待望の人

 ごとり、クズの首が落ちてしばらくしたのちに体も崩れ落ちた。

 それを見届けてから岳は鉈に着いた血糊を一振りで払落してその首を掲げ持つ。


「動画開始時間より概要欄に張り付けたURLからオークションページに飛んでもらってこのクーズーに似た魔物の角を各一本ずつ最高値の二名様にお売りします。

 どんどん応募をお待ちしております」


 カンニングペーパーを読みながらの棒読みの案内に俺は次々に跳ね上がる金額のオークションの様子を見守っていた。

 国営販売を通さずのオークションの税金問題について勉強はしたつもりだ。

 売り上げの半分を持って行かれるがトイレの設置に100万円を見積もれば十分すぎるだろうし、沢田の台所だけなら百万もいらない。

 お店の開店費用はこれ以降の動画配信で十分見積もりは取れるだろうから心配はいらないしアカウントを削除されても十分なお小遣いにはなる。


「なんだ。別に自衛隊必要ないじゃん」


 内臓問題も解決したし魔物の販売だけならそこまで心配はいらないだろう。リスクを負って直営にこだわらなくても十分に必要経費は稼ぐことが出来る。違法ではなくても国営通さずに売る人達が減らないわけを納得してしまった。

 モンパレさえ考えなければひょっとして余裕じゃんと思うもこれからの敵は自衛隊にある事を考えればここに来るまでにどれだけ稼げるかが問題になる。


 そしてたった三時間設定のオークション終了を見て俺達三人はその金額にガクガクと震えていた。


「なあ、これ嘘だろ?」

「見た事無い数字なんだけど?」

「っていうかこれっておいくら万円?」


 岳の現実逃避も理解できる。

 確かに俺達の動画はちょっと飯を食べて風呂に入ってる間に恐ろしい視聴者数に膨れ上がり、同時にオークションの金額の跳ね上がり方を見て途中から見るのを止めてしまった。

 これは絶対面白半分に吊り上げられたかと思ってまに受けてなかった。

 何だったら今度上限を決めて再度オークションにかけようとしたけど、一応取引のメールを送ればすぐに返信が来て……


「なあ、見た事のない数字が入金されてるんだけど」

「奇遇ね。私も目の錯覚かと思っちゃった」

「さっき見た数字だけどいったいなんのすうじだろうね?」


 三人そろって現実逃避。

 いや、岳にしたら分かってないような気もするというか俺の心の平和の為にも理解しないでくれと思う。

 

「いたずらじゃなかったんだ……」

「どうする?さすが角だけでこの金額はありえなくない?」

「だったら皮もつけてみる?マロ肉とか?」

「「それでも足りない!!!」」

 沢田と共にそれでもこの金額には足りないだろうと岳に言うも

「だったらマロのお宝を付けるとか?」

 なけなしの提案というように言う岳にそれ以上のおまけは何だと考えるも世間ではそれで十分だというのが理解できないくらいマヒしていたという事には最後まで気が付かなかった。

「じゃあ、発送方法を確認したらマロからお宝貰ってくるぜ!」

 岳が提案した直後そのまま一人でダンジョンへと潜って行ってしまった。

 もちろん水筒と非常食と愛用のバッドを持って行くのを見送ってしまったけど

「もー、十階ボスに一人で行くなって言うの」

 ぷんすかと怒る沢田だけどその足元をするりと白い何かが通り抜けて行った。

 フリフリとご機嫌よく元トイレに入っていくその後姿を見送れば

「雪さんがついて行ってくれるみたいだから問題ないな」

「だったら……

 雪ー、お肉沢山持って帰って来て!岳にもってこさせればいいから綺麗に倒すのよ!」

「にゃー!」

 なんて階段の下から任せろと言わんばかりの頼りある返事があった。

「ふー。これで追加のプレゼントもゲットだね!」

「だったらローストマロとかそう言うのも用意するとか」

「もー、単に相沢が食べたいだけでしょ?」

「マロはローストマロが一番美味いんだよ」

 言いながら宅配のあて名書きをする。

「じゃあ、私はマロ料理作ってくるね」

「じゃあ俺は黒猫さんの所に発送してもらいに行ってくる。そのあとダンジョン潜る!」

「お願いね!」

「沢田こそ頼むな!」

 一応黒猫さんで配送する事はオークションをする時に書いてあるのでそのまま黒猫さんで送らせてもらう。 

家に帰れば竈のある納屋からいい匂いが漂ってくる。

何度も食べているとは言えこの匂いは幸せだ。今夜のご飯は何かなーなんてスキップまでしてしまう。

そして時間をが余ったので

「雑草でも刈るか」

 そう言っていつものように草刈りスタイルに変身して玄関を開ければ


「目の前にスーツを着た人がいるー」

「ええと、こちらが相沢遥さんのお宅でよろしいでしょうか?」


 手拭いをあたまからかぶって顎下でしばった後麦わら帽子をしっかりとかぶる。もちろん畑仕事なので長袖長ズボン。紫外線対策の為にサングラスもばっちりしている。


「はい、俺ですね」


 さらに鉈はもちろん鍬も持っている。

 いきなり前触れもなくドアが開いた直後にこのスタイルで対面すればこうやってドン引きされるのは当然の結果だ。

 お連れ様ものけぞってしまうこのスタイル。

 とりあえず俺は麦わら帽子と手ぬぐい、サングラスを取って素顔を見せる。

「すみません。雑草を刈ろうと庭仕事をしようかと思いまして」

 こそこそと鉈と鍬を玄関の片隅に片づける。

「ところでどちら様でしょう……」

 と聞けば


「自衛隊から来ましたダンジョン対策課の三輪と申します」

「同じくダンジョン対策課の橘と申します」


 待ちに待ったダンジョン対策課の人が来た。


「ものすごく待っていました!

 どうぞ上がってください!!!」


 思わずと言うように三輪と言う人の手を両手でつかみ、ありがたく握らせてもらうのだった。


 やっぱりだけど当然ながら逃げ腰で引かれてしまった。



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