青春ドラマは突然に

 やべえ……

 敵のステータスまで接続可能何て聞いてないよと冷や汗を流している間にも雪の攻撃によって体力の数値はどんどん減って行く。

 36が35、34、33からのクリティカルで30……

 一撃一撃で数値が確実に減って行く。

 それを見ながら体力は普通のゲーム同様カント0になれば終了を意味する事が理解できた。

 魔狼の魔力が変動しないどころかごそっと数字が削られている所を見るとあの火炎放射Lv5がいかに強力で危険な魔法かが理解できた。

 だけど、体力とは違い魔力は少しずつ数値が上がって行く。

 これを見ている間に27→34まで戻っていた。

 魔力は戦闘中でも時間経過と共に戻って行くのかとまだ余裕はあれど何が起きるか判らないからと早く決着付けないとやばいなと俺はもう一度魔狼に向かって手を伸ばし


「雪!魔法行くからどけ!」


 その掛け声に雪はさっと俺の背後まで飛びのき、魔狼は魔法を使う宣言にふらふらになりながらも俺を睨みつけて牙をむく。

 こんな小さな人間に倒されるわけにはいかない!

 そんな覚悟の灯る視線に俺は帰ると約束した決意の視線がぶつかり


「毒霧っ!!!」


 腕を伸ばして魔狼に向かって魔法を放出する。

 ぷしゅー……

 どこまでも限りなく間抜けな音に魔狼は直線上を避けるも、避けた先で足をもつれさせてバランスを崩し、そのまま倒れ込んで動かなくなり、チャンスと言わんばかりに止めを刺すように雪が俺の背後を飛び越え魔狼に最後の一撃となる攻撃を加えていた。


 魔狼のステータス画面は


魔狼 (死亡)

レベル:15

体力:0/200

魔力:38/200

攻撃力:250

防御力:150

俊敏性:250

スキル:火魔法+火炎放射Lv5


 と変っていた。

 静寂の訪れた室内に下に繋がる階段が再び現れ、そして11階に繋がる階段も正反対の場所に現れていた。

 これが戦闘終了した証なのだろう。

 力が抜けてぺたりと座り込んでしまえば雪は警戒しながらも魔狼のしっぽに猫パンチを炸裂させていた。癒される……

 魔狼は横たわったままだけど、やがてその周辺に金ぴかの宝箱がじわじわと姿を現した。

 黄金の宝箱を恐る恐ると突きながらもそこはちゃんと蓋を開けてみる。

 その途端宝箱は消えて中身だけが残されたのにえー?なんて思うも、現われたのは立派な宝石が嵌められた剣だった。

 普通の宝物でよかった。ひと昔なら剣と言う時点で銃刀法に引っかかるけど今は人類皆戦闘員の時代。武器らしい武器を持ってないのでありがたかった。

 そんな調子で宝箱から魔物が出てきても大丈夫なようにゲットしたばかりの剣の先っちょで宝箱の箱を次々と開けて行く。

 ビビリだと笑うがいいと誰に向かって言いながらも蓋を開けては指輪やネックレスとかマントとかが出てきた。

 マントってちょっと勘弁してほしいんだけど……

 コスプレの趣味はないんだけど……ととりあえず俺は指をマントに向けて


「ステータスオープン!」


 ひょっとして見れるかなーなんて軽い気持ちで唱えればあっさりとステータス画面が開示された。

 宝物にもあるんだと逆に感心しながら覗き込めば



耐火のマント

ランク:5/10

防御力:150

備考:火魔法Lv5までの耐性あり


 なん酷い説明だ。

 そんな調子で次々にステータスに接続をしていく。


炎の魔剣

ランク:5/10

攻撃力:250

備考:火魔法+火炎放射Lv5


 これってつまり、あの最初の世界を震撼させた魔法が使えるって事ですか?

 暫く剣を見つめて思わず黙って異空間収納に納めてしまう。

 こんなもの世に発表しちゃダメな奴ジャン。

 封印する事にしておいた。


炎の指輪

ランク:3/10

防御力:100


炎の首輪

ランク:3/10

防御力:150


 この二点には備考欄はなかったが、おおむねあの魔狼のステータスが基本となっているようだ。

 って言うかこれ冷静に考えると強くね?

 まぁ、ダンジョンが誕生して初めて(?)の10階クリアだからボーナスかもしれんけど、バランス崩壊するんじゃね?なんてつっこみながらこんな危険物は収納空間に片づけておく。

 俺は平和に過ごしたいんだと言いながらも11階に繋がる階段に向かってあと一歩で足を踏み入れる境界線。

 俺は何があるか分からない11階に手だけを入れて


「毒霧!」


 ぷしゅーっと一発かけておく。

 ほら、このダンジョンが生まれて数日経っているから溜め糞じゃないけど魔物が溜まって居たら大変だからね。ちょっと間引いとかないとねと毒霧を数回噴霧した後俺はたぶんこの魔狼戦でレベルが上がったのか余裕でこの巨体を片手で持ち上げ、先ほどから11階に向かおうとする雪をもう片方の手で抱えて


「お腹空いたから一度戻ろうねー。

 綺麗になってチュール食べようねー」


シャーなんて言ってたけどチュールと言う呪文と言う甘い罠で雪の気を引きながら9階へと繋がる階段戻る事にした。




 しくしくしくしく……




 何やら怪談のような展開が階段の先で展開しているようだった。

 って言うか、今はこの泣き声には少し苦笑してしまう。

 行きは閉ざしてあった扉自体が今では消失して只の階段の通路のようになっていた。

 そして階段の先では扉が無くなった事に気づいてないのか蹲るように泣いている沢田

が居て……


 ちょっと笑みが零れてしまった。

 なんかどっと安心してしまって、目の前で起きている事に気づかずに両親に必要とされなかった俺をこんなにも泣き崩れてまで心配してくれる沢田の姿がなんだか震えるほどに愛おしくなって……


 ああ、これが吊り橋効果と言う奴か。


 すとんと妙に納得してしまえば、確かにこんな沢田は可愛らしいよなと微笑ましく暫くの間眺めてしまう。

 だけどずっとこのままでいるわけにもいかなくて


「沢田、ただ今。

 約束どおり雪さんとすげー良い肉のお土産持って来たよ」


暫くしてゆっくりと化粧の泣き崩れた酷い顔が俺を見上げた。

涙どころか鼻水も全開で、もちろん涎もだらだら……

嫁入り前の娘の顔じゃねーなと、でもこれだけ心配してくれた沢田の視線を合わせる様にしゃがんで顔を覗き込んで


「戻ったらこの肉でたらふく飯を食わせてくれるか?」


 にっこりと出来るだけ何事もなかったと言うような顔で狼の頭を沢田に見せれば

 

「あ―――――!

 い―――――!

 ざ―――――!

 わ―――――!!!」


 一段と滂沱の涙をあふれさせて俺の顔や体をぺたぺたとやおら触りまくり始めたかと思えばそのまま俺の胸に顔面からダイブしてきて泣きじゃくるのだった……


 あのー沢田さん。

 胸の辺りがなんだか湿っぽいのですが……


 たぶんこれの内容の割合を言うと全力でぐーぱんだから黙っておくけど、普通胸とかやわらかい物を押し付けてくれるのがお約束だと言うのに何で涙と鼻水なんだよ。何の青春ドラマなんだよと落ち着くまで途方にくれるしかないのは仕方がないだろう。

 振り向けば浮き上がるように扉が出現してしっかりと再び閉ざされた扉にはここを潜る前のように魔方陣が浮かび上がり潜る前と何の変りのない扉になっていた。


 沢田が泣きやむまでの暫くの間ゆっくりして、それから泣き疲れた沢田の手を引っ張りながら地上の我が家へとたどり着けば、納屋からドリルを見つけ出した岳とやっと再会ができた。ここでも再会の滂沱攻撃を受ける羽目になったのは、俺がこれだけ友人に恵まれていると言う証拠だろうとこの喜びとは別に浮かぶ胸元を濡らす成分に何とも言えない感情を割愛する事にした。







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