知らない人が勝ってに家に上がってるって微妙な気持ちになるね
ダンジョンから地上であった事の話を聞きながら戻ってきた俺達を岳と千賀さん達みんなが迎え入れてくれた。
「部屋に閉じ込めた人たちの面倒は見なくていいのですか?」
と聞くも
「応援が到着した」
だけ言った千賀さん達はいつの間にか自衛隊のダンジョン対策課の制服を着ていた。
因みにうちのトイレダンジョン、とは呼ばせず古民家ダンジョンと呼ばせたシンボルはなぜか山の形だ。
そんなワッペンを腕に張り付けたものにバージョン改正があった事に少し何かの予感を感じていれば見知らぬ人が一人。
「それは生きているのか?」
林さんとも知り合いなのか軽い挨拶もせずに話が進んだけど、林さんは緊張したかのように背筋をピシッと伸ばし
「治療は必要ですが命には問題ないかと」
「ダンジョンの中の出来事だからその事も含めて話を聞きたい。
見張りは代わらせる。全員着いてきなさい」
有無を言わせぬ明らかに命令し慣れた人の言葉。
すでに委縮している岳はもちろん、この空気に流されている沢田。
さっきの女王様とした姿が嘘のように俺の背中に隠れている。
と言うか、何この状況。
分けが判らんと眉間を狭める俺に少し神経質に眉を顰めるも
「何か不満が?」
「しかないです」
言えば謎の男の背後にいる千賀さんがものすごい顔をしていて吹き出しそうになるものの
「俺達は今ダンジョンから戻って来たばかりです」
「それで?」
「休息が欲しいです」
「それは必要かな?」
どうやら考える時間は与えてくれないらしい。
だけど不満を抱えている以上俺には考える時間なんていらない。
「そもそも沢田はお宅の芋虫……ではなく隊員に寄ってたかって性的被害を与えられそうになったばかりなのにまた男だらけの部屋に一人女性を置くと言うのはセクハラ問題しかありません」
「それを言われると反論の余地はない。
沢田君と言ったね。君が受けた被害を本当に申し訳なく思う。
謝罪はいずれきちんとした場所で正式にさせてもらうが、今は少しでも休んで回復に努めてもらえばと思う」
よし、言質は取った。
「あと岳もお宅の隊員に暴力を受けたと聞いてます。
治療は受けたと聞きましたが、意味もなくいきなり暴力受けたと聞きましたので岳も……」
「そうだな。
話を少し聞きたいだけだがこの家の持ち主の君がいればいいだろう」
俺に向けられた視線にやっと気づいた。
あ、俺自分で自分の首絞めてるー。
もともと俺と話が出来ればよかったのだろ。
自衛隊に来てもらいたくてかなりヤバ目の無茶をした記憶はある。
まっすぐ向けられた視線が怖くて仕方がないものの俺一人の犠牲で済むならそれで十分かと決意を込めて
「沢田、なんか朝ごはんを用意するんだって?
時間的に間に合うか知らんが……
岳、悪いけど沢田の手伝いをしてやってくれ。
後俺に気を遣わずに少し寝た方が良いぞ」
「えー…… ぎゃっ!
う、うん。沢田の事手伝っている!」
なんて言う岳の足元を俺は見てしまった。
スリッパも履いてない状態の岳の足を靴を履いた沢田が思いっきり踏んでいた事を。
見ないふり、見ないふりと言いながら初対面の謎のおっさんに連れられて隊舎の方へと案内されるのだった。
何度か遊びに来た事のある隊舎には会議室のような場所があり、それが別の時間となると食事をする場所となる。
狭いから文句は言えないだろう、そんな造りだけどちゃんとホワイトボードが壁にあり、その一角には千賀さん達のスケジュール一覧が掲げられていた。
前回何かの時にお邪魔した時と変わらないいつでも退去できる簡素な彩のない部屋の真ん中に置かれた席を勧められて座ればまた見知らぬ人からお茶を頂いた。
「さて、まずは自己紹介からだな。
私は
役職で言えば自衛隊のダンジョン対策課をまとめる者だと言えばわかってもらえるだろうか?」
「あー…… 千賀さん達の上司って事でいいのかな?」
まさかの幹部の登場にテンションが上がって写真を撮っても良いですかと聞きたかったけどさすがに俺だってそこまでアホの子にはなれない。
くそ―、こういう時に岳がいてくれれば俺の期待を裏切らずに写真を撮ってくれるはずなのにと悔しがりながらも
「相沢遥です。
こんな時間に来てくださってありがとうございます」
なんて言いながらも本当にありがたいのかと小首を傾げれば皆さんまだ俺のスピーチが続くと思って黙ってくれる顔に向かい
「皆さんの仕事の遅さとしりぬぐいをさせていただいたおかげで俺達とんでもない事になっています。
これからもそのことを含めてガンガン発信していこうと思いますのでよろしくお願いします」
なんて言えばぎょっとする千賀さんと林さん。
三輪さんと橘さんはこの場には招かれなかったようだ。
こんな状態を知らないでいてくれてよかったと思うも結城さんだったかその後ろにいる人たちはあからさまに視線を強めて俺を睨んでくる。
だから俺だってそれぐらい抵抗しても構わないだろうと思えば
「それはこちらが願っても止めてくれるものなのかな?
何てあからさまな下手のお願いに俺はにこりと笑い
「すでにさんざん協力してきてると思います。
十分結果も出していると思いますし、それを生かせないのは俺達の責任ではないのでそちらでお話し合いをしていただければとおもいます」
言えば結城和章と名乗った俺の父親のような年齢の男はふむと考えるように
「だったら君を一度縛ってでも本部に連れて行かなくては、と言ったら?」
ボディランゲージの方がお好きな方相手に俺はにっこりと笑って
「今どきわざわざ行かなくてもネットで十分でしょう」
そう言って俺はこの建物の中にいる人以外すべてを収納して
「交渉決裂なのでここに宿泊施設はもう必要ないでしょう?」
言えば皆さん失礼なことに俺を化け物でも見るような視線を向けてきたのでうっすらと口角を上げ、やんわりと目じりを下げる、そんな笑みを向けて言った。
「だから言ったでしょ?
俺達とんでもない事になっています、って」
ダンジョンの中なら露知らずの能力を外で使えばそんな目で見られるのか。だけどそれ以上に立派な大人の間抜けな顔に俺は満足して椅子を一つだけ取り出して座る。
「さあ、改めて最初から。
相沢遥と言います。
この家と土地とダンジョンの所有者になります。
どうぞよろしく」
沢田じゃないけど確かに上から見る景色って最高だねと納得しながら尻餅をつく大人に取り出した椅子をどうぞと差し出してみた。
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