そんな目で俺を見るな!

 二人をいつも使っている囲炉裏のある居間ではなく、仏間の隣にある客間へと案内する。

 途中縁側から囲炉裏のある部屋を物珍しそうに眺めていたがそこは気づかないふりをしていつ来てもらっても構わないように準備していた座布団を上座に並べて座ってもらった。

 車の音と聞きなれない人の声に沢田がやってきてくれて、自衛隊らしくびしっと着たスーツの二人を見て感涙しながらもお茶の準備を始めてくれた。

 俺だけでは説明を聞くのに不安だった為にお茶をお出しする合間に弁護士の小田の爺さんにも連絡を入れておいた。

 あいにく留守だったので留守電サービスに「自衛隊の人がやっと来てくれましたー!」って話を残しておいた。

 そうしてお茶をお出しして簡単な自己紹介をしてから沢田と二人で面会する事になったのだが


「この度は連絡を頂いてから到着までに時間を頂いてしまって申し訳ありません」

 

 という低姿勢の謝罪をまずは頂いた。


「いえ、秋葉の事もあったので遅れる事は覚悟しておりました」

 まさか二週間も待たされることになるとは思わなかったけど

「あの、自衛隊の応援ってお二方だけでしょうか?」

 沢田が気になると言うように縋る感じで聞けば

「大変申し上げにくいのですが、ただいまダンジョン課は非常に人手不足となり、こちらの相沢様のお宅のようにダンジョンをコントロールできている場所の派遣はなるべく控え、スタンピードの可能性のある場所を優先しております」

「つまり、うちはまだまだ大丈夫という事でしょうか……」

「ええ、まあ。

 お二方はダンジョンに入られましたか?」

 聞かれて俺はヤバいと思えば一瞬にして三輪さんの目が鋭くなったので正直に話す事にした。

「はい。講習で『決して入らずに自衛隊の応援を待つように』と言うのは習って判ってたつもりですが、いざこんな身近な所にダンジョンが発生するとどうしても出てこないように最低限の討伐をやらないと、と思いまして。

 沢田と今はここにいませんがもう一人、上田岳の三人で警戒をしております」

 決して雪やイチゴチョコ大福を連れて行っているという事までは言えない。

 毒霧のおかげで一応俺がこのダンジョンの最高位ランカーとは言え実践では雪が頂点に立っている事も決して言えない。

「入ってはいけないと判ってても入ったと」

「場所が場所なので。

 理解してもらう為にも一度ダンジョンを見に行ってはもらえないでしょうか?」

 百聞は一見に如かず。

 本当にどうしようもないくらいに怖かった事を理解してもらう為にもまずは見てもらってから判断してもらおうと返事を聞く前に案内をする。

 俺と沢田が動いたので仕方がないというため息を背中で聞きながらも案内をする。

 一応用意したスリッパは全員履いている。

 靴を履いて向かうべきだと思うのだが見るだけならスリッパで十分だろう。

 古民家の長い縁側を歩いて玄関ではない方に曲がり何か言いたげな視線を向ける先を俺は見てもらう方が早いと言わんばかりに昔から張り付けてあり、欠けて色あせた「トイレ」というカタカナのシールが付いた一枚の扉の前に二人を立たせた。


「あの、まさか……」

「こちらがうちのダンジョンです……」


 ものすごく言葉で表現するのが難しそうな三輪さんの目の前でトイレの扉を開けてみせた。

 

 田舎ならではの謎なくらいに広いトイレ。

 ぼろぼろにはげかけた砂壁に怪しい形のタイルが埋め込まれたザ・昭和の匂いを醸し出すトイレの窓枠は当然木枠。

 暫くの間言葉を失う二人の視線は当然あるべき場所にあるべきものが失われた代りに発生したダンジョンの入り口。

 使わなくなって役目を終えた銀色のスチール製のトイレットペーパーホルダーが虚しく鈍い銀色を放っていた。

 三輪さんは頭を二度三度振り、目元を押さえ

「あの、つかぬ事をお聞きしますがお手洗いはどうなさっているのですか?」

「離れの納屋に古式ゆかしきぼっとん便所が残されていたので今はそちらを使っています。

 さすがに外で、というわけにはいきませんので」

 二人は都会生まれの都会育ちな人間なのだろう。

 三輪さんどころか橘さんまで顔を引きつらせている上に俺は爆弾発言をさらに放つ。

「設置されたのが不明なくらい古い物なので耐久年数もすでに超えているため新しいのを設置し直した方が良いと言われまして」

 水洗トイレが当然の世界で育ってきたのだろう。

 顔を青ざめて壊れたらどうするのですかという疑問を浮かべる顔には俺の方こそ聞きたいよと心の中で叫んでしまう。

 一応聞いた話では汲み取り側から水か土で埋めてコンクリで蓋をするらしいが、何かの拍子に地面が割れてその中にぽちゃん…… と落ちてしまったらどうしようという不安には土で埋める一択しかない。ただしその作業に加え新たにトイレを設置しなくてはいけなくなり、合計数十万と言う莫大な金額になるので今は現状維持で耐えてる状態。

「よければここで刈った魔物を自衛隊で引き取ってもらえませんか?

 せめてトイレを新しく設置する金額が欲しいのです!」

 先ほどのオークションでそれだけの金額は手に入れたが一応俺達の切迫した状況をアピールするのは悪くないはずというように主張しておいた。




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