なにが?」
岳だけがキョトンと酔っぱらった頭でぐるりと周囲を見回していた。
「俺が古傷って言うにはまだ生傷の状態を抉って悪いとは思う。
だけど、それを誤魔化すのはないだろ?
俺達友達だろ?ドア閉まった時泣いてくれたのは本音なんだろ?
だったらなんで辛いとか悔しいとか本音を言ってくれないんだよ!」
何事?と言う様に岳は俺を見ていたけど、沢田はビールを一気に煽って口の中の肉事飲みほし
「だったらどう言えばいいのよ!
知らなかったとはいえ奥さんと子供の居る家庭に手を出したのは私の方なんだよ!」
「そんなの向こうが隠していたんだからお前は騙されていただけなんだ。
逆に慰謝料取れる懸案だぞ!
それに証拠がないと言っても向こうにはちゃんと金が渡っていてそれなりの物を買っているんだ!
税金とか考えたら十分証拠になるだろ?!贈与税だって発生するはずだぞ?!」
「そんなの……
頭の悪いあたしが判ると思ってるの?!」
最高の開き直りが来た。
「それに今更あのお金だって返して欲しくない!
夢見たレストランの開店資金だって今更要らない!」
「だったら今までの時間全部なかったことにするのかよ?」
ギュッと唇を閉ざす。
「家の蕎麦屋をもっとよくしようって夢見てちゃんと勉強までして!
夢が膨らんでいつかは自分のレストランを持ちたいって心を育ててがむしゃらにやって来たことをたった一人の男のせいで無かった事にするのかよ!」
「やめてよっ!」
耳をふさいで叫ぶ姿の痛々しさに俺も涙がこみあげてくる。
「旅立つ日に夢をかなえるって満面の笑顔でこんな何もない山奥の村から出て行った思いはその程度だったのかよ!」
「お願いっ!もう言わないでっっっ!!!」
慟哭ともいえる悲鳴は夢を諦めて、さらには一番応援してくれた両親から馬鹿にされるでもなく笑い話にされた悔しさからの叫び。
よくぞここまで本当の苦しさをごまかしてきた姿に涙があふれ出た。
「沢田がそれだけ苦しい思いしているのにあいつだけが幸せでいるなんて絶対おかしいだろ!
沢田のこの数年の出来事を全部要らないって言うならそれで構わないけど責任は取ってもらわないと、俺も岳も納得できねーんだよ!
お前がそんな辛い顔をしながら誤魔化し続けているのがつれーんだよっ!!」
バン!と机を叩いて立ち上がればぼろぼろと涙を流す沢田に
「これ以上お父さんとお母さんに失望させたくないの……
あんなにも応援してくれたのに何も手にして帰ってこれなかった馬鹿な娘だなんて思わせたくなかったのに……」
「だからって沢田だけが我慢するのは間違ってる!」
「初めての恋だったの。別れるならもっとましな理由だったら諦めもついたの!」
「そんなにも恋愛したかったら俺が立候補するって言っただろ?!
寂しくって慰めてほしいならいくらでも隣にいてやるって言ってやる!」
「相沢の言うのはただの偽善よ!
この人の為なら何があっても我慢できるしどんな事でも上に向かって進める勇気を与えてくれた恋だったのよ!」
「恋愛に夢を見てるから付け込まれてむしり取られたんだろう!」
「だったらどうすればよかったのよ!!!」
うわあああああ……!!!
子供のように両手で涙を拭っては泣きじゃくる沢田に俺は言い過ぎたと言葉を失って無言のまま座り込む。
さすがになんか言わなくてはと言う様に岳が挙動不審のように固まっていたが
「それでも俺は約束するからな!
沢田がまた俺達の知っている沢田に戻る為に何でもするって決めたからな!」
うわあああぁ……
泣きじゃくりながらも拒絶の言葉を上げなかった沢田に岳はどういう事かと顔を寄せてくる。
「とりあえず、沢田には沢田が幸せになる権利がある!
その権利を踏みにじって幸せになる奴は許さない!
そして最終的に沢田の二年を否定したおじさんとおばさんにもきっちりと謝らせる!」
「お、おう……」
どこからか現れた雪さんが沢田の膝の上に乗っかって、涙と鼻水まみれの顔を舐める。
雪さんなりに沢田を励ましている様子が羨ましいと言うか、こういう出来る男を何故見逃すと言いたい。
「岳いいか、沢田は沢田のおじさんとおばさんの都合で沢田の二年を無かった事にされた!」
「え?ちょっと待て、これってそう言う話だったのかよ?!」
「沢田は本当に馬鹿だから親の顔色を窺ってこの二年間の事を無駄にさせられたんだ」
「待て待て、いくらなんでも其れは言い過ぎだって……」
「おじさんにもおばさんにもきっちりと謝らせる。
そして沢田をハメた奴にはきっちりとそれだけの代償を払ってもらう!」
「お、おう……」
「そう言う訳でだ」
「訳で?」
「岳はこれから魔法を覚えてダンジョンに潜りまくれ!
そして素材や肉を売り払って金を稼げ!」
「お、おう?!」
「いいか、魔法は着火用バーナーをダンジョンの壁に向かって100回ぐらい火を点けてこい」
行って来いと指示を出せば何考えるわけでもなく家の中に行って、トイレの窓から火が何度も付いたり消えたりする光景が浮き上がっていた。正直ホラーみたいで怖くてちょっと反省した。
そして今もめそめそと涙を落とす沢田の正面にしゃがみこんで
「沢田、悪いな。
凄いきつい言い方したと思ってる。
だけど、俺は、親に人生めちゃめちゃにされて、捨てられて……
そんな俺を助けてくれた沢田と岳には感謝してもしきれないくらいの恩があるんだ!
沢田と岳が俺を救ってくれたんだ!
だから沢田にはちゃんと幸せになってもらいたいし、もし沢田に好きな奴が出来たら今度こそちゃんと幸せになってもらって夢や家庭を持ってもらいたいんだ!」
「あ、相沢……」
涙と鼻水と涎でベトベトの酷い顔の沢田は見た事もない位のぶっさいくな顔だったけど
「俺もおすすめ物件だけど岳もいいぞ?
アホだけど誰よりも情が深くて絶対子煩悩になりそうで沢田を誰よりも大切にするぞ」
「知っているけど、岳はないかなー」
こんな状況だと言うのに冷静で岳はお断りという沢田の判断に岳が知らない所でとは言え即答でフラれる事になってしまってごめんなさいと心の中で済まないと謝罪しておく。
「だったら10階の話し。本当に困ったら是非とも思い出してくれ。
無責任な事を言ったとは思われたくないから……
無職の俺なんて冗談じゃないだろうし、今はまだこの現実に受け入れられないだろうけど、こんな田舎じゃ出会いもないからよかったら頼ってくれ」
言えば少しだけ顔を赤くして
「バーカ。軽々しくそんなこと言わないの」
なんてそっぽを向くも
「ありがとう。覚えておくね」
逃げるようにこの場を後にしたのを見送って俺はなんだか無性に恥ずかしくなってその場に転がって一人もだえるのだった。
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気が付けばこんなにもレビューと応援をありがとうございます!
未だに右も左もわからずシステムを使いこなせないまま投稿を続けてますが<ヲイ
宜しくお願いします。
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