脱マロ肉!!

 無謀ともいえる一回目の配信はおおむね好調だった。

 タイトルは


「ダンジョン10階の攻略の仕方!」


 沢山の人達を悲しい結末に導いた悪の象徴のマロ。

 ライブ放送のできないダンジョンなのでせめてノーカット、ただし収益の為にモザイク編集はさせてもらった。マロの最初の炎攻撃対策でカメラを守る事が必須だったけど、ケルヒャーのおかげで俺達三人は水魔法を習得した事もありマロの炎には余裕でカメラの防衛は出来たのだ。

 その動画配信の結果は予想の通り。


『はいはい、フェイクおつ~』

『なんだ、ただの合成職人か』

『つり、つり~』

『今まで人がたくさん〇出るのに不謹慎!』


 当然このようなコメントで荒れるのは目に見えていた。

 沢田はせっかく頑張って攻略の仕方を紹介してるのにと心がふさぎがちになってしまったが

「そもそも魔法を習得してないと攻略できないからな。

 11階の紹介映像を明日流すからそれまであまり動画を見るなよ。

 俺達がエゴサする意味はない。とりあえずこれで自衛隊が来てもらうのが本来の目的だからそこは間違えるな」


 動画を上げて再生回数が増えてどんな内容でもコメントを貰えれば世界の中心にいるんだと勘違いをしたくなるが、俺達はあくまでもゴキブリホイホイのごとくどんなアプローチをしても来てくれない自衛隊を誘い込む為の動画でしかない事を改めて確認する。

 何も考えずか何を考えているのかわからないけど岳は今日もマロ肉のシチューを山ほど堪能してるから問題ないが繊細な沢田の方が心配だから

「今日泊っていくか?」

「んー……」

 少し考えた所で

「一人だといろいろ考えちゃうから泊って行こうかな」

 なんだかほんのりと意味ありげな温度を持つ会話なはずなのに

「ん?じゃあ、俺も泊ってくな!」

 スプーンを咥えながら笑顔の宣言の岳に俺も沢田も仕方がない奴めと言うように笑う。

「それに納屋のリフォームも進めたいしね」

 言いながら庭を囲むように車庫と納屋へと視線を向ける。

「二階のリフォームは大体済んだのか?」

 雑草と戦う俺はあまり納屋のリフォームについてノータッチだが

「とりあえず沢田の部屋は完璧だよ」

 意外と器用な岳が自慢げに笑みを浮かべる。

「電気もつくし断熱材も入れてくれたし吹き抜けの空中窓から一階で点けてるストーブの暖気が上がってくるから暖房器具はいらないくらい暖かいよ。むしろ昼間は暑いくらい」

「そいつはよかった」

「あと押し入れを潰してヌックみたいなベッドルームを作ってくれたんだ。今度見に来てよ」

「沢田のセンスが問われるな」

「ふふふ、岳と相沢のセンスと比べればカワイイに決まってるじゃない」

 呆れたように笑う沢田の笑顔に思い出す。

「そういや玄関に置き配があったけど沢田のか?やけに重たかったけど」

「あ、ベッドのマットレスが来たんだ!」

「じゃあ、後で運んでおくよ」

「サンキュー。

 って言うかスキルのダンジョン外使用許可ってありがたいね。

 ダンジョンの中の能力がそのまま使えるんだもの。

 私もそのスキル獲れるチャンスがあれば欲しい~」

「俺も欲しい!リフォームがはかどって助かるけど毎回相沢に頼むのが申し訳ない!」

 なんて気づかいのできる岳に

「人間ブルドーザーと呼んでも構わないぜ」

「ブルドーザーも良いけどあの猪の親子が来たぞ」

「くそっ!今日こそはしし鍋にしてやる!」

 なんて走って追いかければそこは野生の獣。勘の良さも逃げていく足も速くて本日も逃げきられた。

「相沢ドンマイ?」

「また明日の挑戦頑張ろうな?」

「くそー!明日こそマロ生活から脱出してやるんだから!」


 なんて笑っていた時がありました。


 そして夜7時。

 いわゆるゴールデンタイムに合わせて動画が予約公開された。


 前回のマロを倒した続き。

 現れる宝箱と出現する11階への階段。

 俺達は恐る恐ると言うように足を運び、まだ誰も見ていないかもしれない11階の世界へと飛び出した。


 青い空。

 そよぐ風。

 大草原にぽつりぽつりと枝葉を伸ばした大きな木が点在していた。

 遠くには角を持つ魔物が見えるがまだこちらをうかがうように身動きしない。

 そしてぐるりと見渡せば階段の出口はダンジョンの入り口のようにレンガ造りの通路がその場に在っただけ。

 胸いっぱいに青臭い空気を吸い込みながら化学物質も排気ガスも何もないクリアな空気は家の周りと大して変わりはない。

 いや、森の中にある分マイナスイオンが豊富だと思うのは俺のただのえこひいきの問題。

 いや、日陰があるのって大切だよ?

 サバンナと言うわけではないけどここのフロアの問題は点在する木々にしか身を寄せる場所がない。もしくはもうちょっと先にある森まで行かないと隠れる場所がない頭上注意のフィールド型ダンジョンなのだ。

 このフィールド型は14階まで続く。

 そう、15階の入り口が10階の入り口のように扉で閉ざされている。

 レベル的には十分余裕なのだろうが、何があるか分からない為に二の足を踏んでいる状態でその為の自衛隊待ちと言っても良い。

 俺達の代わりに、ってわけではないが魔法の習得の仕方と引き換えにダンジョンをクリアして消滅してもらいたい。

 俺の願いはただそれだけ。

 あわよくば今までため込んだマロの宝とかダンジョン肉とかを買い取ってもらって我が家に沢田のレストランの開店費用と簡易トイレを設置する費用が欲しい程度の欲ぐらい。

 十分交渉材料にもなるしお釣りの来る程度のお願いに無茶は言ってないと俺は思っている。


「相沢!クーズーが来るよ!」

 沢田が注意勧告してくれたモンスターはアフリカにいるようなスパイラルな角を持つモンスター。

「くそっ!クズか!

 こいつも牛みたいな赤味の肉なんだよ!

 俺は魚が食べたいんだよっ!!!毒霧っ!!!」

「我慢して!

 お魚系のモンスターいないんだから!闇炎!」

 言いながら俺はこの大草原に生息するだろ害虫を毒霧で一掃し、続いて相沢が向かってくるクーズー改めクズ迄の最短距離の草を炎で焼き尽くす。

 その後は走りこんで鍛えた脚力を使って岳の


「一閃っっっ!」


 俺の畑で活躍している鉈でクズの首を気合と共にすれ違いざまに

切り落とした。



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