ヒーロー達は遅れてやってくる!

「花梨ちゃんお邪魔します!」

「お酒沢山持ってきたよ」

「ん~!いい匂い!そして美味しそう!

 花梨ちゃんみたいなお料理上手な妹が私も欲しい!」


 何てぎゅ~とハグをしてくれる工藤班のお姉さま方は私を妹のようにかわいがってくれるのでついつい張り切ってしまう。

 そう、今日はお姉さま方三人そろってお休みの日。だったらという事で遊ぶところもないので女子会をしようとなった。

 そして夜だからという事でパジャマパーティ。これで飲んで酔いつぶれても問題ないと言うのが言い訳で、お姉さま達のパジャマ姿というさすが大人、シルクのパジャマですかと目の保養と言わんばかりに眺めてしまう私はタオル地のもこもこパジャマだった。夏場でも夜は冷える山生活。これぐらいがちょうどいいと買って来たばかりのパジャマをお披露目するには良い機会だ。

 女子会なんて久しぶり。

 思わず張り切ってお料理を用意した自分頑張りすぎじゃない?引かれないかなと思うも味見と言って思わずつまんでしまうお姉さま方の美味しいと言う悲鳴の笑顔にその心配はすぐに打ち消した。


「お仕事お疲れ様です!

 お酒のおつまみばかりですがたくさん用意しておきました……」


 なんて最初のテンション高い挨拶からすぐにしりすぼみになるのは


「工藤さん達も一緒でしたか?」


 女子会って言ってたのにという不安気に緊張する声。

 工藤は感が良いなと思うもだったら遠慮はいらない。

 感の良い林はいないし、千賀は三輪と本部の奴らと会議中。橘は母屋の方で見張り番。

 こんな都合のいいタイミング他にはないなと機材を持ってきた部下たちもぞろぞろとDIY感満載のかわいらしい女の子の部屋に上がり込んだ。


「ちょ、ええと、一体なんですか!」

「さすがにばれるか」


 笑いながら部屋を物色する工藤達に触らないでと言いたかったけどすでに事態を察して恐怖に震える足は身動きを取れずにいる。


「でもまあ、花梨ちゃんも年頃の女の子だから、まったく想像がつかないってわけじゃないだろ?」


 なんて三脚とかカメラを設置し始める様子に助けを求めるようにお姉さま方に視線を向けるも、今まで可愛い可愛いと抱きしめてくれた人たちは私の方なんて見向きもせずにワインの封を開けて


「やっば!これめっちゃおいしい!」

「お酒がどんどん進んじゃう!」

「やばい!こんなの絶対太る!」


 なんて楽しんでいる様子を見てこの為にはめられたことを察した。

 スーッと血の気が引いていく。

 その合間にも工藤達は私との距離を詰めてきて……


「パジャマパーティだって?

 もこもこしてて可愛いよ」


 にたりと笑う顔が目の前にあってその後すぐに衝撃が走った。

 ベッドの上に押し倒されたのだろう。

 視界がぐるりと変わり、見上げる工藤達の顔はもう今まで知ってる人たちではなくなっていた。

 恐怖に体が震える。 

 ぎしりとベッドの上に上がってくる工藤に


「誰か助けて!」

 

 必死になって声をあげて同じ女性だからと言うように手を差し伸べるもちらりと見ただけでまたワインを開けて笑いながら料理を食べだしていた。

 まるで私たちはやる事はやったからと言わんばかりにテレビの話題に盛り上がっている様子に絶望を覚える。

 

「いいねその顔。おじさん達そう言う顔をする女の子大好きなの」


 嗜虐心たっぷりな声に目じりに涙が浮かんでしまう。

 

「じゃあ、今夜はいっぱい楽しもうか」


 言いながら顔が近づいてきて、抵抗するように暴れるもすぐ別の人に押さえつけられて……


「なんで?なんで?」


 私だけがこんな思いをしないといけないのだろうときつく目を閉ざせば




「にゃー」



 よく耳に馴染んだ声がすぐそばで響いた。

 さすがに予想外と言うか工藤達の手も止まり、緩んだ一瞬押さえつけられた手を払いのけてベッドの隅へと逃げる。

 もうこの場所しか逃げ場がないとはいえ他に逃げ場がないか視線を彷徨わせるも相手は戦闘訓練を受けた人たち。隙を与えてくれるはずがない。

「おいおい、どこから猫が紛れ込んだんだ?」

「ドア閉めろよ」

「えー?部屋狭いんだから無理だって」

 なんて場が白けてしまってもほっとは出来ない状況。逃げ道を探す傍ら

「おら、さっさと出てけ」

 なんて追い出そうとベッドわきの窓を開ければ


「にゃ~ん!」


「うおっ!また猫が入って来た!」

 開けた直後に猫が入って来た。驚いた工藤は無様に尻もちをついたのを見て周囲は「ダサッ!」なんて笑っていた。

 いや、これは普通に驚く。

 側にいた私も驚いたぐらいなんだからねと息をゆっくりと飲みこんで悲鳴を殺す。

 今回入ってきたのはキジトラの雪が保護しているシングルマザー。名はない。

 すぐにベッドの上でまどろむ雪にすり寄るキジトラちゃんはまた


「な~」


 なんて鳴けば


「にゃ~!」

「にゃー」

「にゃ~う」

「なー」


 なんてお子さん達もわらわらと窓からやって来た。


「うわっ!猫だらけ!」

「ちょ、どういう事なんだよ!」


 驚く皆さんを気にせず四兄弟は部屋をすばしっこく走り回り


「やだ!この猫ご飯食べた!」

「ちょ、あ!ワイン落とさな……高いんだから止めて!」


 ガタンとワインが落ちて、だけどボトルはわれなかった。

 まだなみなみとあった中身がどんどん部屋を汚していく中すっかり成長して立派な成体になった四兄弟は人間をバカにするかのように足元をちょろちょろとして、皆さん身動きに制限を掛けられていた。


「おい!いったいどういう事だ!」

 

 ヤル気満々だったのにたった6匹の猫に翻弄されてイラつく工藤が壁を力任せに叩けば一見綺麗にしたつもりの部屋。しかし元は築歴不明の手作り作業部屋。

 いくら補強したとはいえ……


 ぱらり

 天井から埃が落ちてきた。

 丁度天井に取り付けた点検口からからの埃、隙間が空いてしまったようだ。

 だけどそれと同時にトトトトトト…… そんな軽い足音が響いていた。

 猫に翻弄されてパニックになりながらも皆さん天井を見上げるぐらい危険感は備えているらしい。

 ネズミやイタチにしては重い音だなと点検口を見上げていれば


 ガタッ……


 点検口がいきなり開いた。

「「「きゃあ!」」」 

「「「「「うわー!!!」」」」」

 まるでホラーな様子に悲鳴を上げる酔っ払いとチキンなヤローども。

 足がすくんでしゃがみこんだり腰が抜けた瞬間に三脚や設置したカメラが倒れて小さな部品が砕けて飛び散る。

 だけどさすが工藤と言うべきか、点検口から視線を外さずに睨み見上げていれば


「「「「「にゃ~ん!」」」」」


 ひょいひょいひょいひょいのひょい……


五匹の黒猫一家がやって来た。当然名はない。

更に素晴らしい事に見上げる工藤の顔を足場にこの部屋に乗り込むと言う身の軽さ。

 そして作った料理の匂いを嗅いでか岳に作ってもらったミニキッチンで料理を食べるキジトラ兄弟と合流して一緒にカツカツと食べだす始末。


「猫ちゃんには塩分高いから食べちゃダメ!」


 なんて止めるも知らん顔。

 

「なんなんだこの家は!

 お前ら猫を全部追い出せ!」


 そんな工藤の指示に誰かが階段を駆け下りてドアを開けるも

「うわっ!」

  また何かあったの?なんて思うも今度はもっと重量のある足音。

 ちゃっちゃっちゃと爪の音をたてながら近づいてきたと思えば


「わふっ!」

「ふっ!」

「ばうっ!」


「イチゴチョコ大福まで?!」


 大型犬の登場にさすがにみなさん及び腰だ。

 だけどまだまだここからが本番。

 イチゴチョコ大福の後に着いて来た三毛猫やブチ猫ご一同様も姿を現し


「「「ふー……」」」

「「にゃーう……」」


 少しご愛想が鋭いラスボス風味のお猫様軍団。もちろん名はない。

 


「シャーっっっ!!!」


 雪の側に一番寄り添ってる三毛猫様が声を上げれば集まったお猫様が一気に襲い掛かっていた。




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