小さな勇者
猫ちゃん達頼もしい!
だけどちょっと怖い。
守られている私よりも皆さんの方が危機感を覚えたようで
「ヒィッッ!」
「やめて!」」
「ごめんなさい!許して!」
そんな情けない叫び声を上げながら自分の身を守るように蹲り、そして一部は部屋から逃げていく。
そんな様子を入り口から遠く離れた所で丸まってあっけに取られていれば今もすぐ隣で雪が優雅に私と一緒の景色を眺めていた。
「ひょっとして雪さんが助けを呼んでくれたの?」
聞けば雪は私を見上げ心配ないと言うように目を細めながらにゃーといつも聞く雪の声で鳴いてくれた。
なんだかそれに凄くほっとすれば
「このくそ猫っ!!!
俺の楽しみをっっっ!!!」
工藤が立ち上がりカメラの三脚を掴み上げて振り回せばさすがに猫ちゃん達は逃げるも、代わりに側にいたお仲間さんに当たり、すごい勢いで飛んで行った挙句に一階に続く階段の手前でよろけて派手な音を立てて転がって行った。
だけどそこに出口がある事を思い出したかのようにまた一人、二人と逃げだしていけばボス猫の三毛猫ちゃんがふーっと唸った所で三毛猫班が追いかけていくガチの武闘派ニャンコだった。
その後すぐ階段の下からものすごい悲鳴が聞こえてきたが何が起きているのかはわからずじまい。そして壁に穴を開けながらも脚立を振り回す工藤に
「ガルルー……」
いつも相沢を散歩に連れに行ってる姿しか見せた事のないイチゴは低い声と共にその足に飛び付き、噛みついて工藤を床に転がした。
「こっんの、犬如きがっ!!!」
「バウッ!!!」
転んでも手にしたままの三脚で叩きつけようとすれば背後からチョコが襲い掛かって三脚を握る腕に噛みつく。
「ギャーっ!!!」
普段吠える事すらしないやる気のない三兄弟が見せた犬らしい姿。大福はイチゴとチョコが攻撃するのを妨害されないように他の奴らを牽制していた。
いくら狩りが出来るくらい訓練は受けたとはいえそんな様子を今まで目の前で一度も見せてきた事がなかった彼らの知らなかった一面。
床で悶える工藤に部屋に残っていた皆様は我先へと階段へと駆け寄って部屋を逃げ出していく。
「なにこの化け猫屋敷!」
「もうやだー!お家に帰りたいー!!!」
「この猫やだっ!服によじ登らないで!止めて!」
酔っ払い三人組の人達は猫に取りつかれてパジャマのズボンが……
猫の重みに勝てなかったと言うように部屋に残したまま去って行った。
そして逃げ出していく皆さんを大福が追いかけながら吠えまくる。
夜の山に響く犬の鳴き声に千賀さん達気付いて!なんて願ってしまうも
「きゃんっ!」
悲鳴を上げたのはチョコだった。
最後まで手放さなかった三脚で殴られたようで悲鳴を上げる。
「チョコ!」
思わず手を伸ばすもそれを阻むように犬に噛みつかれたぐらいではくじけない工藤はゆっくりと立ち上がって逃げそびれた私を見下ろし
「ただ犯されるだけで済むと思うなよ!!!」
ぎらついた欲望と痛みからの殺意のこもる視線を向けられたけど
「フー……」
その間に雪が割り込んだ。
「まだ猫がいたのか」
大半の猫たちは獲物を追いかけて行って外で凄い鳴き声を上げて戦っている。
そしてここまでみんな私を守ってくれた。
いつまでも守られているだけ、ましてやこんなに心配されて蹲ってるわけにはいかないと立ち上がり、何か武器になる様なもの……
枕しかないけどそれを掴めば工藤は冗談だろと言うように鼻で笑う。
どんなものでも武器になる、それは相沢が証明した。
だったら何とでもなると言うように掴む私の枕は蕎麦殻100%。普通の羽毛の枕よりダメージはある!そう信じて構えるも
ぴしり
ベッドの上で立ち上がった私を雪がしっぽではたく。
時々相沢にしっかりしろと喝を入れるそんな光景は見ていたが、この今に限っては
「ここは俺に任せろ」
そんな頼もしい声が聞こえたような気がした。
この部屋の様子を見に再びやって来た工藤の手下をイチゴが追い払い、チョコはちょこっと部屋の隅で休憩中。
落ちた料理を食べているのねとは突っ込まない。
フーっ!!!
そんな雪の声を合図に工藤が脚立を振り下ろすも雪はそのしなやかで身軽な、私達より誰よりもダンジョン潜伏時間を体験している戦闘経験で身をかわし、ダンジョンでもないのに三角飛びを披露して
ザシュッ!!!
工藤の顔にその爪を立てた。
「うわっ!!!」
思わずと言うように手から三脚を落として雪に引っかかれ血の溢れる目に手を当てて痛みに怒りが膨れ上がった。
「このっ!このっ!このくそ猫っっっ!!!
目がっ!目があああぁぁぁっ!!!」
どこの大佐?!
突っ込みたかったけどこの緊迫した空気が言わせてくれない。
それに雪の攻撃はまだ止まらなく、二度と女性にモテないようにと言うように顔を中心にひっかいて行く。
視力を封じられた工藤なんて相手じゃないと言うように横に、縦に、頬何て肉をえぐるように……
傷がふさがってももうかっこいいお兄さんと言う顔は取り戻す不可能なくらいに引っかき傷を増やしていき……
まるでトドメ、そう言わんばかりに左耳を桜カットに仕上げるのだった。
屈辱のキルマーク。殺してはいないけどここはダンジョンの外でもぶれないらしい。
ふん
痛みに悶え涙と涎を垂らしながらのたうち回る工藤を見下ろし満足げに鼻を鳴らして外に行くぞと言うようにしっぽでぴしりと叩かれた。隣にはいつもの人懐っこい顔のイチゴとチョコに外に行こうと言うように守られて階段を降りたら
カー!
カー!
カラスが一斉に鳴きだした。
見渡せば真夜中だと言うのにこの庭を囲むようにカラスが辺り一面に居る。
まるでもう逃げ場はない、そう言わんばかりに庭の中心で固まって脅えている皆さんと
「沢田君!大丈夫だったか!」
「岳君はこちらで保護したから安心してくれ!」
遠目でもぼこぼこに殴られた姿の岳が橘さんに支えられていた。
「沢田大丈夫か?!」
ただ意識はちゃんとしているようで自分だって怖い目にあったのに私を心配する声ははっきりとしていて
「岳こそ大丈夫?!」
「雪の特訓に比べたら楽勝!」
その陽気さに安心したけど、やっぱりカラスが怖くてこちらには来れない模様。
うん。カラス賢くて記憶力も良いから敵に回すとほんと怖いんだよ。
夜だからわかりにくいけど、本当に木々や屋根が黒でびっしりと染まっていてまるで古い映画のよう。
他の猫たちもカラスの出現に姿を隠してしまったが、それでも恐怖をあおるその一面の黒という圧倒的数の暴力に工藤班の奴らは抵抗する意思はもうどこにもないようだ。
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