カウントダウン

 驚くほどのド田舎に来た。

 遊ぶところも女もいない酷い田舎だった。

 いるのは年寄りと使用済みの女ばかり。

 いや、勃つか?と問われたら部下の一人がこの村唯一の店の嫁で出来たと笑って報告してきた。

 一瞬誰だと思ったけどやたら媚び売ってくる奴ですよと言われて失笑。

 ああ、あれか。

 よく食指が動いたなと感心したが

「嫁ぎ先の義弟がアレなんだってさ」

 顎をしゃくられて向けた視線の先には何の覇気のないぼんやりとした田舎育ちが色濃くでたいかにもと言う男が畑を耕していていた。


「まあ、面白くなりそうだから種をまいて来ただけですよ」

「ついでに子種もだろ」


 そういってまだ子供がいないと言っていた事を思い出してゲラゲラと笑う。


「ドジるなよ」

「なに、聞けば旦那と血液型が一緒だから簡単にはばれないさ」


 そんなスリルを味わうのは仕事もめどがつき一ヵ月もしないうちにここを去るから。

 どっちにしても運が良ければ後継ぎが出来て家内安全、なんてばれるまでだがその頃にはきっと情も沸いてもっと面白い事になっているだろう。

 その結果を知る事はないが。


「それよりもだいぶ魔物の素材が集まりましたね」

「だな。真面目で働くのがばかばかしく思う。

 あっという間に金が溢れてこの後はさっさと辞めて豪華に遊びたいよな」

「こんな田舎じゃなくて東京のど真ん中にマンション買って毎晩遊びたい放題だ!」


 なんてゲラゲラと笑う。


 真面目に働くふりをしながら労働担当に仕事を任せてダンジョンで稼ぐために体を鍛えてきたかいあって収穫はなかなかになり、思わず宝の山を見てニンマリと笑ってしまう。


 高校卒業して自衛隊に入った時はひたすらエリート様のストレス発散と言わんばかりに苛め抜かれ、それでもがむしゃらに言われるまま任務をこなしてきた。

 それもこれも金がなかった。その上学もなかった。

 社会に出ればそれだけで見下されるには十分な条件だった。

 とは言え数々の就職活動に躓いた俺のような奴を入れてくれるのは自衛隊だけ。新任だった担任が必死になって頭を下げて持ってきた就職先がここで、意外な事に性に合った。

 いろいろ頭を下げて駆けずり回った結果がこれかと思ったけどなんと言うか、体を動かすと言う仕事は合ってっていた事には驚きだった。

 ただこの短気な性格はいろいろ不祥事を起こしてたどり着いたのがこの土木課。

 全く知識がなかったけど当時配属された班の班長が面倒見の良いちょっと悪い奴で仕事をきちんと教える反面女遊びや酒の飲み方を教えてくれた。

 俺の今までの人生で出会った事がないタイプの人間だった班長は叱られればすぐに頭を下げるけど


「頭を下げれば納得するなんて安いものじゃないか」


  なんてニヤリと笑う。

  これが処世術だと言うように我慢する顔を見せるが


「頭を下げれば許すしか返事を与えられないエリート様を腹の中で笑うのはおもしろいだろ?」


 俺の中で世界が変わった瞬間だった。

 後はただがむしゃらだった。

 頭を下げる事も謝罪する事も考え方一つ変えればこんなにも都合の良い面白い事はない。そして周囲は俺が改心したと言うように勝手に評価を上げていき……


「今まで抱きつぶした女の言葉なんて誰も信じない位だから笑えるよな」


 班内の奴らにこういうやり方だという事を教えれば俺達は瞬く間に土木課でも一二を争う評価の対象となった。

 多少の悪さをしても信頼がそれを覆していく。

 あの時の班長にはほんと感謝だなと笑えば


「でさ、そろそろ行動を開始しませんか?

 花梨ちゃんもすっかりなついちゃったし、岳君も健気すぎて川磯、じゃなくてかわいいし。

 ここもぼちぼち引き上げるならあのガキたちを使って素材集めさせて、片腕野郎はダンジョンでやっちゃいましょう」


 そんな部下からの提案。

 確かにそんなタイミングだ。

 俺達もレベル20オーバーになった。

 とは言え向こうの方がまだレベルは上。

 だけど俺達には一蓮托生と言うチームがある。

 そっとニヤリと笑い


「じゃあ、花梨ちゃんから落としていこうか。

 いつも通りクスリ使ってその間に撮影会だ。主演女優のデビュー作。どんどん作っていくぞ。

 あと残りの奴らはダンジョンの外で仕留めるぞ。

 中に入ったらこっちがどうにもならないからな。

 先輩には悪いが、すべての責任を取ってもらう。

 なんせ、片腕を失って部下も失って自暴自棄になってもらわないといけないからな」


 そんな結末まで用意されたストーリーの成功に誰もが疑わない。

 そして疑わなかった理由は今までが実証しているだけ。

 その後は自衛隊を辞して遊んで暮らす生活が約束されている。

 もう誰にも頭を下げる事も誰にも命令されないそんな夢見た生活。

 

 目の前の夢に手が届くそんな期待と共に一つの不安を覚えていた。


 上から言われていた『雪軍曹』とやらに未だに会えていない。

 そしてこの家の持ち主の相沢遥だったか。

 時折ぞっとするような視線を俺達に向けてくる。

 まあ、ほとんど家から出ない無職のニート野郎だから病んで俺達から逃げてるただのオタクだろう。

 あまりかかわりのない人種に戸惑いながらも野郎の事を払しょくするように花梨の肢体を思い出して笑みを浮かべる。

 

 俺の部下にはないみずみずしい、傷一つないような若々しい吸い付くような肌。

 きっと男を知らない体を力技でねじ伏せれば泣き叫び許しを請うその顔。

 想像するだけで笑みが浮かぶように高ぶる雄の本能に


「善は急げ。

 まだまだ金を溜めないといけないからな。

 今夜決行するぞ」


 一抹の不安なんてもう忘れてめくるめく夜を想像し


「班長、あなたの言葉の正しさ証明しますよ」


 いつだったかのスタンピードに巻き込まれて亡くなった班長に歪んだ笑みを浮かべながら誓うのだった。






「それでお前は夜な夜なダンジョンに潜るのか?」

「まあ、家に居ても落ち着かないしどこかでこのストレスを発散しないといけないからね。

 因みに20階の扉みつけちゃいました」

「あのな、見つけちゃいましたじゃないだろ。

 正直に言うがお前ダンジョン満喫し過ぎだ。

 そしてさらっと言い過ぎだ。

 俺の心臓が止まったら責任とれよ」

「とるわけないじゃん。

 林さんの心臓より雪さんが行こうって誘うんだよ?

 誘われたら付き合うのが関係を円滑にするための方法でしょ?」

「誰が猫と円滑な関係を築けと言った。人とのコミュ力を高めろと言ったんだ」

「そもそも人が居ないしー……」


 そんなこんなで今日もダンジョンに潜ってます。

 本日休業の林さんが温泉に行きたいからと言って夕食の場で出会った俺を担いで無理やり強引にダンジョンへと連れ込まれてしまいました。

 なので久しぶりに雪さん以外とダンジョンツアーです。

 沢田は最近はずっと土木課のお姉さま方と一緒にいるし、岳も土木課のお兄様方と一緒に仕事をしているし。

 って言うか、何で土木課の方達と一緒に道路拡張工事してるんだよ……

 いい様に使われている岳だが


「今日さ、ショベルカーの使い方教えてもらった!

 そのうちショベルカー買って山を開拓しようぜ!」 


 この張り詰めた空気の中この夏一番の癒しを耳にした。




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