ずいぶん賑やかになった故の問題も発生

「しゃ、しゃべっ……」

「ま、まもっ、のおおおっ?!」

「う、うわあああぁぁぁっっっ!!!」


 途端にパニックになる伴さん達。武器を持ってないからなおさらだ。

 特にできる脳筋確定の加藤さんの絶叫に俺達は生暖かい目を向けて


「隊長、俺達も初対面の時あんな感じでしたね」

「まあ、慣れれば相沢ほどではないがかわいいと思えるな」


 なんて三輪さんと千賀さんの会話。

 そうか、千賀さん。あなたはついに借金鳥にかわいいを感じる所まで来ましたか……

ひょっとしたらダンジョン対策隊のマスコットキャラ認定になるかもなー?

でもいつかはばれると思ってたけどここでバレるとかどう説明すればと考えていただけにこの遭遇に脱力してしまうのはビビる三人の前で花梨と借金鳥の

「勝手に食べないで!」

「ごはん美味しいね!もっとちょーだい!もぎゅ!」

「あげるから勝手に食べないの!」

「サラダじゃないのおいしーね!もぐもぐ……」

「ちょっと!そこっ!!!」

「はっ!」

と言うご飯戦争が起きているから。

 意外なのが借金鳥と一番付き合いの長い工藤が自分の取り皿を使っておにぎりやおかずを取り分けて皿は食べないようにと注意しながら花梨との言い合いの合間に一品一品食べさせる食事を教育していた。どう見ても火に油を注いでいるようにしか見えなくて、ついに花梨も工藤に対しても怒りだしていた。

借金鳥と花梨と工藤のやり取りを肴に目の前で食べる岳を借金鳥は見習ってその大きな翼の手でフォークを使って食べる様子を林さんが興味深げに観察していた。いいおもち……観測対象を見つけてくれたようで満足してもらえて何よりだ。

 となると騒いでビビっている方がばかばかしく思えたのか千賀さんの配慮で塩誕生日席に座る借金鳥から一番遠い場所に移してくれた。借金鳥に距離は関係ないというのにねという事は秘密と言うか言う必要がないという事にして黙っておく。

 工藤の借金の取り立ての為に具現化したダンジョンの意識体をなんて言っていいのかと思うも


「あの、喋って沢田君とご飯を取りあう鳥、あれは一体何なのだ」

 

 少し落ち着いたお三方の当然な意見に


「ああ、あれですか。

 ダンジョンの意識体とでも言いましょうか。

 我々と交流を持つために我々に認知しやすい姿になったものですね」


 しれっと林さんが説明していた。危害を区分けなければ問題ないですよと……

 しかもかなりどうでもよさそうな感じで。

 もちろんと言うか当然のように固まる伴さん達。

 あ、加藤さんと緒方さんしっかり話聞いてたんだ。

 ただの脳筋じゃないんだと少し感心しながらも俺は借金鳥に狙われてないシチューを抱えて食べていた。

 なんせすでに問答無用に借金鳥がお肉に手を伸ばして食べているから。

 残り少ないお肉はシチューの中に眠るお肉ぐらいしかない。

 そして皆さん皆借金鳥の奇行にくぎ付けだからセルフサービスのシチューからお肉をたんまりもらうのはセルフならではの楽しみ方だと俺は思っている。ウサ肉うまー。

 残念な事におにぎりは工藤が借金鳥に食べさせていたせいでほとんどなくなってしまっていたからあきらめてパンを入れたかご事確保。

 焼き立てフランスパンをスプーン代わりに食べるシチューうまー。

 一人平和にもぐもぐタイム。

 もちろんすぐ隣では雪しゃんもカリカリの上にちゅーるをちゅるっとかけたちゅーる丼を夢中に食べている。

 平和だ。

 すぐ側では残りのご飯も食べつくそうとする借金鳥のハイなテンションの食卓風景と花梨の元気な声。雪のかわいい食事風景に林さんの意識が俺以外の他に向いているとっても素敵な食卓だ。


 ダンジョンの中は混沌だというのは分かっている。

 だとしたら後は食べれる時に食べて休める時に休む。

 

 初めましてのダンジョンだけど初めましての人達と初めましてのひと時を過ごす……

 

 まあ、悪くはないなと一人でシチューの肉を食べた事に気付かれて怒られるまであと3分前の平和な俺のディナータイム。

 






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