食育って大切だよね

 廃城の中に入ってすぐさま雪は駆けだして魔物に止めを刺していく。

 ちょっとー、それ伴さん達にやらせたかったのに…… なんて俺の思惑はかけらもなく


「雪しゃんやっぱりしゅごいでしゅねー! 今日もいーっぱぁい捕まえてきたねえ!」

「にゃっ!」


 お約束のように玉座の間の広間に集められた魔物とご対面をした時の俺の反応。そして誇らしげな雪。

 もう今更誰も気にも留めない俺達はむしろやりたい放題だ。

 

 無言で雪が持ってきたそのキュートなボディから想像もできない力で自分の何十倍の魔物を山積みにする作業を見ていた伴さん達は今も無言のまま。


「こいつ何」


 そしてやっと絞り出した反応がこれです。

 加藤さんと緒方さんはもう俺に関わりたくないという様に二人で山積みの魔物を三輪さんや橘さんからそれが何か説明を受けていた。


「あまり深く考えなくていいですよ。

 ただの愛猫家とハンターの達人な猫なだけですので」

 

 林さんが俺達の事をそんなぞんざいに評価してくれた。

 いや、むしろものすごく素敵な評価じゃないか?

 愛猫家だなんてと思うも間違いを一つただすことにする。

「俺は雪だけがかわいいんだ」

 他の猫は確かにかわいいかもしれんが雪ほど愛着はないと言えば

「お前も苦労するな」

「にゃ」

 千賀さんに慰められていた。

 何はともあれこれ以上寂しくなるのは嫌だから

「とりあえず今日はここで休んで明日に備えよう」

 千賀さんの一声に俺は血の匂いが漂う魔物を収納して同時に花梨のガーデンキッチンを用意する。

 もちろんおなじみログハウスに千賀さん達のキャンプ用品。


「じゃあ、ご飯作るから先シャワーとか浴びちゃってて」


 花梨の言葉に

「俺雪ともう一度見回りに行ってくるね!

 行くぞ雪!」

「にゃっ!」

 なんてそろそろリポップされているだろう魔物を求め上に続く階段に向かって旅立ったコンビに

「じゃあ俺達ももう一度下の階を見に行きます」

 橘さんと三輪さんが名乗り出た所で

「では我々も……」

 伴さんたち三人も一緒に行こうとしたけど

「伴さん達はここで待機です」

 千賀さんと林さんが並んで待ったをかけた。

 千賀さんの背後に林さんがいるという立ち位置。背後の林さんがものすごく悪い顔をしているように見える。実際そうなんだから怖いんだよとご愁傷さまですと伴さん達に手を合わせておく。

「お三方はとにかく休息を。次のステージにはまだ早い相手が待ち受けているのだから、せめてじゃまにならないように勉強会をしましょう」

 突如お勉強会と言うイベントが発生した。

「って言うかシャワー……」

 浴びたいんだけどと言いたいけど

「10分で交代です。一番にどうぞ」

 花梨の調理時間を考えるとそれぐらいしか時間はなく

「くっそー! 俺の水魔法のあったか温度は42度だからな!!!」

 風呂の温度設定がそれなので熱湯に水を足して慣れた温度を求めている間に発生した最適温度の42度。

 魔法の名前がなぜか『極楽』なのは全く意味が分からないけど確かに『極楽』だよな!!!

 なんてダンジョンわけわからんなんて思った日もありましたが……

 それでも少し寒さを覚える異世界の夜にその温度はやっぱり極楽で……

 俺は魔法でがっつりシャワーを満喫できるけど皆さんこの極楽魔法にたどり着いてないようなのでタンクにお湯を張っておく。

 一応恥じらいというものを俺を含めて全員が持っているのでその陰に隠れてシャワーを浴びる。

 こうなると源泉水の温泉が気持ちよかったなーと気持ちいいしか選択のできない湯質と効能、そして絶壁の崖の上にあるという景色。時々魔物に襲われる以外まったく問題のない真の極楽があったのだ。

 あれは本当に良かった。

本当に最高だったんだよ……

 俺は極楽天国一直線の魔法を止めて素早く服を着て真の極楽へと再び飛び込むためにも


「千賀さん。やっぱりあの温泉を探しに11階に行きましょう!」

「相沢よ寝言は寝て言え」


 けんもほろろなこの対応。

 少し前まではもうちょっと優しかったのになあなんて思うもなぜか皆さんタブレットをもってのガチのお勉強会。

 俺が戻ってきたところで千賀さんがシャワー浴びに行けば林さんが主導のエリート向けのお勉強会は聞いているだけで眠たくなるので俺は戦線離脱。

 タブレットで勉強するより実践で学ぶ方が何倍も勉強になるぞ……

 なんて岳みたいな脳筋になっていた事に気付いて適当に出したマットレスに体をうずめて横になってしまう。

 途中解体をしていた工藤がお前何をしてるなんて目を向けてきたけどそこは無視する程度のスキルをマスターしている俺としては全く気にならない。

 と言うか、これはスキルとして登録されてないのかよと言うなんとなく感じる理不尽にここが確かにダンジョンだなと覚えつつもマットレスと布団とクッションと言うセットに一瞬うとうととしてしまう。

 すぐ目が覚めたけどそれでも二十分は過ぎていた。


「寝れましたか?」


 枕元に立っていたのは林さん。

 ちょー怖くって叫びそうだったんですけどと思うも

「皆さんは?」

 シャワー浴びてもらってます。

 ぼちぼち三輪や岳たちも帰ってくるでしょうから」

 そしてご飯。

さらにその後は花梨のゆっくりバスタイム。

 俺達はシャワーで、なんて理不尽な事を言ってはいけない。

 なんせ花梨は自衛隊や肉体派の皆様のお腹を満たす量のご飯を用意するのだ。

 最低人数分の三倍を用意してさらに夜食や明日の朝の仕込みをすると言う大仕事を一人でするのだ。ったく何処の食堂だよ!と花梨が吠えるのは当然というものだろう。

 その見返りがゆっくりバスタイムならこの格差何て全く問題ない。胃袋を掴まれた宿命と言うべきかこの何の文明のない世界で花梨の美味しいご飯が俺達の心の慰め。

 心も満たす満足を与えてくれるご飯の代償がバスタイムと言う些細な幸せと言うのならどうぞと言うしかないのだから全く持って問題ない!


 いい匂いが充満する玉座の間にやがて岳たちや三輪さん達も戻ってきて慣れたようにまとめてシャワーを浴びる…… 地ご…… 体育会系?

 まあ、俺は知りたくないむさい空間と言うのは見向きもせずについでに血糊を落としてもらった雪をタオルとドライヤーのおかげで温風を出す魔法を覚えた俺はふわふわの毛並みの雪に仕上げる。

 もちろん手は洗われた事でご立腹の雪しゃんによって傷だらけだけどそう言った感情を俺に向けてくれる甘えを俺は喜んで受け止める。 

 

 この後起こる死闘を想像すればこんな所で日常を得られる幸せ。

 

 俺が選んだ未来をめちゃくちゃにして近所に家が見えないような田舎に引っ越すことになってふてくされた俺がこんな風に幸せを感じる日が来るなんてと源泉水で雪のひっかき傷を治していれば


「みんなシャワー浴びた?!

 浴びたならご飯だよー!!!」


 花梨の今日一いい声。

 そして今日一腹を刺激する匂い!


 疲れた体にシャワーでさっぱりした後に目の前に並ぶ料理の数々。

 

「最後の晩餐にならないようにしっかり食べてね!いただきます!」

「「「「「「「いただきます!!!」」」」」」」

「「「い、いただきます」」」

 

 これは儀式か?という様に伴さん達も慌てて声を上げれば


「いただぁきまぁーす!」


 来たよこいつ。

 ちゃっかり紛れ込んできたよ。

 うわー……なんて思う俺達とは別に椅子から転げ落ちて壁際まで逃げる伴さん達。

 俺としてはいつの間に隣に座ってたんだよと言う神出鬼没な借金鳥に


「なに勝手に食べてんだ?」


 目の前にあった何の肉か知らない巨大なスペアリブを美味しそうに腹に収納して食べる借金鳥は


「ともだちぃ! ごはん、いっしょにたべるぅ!」


 そんな嬉しそうな叫び声をあげてスペアリブを完食した借金鳥にしたたかにお怒りでちょっぴり涙目の花梨様はテーブルの色どりとしたサラダを次々に渡して……


「お肉を食べたのなら野菜も食べるのよ?」

「は、はぁい……」


 気迫だけで借金鳥を黙らした女王様の称号を必要としない女王様だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る