予感めいた何か
工藤達が沢田に手をだすような真似は全く匂わせもしなかった。
ただ、工藤達の所の女子たちと急速に仲良くなって空いた時間は一緒にお茶をしたり、ダンジョンに潜りたがった。
だけどその時は必ず俺か林さん、空気を読んだのか橘さん、三輪さんが随行するようになった。
橘さんはともかく林さん曰く三輪さんも工藤班の噂は聞いた事があったようで
「女の子たちだけで何かあった時の手助けぐらいにはなるだろうからな」
そう言って打ち合わせもしていないのにさらりとそう言いのけて混ざるのだから本当にありがたかった。
そうやって俺達が警戒しているのを悟ってかあまり接触はしてこなかった。
その間どうしてもたまるフラストレーション。
俺は雪さんを連れてマゾを倒しまくっていた。
半分雪さんのリベンジも兼ねているが、雪さんも何かストレスを感じているらしい。
どう言うわけか工藤班の人達の前にはあまり姿をみせないのだ。
なのでダンジョンにも一緒に入らない。
水井班のように鍛えもしない。
一緒にご飯も食べようとしないくらい徹底としていた。
そしてうちを縄張りにする雪さんの愛人たちも同じようにあまり姿をみせない。もともと姿をみせてはくれないが、そこまで嫌なの?と聞きたいぐらい工藤班の前には現れなかった。
ご飯をあげたり予防接種や避妊をさせてはいるが基本外生活で放置をしている程度に野生的生活をさせているので、勘が鋭くあるのかそこは俺にはわからない。
代りに気が付けば岳も工藤班の陽気な兄貴分な態度にすっかり懐いてしまいダンジョンに潜る時はいつも一緒と言うようになってしまった。
とりあえず俺はニートらしくダンジョンに潜らない時は外から見えるようにPCをしてダメな人間を披露していた。
もちろん家の中でネットを見ているだけなので退屈からイライラを覚えるようになった。
不思議だね。
ダンジョンが出現する前までこれが普通の生活だったのに。
いつの間にかきちんと朝起きて工藤班の皆さんを監視するように昼の時間を過ごし、夜は夕食後ダンジョンに行ったり行かなかったりそんなルーティンな生活の八つ当たりにマゾを倒しまくる非生産的な日常。
何もなければいい、それがベストだが数か月をかけて道幅の拡張、ガードレールの設置、防壁工事を手際よく作業するだけを見れば本当に優秀な人たちだと思わずにはいられない。
さらに人当たりも良く、村の数少ない食堂や岳の実家の店でも義姉なんかはテンション最高潮に挨拶をすると言う……キモッ!!!
岳情報だけどどうやら義姉と兄との夫婦仲がここ最近急に悪くなったと言う。
「もともと仲良くはなかったけどあからさまになって来たからさ。
何かあったのかな?」
多分あったのでしょう。とは言えないが義姉に苦手意識を持つ岳だが兄に対しては基本お兄ちゃん子なので心配をするのも納得できるがやはり苦手意識から家へと帰れない日々は今も続いている。
そんな何か欝々としたものを抱えて夜中こっそりとダンジョンに潜ればもれなくどこからかやってくる雪がトイレの窓からひょっこりと姿を現してくるので一緒にマゾの所まで走破する事にしている。
おかげで大分対マゾの攻略法を見つけたし、雪さんは一撃が効かないのなら削り取る作戦でマゾを倒すと言う……
あの巨体を倒すのに支える足からダメージを蓄積させるって雪さん賢くない?
なんてその爪はマゾの爪を深爪にさせて動きを悪くすると言う戦略、ひょっとして俺が雪さんの爪を深爪にしてしまった事を今もお怒りでしょうかと聞きたくても聞けない状況は軽く気づいてないふりをしておく。
そしてぼちぼち作業も完了しようと言う頃。
工藤班もしっかりマロを個人で撃破が出来るようになったレベル20オーバー。
今考えるともっと短期間でレベル20オーバーになった水井班を凄いと思ってしまう。
雪さんによる指導の効果なのかと思うも水井班に言わせると
「雪軍曹本当に厳しかったからな。
休みなくマロと戦わしてくれるし、崖登りも遅いと下からにゃーにゃ―追い立てて来るし」
知らなかったとはいえ雪さん本当に指導者向けなのねとスパルタ気味なのは俺に向けなければ問題なしとする。
そしてうっ憤を晴らすようにマゾを倒したフロアで雪さんにチュールを食べさせながら抱っこをさせてもらう。
「雪さんなら気付いているだろうけどあの工藤達、絶対何かしでかすぞ。
何かって言われると判らないけど、沢田が酷い目にあう事は確実なんだ。
多分二度とうちに来れないくらいのショックを受けて……」
想像してしまう自分を嫌になりなりながら
「守るために力を付けたいのに、力だけなら十分にあるのに沢田の事を思うと不安なんだ」
なんて話しかけてもそんな事知らん、自分の女なら自分で守れと言わんばかりの雪さんはふんと鼻を鳴らす。
「だよねー。
だけどさ、別に付き合ってるわけでもないのにそういう事されたらウザがられないかな。
の前に岳の初恋の相手が沢田だからさ。小学生時代同学年が二人しかいないなら仕方がないよね。
多分唯一心許せる3Dの女の子だからさ」
いまじゃ2Dの女の子しか興味なくても目を見ればわかる。沢田の事とても大切に見守る視線。一途すぎだろうと思う俺はそんな風に人を愛せるのかそこが判らない。
親に捨てられてダンジョンが発生してからもう連絡も取ってない。
こんな人間が人を愛せるのか疑問しかなく……
「雪さん。
沢田が居なくあったらあの温かいごはん食べれなくなるから。
俺がいないとき何かあったらその時は沢田を守ってくれる?」
戦力は少しでも欲しいと言うようにお願いをすればパシリと鞭のようにしなるしっぽではたかれてしまい、そしてにゃーと一言。
まるでその時は仕方がないから頼まれても良いぞなんて俺の思い込みだがそんな頼りがいのある返事に俺は少し心が軽くなって立ち上がり、
「じゃあ毒霧撒いてから帰ろうか」
何が増殖しているか分からない世界に向けてワンプッシュ。
相変わらずの間抜けな音だけどきちんと扉を閉めて俺達は地上へと向かうのだった。
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