見てはいけない

俺と別れて竈の小屋に引きこもった沢田はタオルを濡らして絶対明日顔がはれるだろうなと言う目元にタオルをあてている所を埃まみれの窓越しに見かけて大丈夫かと心配していれば


「相沢!ちょ、マジ来いって!

 魔法使えるようになったって!」


魔法解禁の朗報に俺でなくても沢田も小屋から飛び出してきて慌ててダンジョンの中へと向かう。

岳はダンジョンの階段に座って俺達を見て見てろと言う。


「ファイアー!」


ぽっ……


指先から炎が吹き出してそのうち消滅する様に消えた。


「お、ついに魔力発現か?」



上田 岳 (22才) 性別:男

称号:駆け出し冒険者

レベル:9

体力:108

魔力:21

攻撃力:138

防御力:95

俊敏性:132

スキル:火魔法new



ステータス画面の一覧に発生した魔力とスキルに俺と岳はウエーイとハイタッチ。


「え?なんで?」


沢田はタオルで顔を半分隠しながらも空中に浮かぶ半透明のステータス画面をまじまじと見入っていた。


「ふっふっふ……

 実は沢田がマロを捌いている時に此処の後始末で高圧洗浄機で掃除していただろ?

 何故か水魔法が使えるようになってさ、もしかしてって試したらチャッカマンで火を点けたら火魔法が使えるようになったんだよ!」

「んなバカな?!」

「いやいやいやいや沢田君。

 現実から目を反らしちゃいけないよ~?

 実際にこの岳様は魔力を発現、魔法を使えるようになったのだからねぇ」

「むかつく。

 相沢やり方教えなさいよ」


調子乗る岳のうざさに俺は黙ってバーナーを取り上げて沢田に手渡し、壁に向かって火を当てる様に扱うと火魔法が発生する事を教えた。


「むかつくむかつくむかつく!

 岳の分際で私より早く魔法を覚えてからに!」

「岳は火魔法覚えたから次は水魔法行こうか。

 とりあえず高圧洗浄機の準備してくるから……

 沢田、悪いけどホースの関係上奥まで入れないから沢田は奥の通路で壁に焼き入れて来て」

「うわーん!私も水魔法覚える!」

「じゃあ、後可能性として懐中電灯持って行ってくれる?」

「なぜに?」

「光魔法が発生しないかどうかの実験と検証と言う事で」

「なにそれ!わけわかんない!

 でも岳を越せるなら私に任せなさい!後バルサンもよこしなさいよ!」

「うん。任せたけどそうやってパコパコ使うバルサンって結構高いんだからね?俺の金で課金するのは止めてね。

 って言うか、バルサンとバーナーを同時に使うと引火するから両方同時に使うのはやめてね」

「うわー!火気厳禁なんて!

 火が怖くて料理人やってられるか!」

「そう言うレベルじゃないから!

 ぶっ飛ぶレベルだからほんとやらないでよ!!!」


奥の方に沢田が消えて行くのが見えたがそれから火が付いたり消えたりしてるのを見て俺はほっとしながらもけたたましい騒音レベルの音のする高圧洗浄機で壁を掃除する岳は俺を見て


「なんか沢田少し元気になったな?」

「まだまだ自分を誤魔化して空回りしているだけだけどな。

 とりあえずだ。復讐と言うより沢田の相手にはきっちりと謝罪&返金をさせるし、沢田のおじさんおばさんには和解に向けてきっちりと謝罪をさせる。

 店の都合で娘の心を傷つけたんだ。

 そんな奴らに親を名乗らせたくないし、あいつのねーちゃんも結婚してぼちぼち子供が生まれるんだって?なんか赤ちゃんグッズ買いまくっているらしくてさ……

 姉妹で差別しちゃいかんことをきっちりと学んでもらわないとな」

「相沢おっかねー」

「ただの友達思いのうざいヤツなだけです」

「男前すぎてかっこいい!

 いざとなったら俺も養ってね」

「兄貴の嫁さんとほんと相性悪いな?」

「まぁ、爺婆付きの上に弟まで付いているからな。

 それに子供も生まれたとしたら両親だけならともかく弟の面倒まで見る為に嫁ぎに来たわけじゃないって言うのが言い分だろう。

 それでもうちの畑とかは魅力的なんだろうな」

「まぁ、お前ん所の田んぼはデカいからな。

 だけど一つ覚えておけ。

 兄貴の嫁さんにおまえんちの畑の相続権はないからな」

「ん?」

「中学の時習ったはずだぞ。

 おやっさんが死んだ時は財産の半分が奥さんの分。その残りを兄弟で等分するって言うやつ。

 子供の嫁さんには権利はないし、もしおじさんが生きてるうちにお前んとこの兄貴に名義が変わっているようだったら生前贈与っていう奴だから、その分お前はちゃんと請求できる権利がある。あれ?法律変わってどうだっけ?まあいいかって言ってもよくわかってないだろうから、その時は財産分与に強い弁護士雇おうな……」


既に贈与とか権利とか言う言葉に目が死んで意識を飛ばしている岳はただ壁に向かって高圧洗浄機を使っているだけ。

ビール持ってきて一本飲むもまだその状態だから黙って勝手にステータスウインドウを眺めていれば無事水魔法が発生していた。

そっと高圧洗浄機を取り上げてスイッチを止めて岳を台所の椅子へと誘導する。


「ほら、熱いお茶。

 もうすぐ帰宅する時間だから柿の種でも食べて待っていろ?」


そのまま放置して水浸しの階段を降りれば


「岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつくっいて、岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく岳のくせにむかつく……」


繰り返される止まる事のない呪いの言葉を唱えながら壁に向かってチャッカマンを押し付ける光景は異様だった。

煤けた壁がまた恐怖を煽る。

声を掛けられなくてそっとステータスを盗み見ればちゃんと火魔法が発生していた。

しかもnewだけじゃなく+も発生していた。

そっと+をチェックすれば

 

火魔法+闇炎 new


覗いてはいけない闇を見てしまった気分になった……




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