俺達の戦いはこれからだ!

 たどり着いた先は広い丸いドーム状の部屋になっていた。

 見上げるほどの広い天井の室内と壁にはどこか格調高いと言いたげに彫刻が施されている。

 映像で見るより現物の方が圧倒的に荘厳で、どこぞの宮殿に迷い込んだのかと錯覚してしまう。

 造りは他のダンジョンの動画でも見た時と同じ様子でもあり、そして俺達が入った瞬間階段の入り口は消え、ぽっぽっぽっ……と言う様に壁際の松明に火が灯されるかのように室内の様子が雨天の真昼な感じに見渡せるようになった。

 室内の灯がすべてともされれば部屋の中央に光の粒が噴水のように湧き上がり形を作って行く。


 大きな耳、大きな口、そして鋭く光る牙と爪。

 鞭のようにピシリとしっぽが床を叩き、見上げるような巨躯の狼が実体化した。


 雪は男前な事に全身の毛を逆立ててシャー!!!っと牙をむくも、何度も動画で見た様に狼が深く息を吸い、そして口元からちろりちろりと炎が零れ落ちるのを見て俺は雪を抱えて限りある室内でも遠く離れる様に距離を取った。

 狼が吐き出す青色の炎の攻撃が部屋を総て埋め尽くすほどの量に距離を取る何て意味は成さない。

 腕にはいきなり抱き抱え上げられた事で驚いた雪の爪が深く突き刺さっている事も気にしてはいられない。

 溢れんばかりの炎がその咢から吐き出される様を見て、俺は反射的になけなしの魔法で抵抗をする。


「毒霧っ!!!」


 狼に背中を向けて、炎から雪を守る様に抱きしめて、もう片方の手を狼に向けて力の限り縋るように叫んだ。


ぷしゅー……


 間抜けな音はこんな時でもちゃんと耳に届き、そして視界いっぱいに炎に包まれる。

 

 こんな死に方だなんて、なんてばあちゃんにお詫びしようか……


 ごめんなさい。


 その言葉だけが俺の頭の中に響いていた。

 あんな両親でもたばかった罰だろうか。

 それともダンジョンの利益を独り占めしようとした罰か。

 ちゃんと自分が汗水垂らして働かずに得たお金でのうのうと自由自適に過ごしてきた罰だろうか。

 何時までも山奥で努力を忘れ、夢を忘れ、生きる欲望はその日その日ただ漂うように流されるままだった罰だったのだろうか。


「無事生きて帰れたら通信講座でも受けて何か資格でもとって人様のお役に立つ人間になります……」


 走馬灯のように次々に昔の事を、ぬぐえなかった後悔を思い出していく。

 何時も俺に寄り添ってくれたイチゴチョコ大福、容赦なく浴びせられる嫌がらせの言葉の中でも俺の背中を支えてくれた岳と沢田、病院で横になるばあちゃんを不安げな眼差しで見守る俺を支えてくれた弁護士の小田のじいさん。

 そしてまだ仲の良かった頃の親父と母さん、そして引っ越す前の学校の友達と、同じマンションの幼馴染……

 幸せだったなあの頃……

 


 ……っていうか、なんかおかしくね?



 随分いろんな事を思い出しているなとそーっと目を開ければ、俺と目があった雪がばりんと鼻っ面をひっかいてきて慌てて雪を放してしまった。


「痛ーっ!!!

 雪さん顔面に爪は反則だって!!!」


 床に着地した雪はそのまま踵を返して


「え……?」


 驚きの大ジャンプで狼よりも高く跳び上がり、天井を蹴って狼の顔面に向かってその鋭い爪が一閃した。

 ぴっと赤い血しぶきが飛び散ったる。

 狼も雪の動きから避ける様にして顔を反らせたものの、雪の一閃は片方の耳を桜の花びらの形に切り落としていた。雪さん、そりゃないよとお揃いの耳の形の理由は語るまでもないが


「え、ちょ、雪さん?」


 何で俺達が丸焼けになってないかという不思議はあったが、更に攻撃を加えて行く雪のトリッキーなまでの立体的な攻撃の動きに何がどうなっているのかわからない。


「まるでスカッシュだな……」


 壁を蹴って狼に一撃を与えては距離を取り、また別の壁や天井を蹴っては狼を翻弄する様に飛びかかって攻撃を与えていた。


「雪さんかっこいい!」


 全力で応援すれば俺の横に着地した雪のしっぽが俺をピシリと叩く。


『ぼさっとしてないで手伝え』


 まるでそう叱咤するようなしっぽの動きに俺は気付く。


「武器持ってきてねぇ!!!」


 改めて気づいた現実にどうしようか、狼の落ちた耳で何かできるかなんて頓珍漢な事を考えていたが、俺と雪が一緒にいた事で狼が俺達に飛びかかって来た。

 逃げる様に左右に分かれるも、動きの遅い俺から仕留めると言わんばかりにぎろりといつの間に真っ赤に充血したのかそんな視線で睨まれれば一瞬で怯えるようにすくんでしまう足を叱咤するように俺は手を伸ばして


「毒霧!!!」


 狼に向かって魔法を放つ。

 ぷしゅー……

 何度聞いても間抜けな音だが俺に噛みつこうと大きく開かれた口へともろに直撃したとたん狼は悶える様に転がって壁に身体を強く叩きつけていた。


「え?マジ?

 この毒霧ってそんなやばい物なの?」


 ぶっとい前足で毒を拭うように顔を撫でるもあからさまに弱っている様子に戦っている途中だと言うのにステータス画面をチェックしてしまう。


 出かける前のステータスはこんな感じだったのに


相沢 遥 (22才) 性別:男

称号:ダンジョン発見者+

レベル:17

体力:180

魔力:326

攻撃力:180

防御力:180

俊敏性:183

スキル:無限異空間収納

     ステータス接続権利

     スキルダンジョン外使用許可

     毒魔法+


 今の状態を見ると


相沢 遥 (22才) 性別:男

称号:ダンジョン発見者+

レベル:21

体力:221

魔力:452

攻撃力:210

防御力:210

俊敏性:238

スキル:無限異空間収納

     ステータス接続権利

     スキルダンジョン外使用許可

     毒魔法+UP


 となっていた。

 フラフラな狼の様子に毒魔法のUPを見てツリーを開けば毒霧がレベル3になっていた。


「ちょっとまって。

 レベル3でこの威力ってどういう事?」


 大型生物(?)を悶絶させるバルサンの威力ってどうよ?!なんてパニックになりながらも俺はゆっくりと狼に向かって手を伸ばす。

 ごくりと息をのみ、ひょっとしてと言う様に震える指先で狼に向けて


「ステータスオープン!」


 その言葉と同時に狼のステータスが開かれた。


魔狼 (戦闘中/状態・毒)

レベル:15

体力:36/200

魔力:27/200

攻撃力:250

防御力:150

俊敏性:250

スキル:火魔法+火炎放射Lv5


 見なければよかったと素直に思った。


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