男前なのは男性とは限らない件
俺の力説に三輪さんも少し引きながらもなんとか納得というように
「な、なるほど。
これがどうしてもダンジョンに入らなくてはいけない理由ですか」
「そもそも寝起きにトイレに入ったので寝ぼけて階段から落ちましたので」
なんてさらりと嘘も混ぜておく。
じゃないとステータスを見せろと言われた時のダンジョン発見者という称号の言い訳が出来なくなる。更に弄ってツリーを解放した時に会得した無限異空間収納、ステータス接続権利、スキルダンジョン外使用許可何てどう考えてもヤバいスキルを会得した理由の説明ができなくなる。
きっと自衛隊の人もダンジョン発見者と言う称号の事を知っているのだろう。
かなり厳しくなった視線に俺は沢田に目を向けてから
「部屋の方に戻りましょうか。
ここで話をするのも狭いですし」
そう促せば
「すみません。写真を撮ってもよろしいでしょうか?
報告もあるしダンジョンに入った説明もしやすくなると思いますので」
「はい。古いトイレなので人様に見せるのは恥ずかしいのですが」
そこは関係ないと言うようにスマホを取り出してパシャリ、パシャリと写真を撮ってからの……
「あの、一つお聞きしたいのですが……」
三輪さんの怪訝な顔。
真剣にスマホを見るその視線にああ、と納得。
「すみません。ここ私有地なので電波は入らないです。
良ければうちのWi-Fi使って下さい」
「え、ええ……
スマホの電波が拾えない地域があるなんて……」
「この辺けっこうありますよ?バス通り沿いは比較的拾いやすいかもしれませんが」
現代社会の悲しいコスパの結果だ。
「一応見える範囲がうちの敷地なので、お隣さんが一番近い所が下の商店ですから」
どこか死んだ目のお二方だけど、俺はルーターのパスワードを三輪さんに見せながら使うかどうかの判断を任せる。
きっと一般家庭からのWi-Fiの使用に制限があるのと言うように利用を諦めた三輪さんに気付かないふりをしながら
「ところでこれからはどういう予定になってます?
ネットで見る限りダンジョンの近くで自衛隊が待機するという事になってますが……」
聞けば橘さんよりも年上、という上官という雰囲気のある三輪さんは少しだけ真面目な顔をして
「一応入り口で24時間体制の警備という事になり、普段なら近くにプレハブの待機場所件居住区を用意するのですが……」
なんて言葉を濁す言い方は仕方がないよねと俺達も苦笑い。
なんてったってこのダンジョンは個人宅の敷地内に発生したもの。さらに言えば家の中に発生したものだからすぐそばにプレハブハウスを建てて24時間体制で監視するなんて事は出来ない。
って言うかそもそも24時間なのにワンオペとはどういう事?
突っ込んでいいのかどうかはわからないけど、三輪さんの余計な事を聞くなと言う眼光が怖くて何も聞けない。
ちなみにうちの敷地の外からとなると車で10分はかかる。
本当にご先祖様に言いたい。
なんでこんな引きこもった所に家を建てたんだよと……
かつては木こり、その後は農家と言う歴史を持つ家なだけにその時その時の時代に合わせて過ごしてきたのだろうという事は判った。
とは言えこれだけの不便さにさすがの自衛隊の人も困った顔をしている。原野なら車を飛ばしてくればいいのかもしれないけど山なので道路の片側は崖と言うこの立地。
命大事にと言う安全運転を当然推奨してしまうし、峠を制する者が勝者だとかいう人ならどうぞお好きにと言うしかない。
まあ、俺から妥協点を口にするしかないのかなあとちらちらと俺を見る三輪さんの視線に心の中で盛大にため息を落とす。
「よろしければ庭で良ければお使いください。
基本は沢の水ですがトイレは簡易トイレのレンタルをお勧めします」
「よろしいのですか?」
「今沢田と岳の部屋を納屋に作ってる最中ですので一応良ければ空いている納屋を改造して住んでもらうのも手かと思いますが……」
「いえ、ただでさえ場所をお借りするのに納屋迄お借りするのは心苦しいので。
ですがもし何かあった時は再度ご相談すると形でもよろしいでしょうか?」
なんて逃げ道をちゃっかりつくる三輪さん。
やっぱり大人だよなー。きっと防衛大学出てるエリートさんなんだよなーなんて太刀打ちなんて無駄になる事を思えばにっこりと笑顔で
「一応畑をやっているのでそれ以外の場所を使って下さい」
「でしたら平らな場所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「入り口方面だと俺達の車が通れなくなるので、あのあたりで良ければ問題ないかと」
納屋から続く庭の部分を指させば十分というように三輪さんも頷いてくれる。
「我々の派遣の遅れに申し訳ないと思っているのにこれだけのご配慮ありがとうございます」
「モンスターがあふれ出さないようにする為に頑張りましょう!」
にっこりとモンスター怖いなんて顔をしておけば三輪さんはにこりと笑い
「あとは橘の方で説明や注意事項があると思います。
私はこの後つぎにスタンピードが発生の予測が立っている場所に召集されてますのでここで失礼させていただきます」
「え?」
思わずと言うように沢田が声を落としたけど
「国民の平和を守る為に自衛隊があります。
どうぞ我々の無事を祈っていてください」
どこか寂し気な笑顔。
きっと自分の未来を既に予測しているのだろう。
三輪さんが橘さんをここに連れてきたのは前線から遠ざける為だろうという配慮はなんとなく判った。
だけどその間橘さんはほとんどしゃべらずにいたのはどうやら寡黙な人というわけではないようだ。
玄関で靴を履きぴしりと一礼してから、去って行こうとするその背中に
「先輩!」
きっとこの二人の正しい関係だったのだろう。
三輪さんは振り向いて視線で窘めるも
「ここはまだ未開のダンジョンだ。
強くなれ!」
パシリと肩を叩いてから俺達にもう一度家族を預ける、弟を頼むと言うように深く頭を下げて去って行く三輪さんを俺達は唖然と見送る。
自衛隊にとってこの派遣は強化訓練の一環で、この三輪さんにとったらこの田舎に橘さんを送り込む事が橘さんの命を長らえるための選択だったのだろう。
去って行こうとするその背中がやけに小さく見えて……
閉ざされた扉に俺の横に立つ橘さんのきつく閉ざす唇。そして握り拳から血がしたたり落ちた。
これは間違っている。
だけど覚悟を決めている人を呼び止める事なんて出来なくてどうすればと焦る俺の代わりに沢田が俺達の目の前を駆けて行った。
「待ってください!
ご飯ぐらい食べる時間、ありますか?!」
ドアを開けて移動で皺の寄ってしまったスーツの背中を握りしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます