雪さんとのデートのはずだったのに……
イチゴチョコ大福は橘さんの癒しとしてドッグトレーニングをしている。
まずは左側を歩くと言うウォーキングの練習から。
いつも俺の先を歩いて引っ張ってくれるのでなかなか三匹にはむずかしいようで苦戦している。
ただその他のお座り、待て、お手、といった基本行動は出来るし無駄吠えもしない。それどころか郵便配達や宅急便の人が来ても吠えないから困るが鹿や猪を見つけたら吠えはするけど追いかけてはいかないし、追いかけても畑から追い払う程度しか追いかけない。
やる気がないのではなく、俺がいつももういいぞという合図を出すからいつの間にかそこまでしか追いかけなくなった賢いわんこだと思う。
無駄噛みもしないし、トイレも失敗しない。
まあ、家の周りの草むらがほぼトイレなので失敗以前の問題だろうが、拾い癖もないのでほとんど問題行動はない。時々何かの鳥とか咥えて来るけど雪が処分してくれるので問題はない(本当か?)
そんな三匹だから橘さんはトレーニングを楽しむようになった。
初めて会った頃の死んだ表情筋がだいぶ復活している。ただしイチゴチョコ大福の前限定で。
よっぽどあの高山病でダウンした岳の家までの往復ランニングがよほど悔しかったのだろう。
とは言え、すっかりこの土地に順応した体なら問題はないと思うも……
「橘、これ結構きついな」
「千賀さんに言わせるなんてなかなかの坂ですね」
「特にこのラストの坂道が体力を奪い去って行くんです」
「ああ、普通に歩いてても息が上がるしな」
「千賀さん、これなら滝ケ原駐屯地の皆さんに勝てるでしょうか?!」
「三輪!標高が違い過ぎるから難しいだろ!」
「目標としては問題なし!良し!最後はダッシュだ!」
千賀さんと林さん、三輪さんは高山病にはならなかったものの道路に横たわる程度にはきつい高低差だったようだ。富士山山頂に対しては全然低い標高だけど同じ独立峰に住まう者としては山で駅伝なんて無謀だと言いたい。見る分には楽しいけど。
以来雨の日以外は朝夕のトレーニングとしてこの往復を取り入れてくれるようになった。イチゴチョコ大福の散歩も兼ねているので喜んでついて行く後姿を見ると飼い主としてはちょっと寂しい事は内緒だ。
因みに水井土木班も巻き込まれヒーヒー、ゲロゲロさせた様子にはほどほどにお願いしますと言うしかなかった。
ダンジョンの外でトレーニングをして体を鍛える皆さまとは別に俺は平坦なダンジョンで体を鍛えております。
レベルからの体力の増加と言うギフトのおかげでランニング何て苦しかない俺でも楽しいと思えるくらい走り回ることが出来るのです。
ダンジョンサイコー!
Gが居なければもっとサイコー!
俺の体ってこんなにも軽かったんだなと思うくらいどこまでも走れる体はそれでも筋肉を動かす事により現実世界でもそれなりに体が動くようになった。
というか単にスキルダンジョン外使用許可が影響しているらしくダンジョンの外と中との差がないだけだけど。
でも岳も沢田も
「毎日ダンジョン潜って体を動かしているから普通に体力ついたよ?」
世間一般のダンジョンがアスレチック化している通り運動が苦手な人でも簡単に肉体強化が出来て、それから運動に目覚め混雑するダンジョンではなく外で運動を始めるなんて沸いたこともあるが所詮ダンジョンの側に住む人間の特権と思ってどうでもよさげにスルーしていたけど……
片道一時間でマロ討伐完了。
俺達は日々進化し続けていた……
それより10階の扉を開けた直後俺とは違い日々リアルファイトで肉体を鍛え上げる雪さんの瞬発力はすでに俺でも追いかけられないくらいのスピードで、俺が階段を降りる頃にはゴロンと転がるマロの首を見向きもせず扉開けるぞと言うように前足で扉をたしたしと叩いて待っていた。
一応バルサンも使わずに確保できたお肉なので無限異空間収納に収めたけど
「雪ちょっと待ってろよー。変な虫に刺されてばい菌持ち帰らないように毒霧撒いとくからなー。
待ち時間の間チュールタイムにしような?」
言えば早く行くぞとたしたしと扉を叩いていた前足をくるりと反転させ、最低限の血のりだけで汚した10階フロアでお行儀よく俺がチュールを小皿に出すのを待っているにゃーと鳴く天使がいた。
ダンジョンに潜ると知能も上がるようですぐに飛びついてきてぺろぺろと舐めまくる姿ではなくとてもお上品に味わうようにぺろぺろと食べる姿になるのだからステータス接続権利で拾える情報の少なさにはまだまだ未知の部分が隠されていると俺は思っている。
だって、単に人のステータスに接続で来るだけで権利なんて言葉はついてこないだろう。もっとなんかヤバいことが出来るはずだと日々のクズ角の出荷の忙しさと草刈との戦いにかまけてそこまで調べてはいない。
だって絶対なんか地雷があるんだぜ?
ダンジョン発見ボーナスでスキル3つなんてサービス良すぎるだろ?
さらに一度は消えた『+』のマークが復活していたんだぞ?
今度は何ぞやと思いながらもいまだ怖くて見れないでいるけどね。
岳が貸してくれた本的にはワクワクドキドキな展開で書かれているけど残念ながら俺は全くワクワクドキドキしていない。
しかも小説に感化されて深く考えずに会得したスキルが結構ヤバめな臭いを放っているためにいまだ怖くて研究していない始末。だってほら、こういうのってハイリスク・ハイリターンじゃん?
どれだけ人間不信なんだよと思われているけど石橋は叩いて渡る俺なので油断ならないけど岳と沢田がいる時に確認しようと思っている。
千賀さん達が一緒だとなんか目が血走りそうだから怖いからね。
普段は気のいいお兄さんを装ってるけど、あの人達ダンジョン潜るとガチ勢だから人相変わるからね。
いくらダンジョンのせいで悲しい過去を背負っていると聞かされてもそれはそれ、これはこれ。
どちらがモンスターか分からない戦い方をされると正直逃げ出したいと言うのが凡人の思考だ。
チュールがなくなってカリカリも少し食べてお水もちょっと飲む横で俺もラップに包んで作っただけの簡単なおにぎりに塩を振りながら食べる究極の手抜きおにぎりに腹を満たしながらペットボトルのお水も飲む。小一時間走ったら水分と塩分の補給をしないとね。
そんな小休憩を終えて11階へと降りれば
「マジか。ほんと蝗みたいなバッタ多すぎだろ……」
雑草に埋もれてあまり目を向けた事がなかったから気にも留めなかったが……
「雪さん、少し焼き払うから階段の所に居てくれる?」
なんて言えば自力でレベル29まで到達した雪はひょいひょいと階段を何段か上がって俺に準備オーケーと言わんばかりにニャーと鳴いた。
しっかりそれを確認してから胸の前で意識を集中した握り拳を力いっぱい横に振り払いながら
「焼き払え!」
とある巨神兵に命令を下す、そんなイメージで火魔法を発動した。
豪っ!!!
すさまじい熱量に目ん玉が渇きそうになるもマロマントのおかげで肌は熱くもない。ただ乾燥した空気の中で灼熱の炎が俺の想像以上に広がり一瞬でこれから向かう道以外も焼き切り開いていった。
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