所詮はそんなものよ
とりあえず俺の椅子と結城さんの椅子を用意する。
元田んぼ、コンクリ打ちをしてあるとはいえこの景色はシュールだなと思いながらも千賀さんと林さん、そして三輪さんや橘さんもしでかした俺に顔を青ざめながらも手も口も挟まない状態。
これが縦社会の結晶かとどうでもいい感動を口に出さず、けど視線でこの状況をどうにかしてくださいと訴える。当然みんな揃って視線を反らされてしまったけど大体こうなると判っていたので気にはならない。
「それで……
所で何の話をしてましたっけ?」
なんてすっとぼけて今までの話しを無かった事にする。
もちろん俺も工藤の事は忘れないが最初からと言ったように短かった今までの事を無かった事にすればそこは千賀さん達をまとめる人。俺達のアプローチのしかたをがらっと変えて
「土木課の水井班の強化をありがとう。
彼らは土木課からダンジョン対策課に移動となり全国のダンジョンに派遣されて担当の対策課と協力して実績をあげて居る。さらに一部は海外にも派遣してその実績は各国でも認知されている」
その誇らしげな報告に俺は胸を撫でおろす。
「よ、良かった……
これで奴らが絶滅する可能性が一つ増えたわけだ……」
目の前の人物が眉間を寄せた事なんて気づかずに俺は安堵の溜息を零す。
そう、たとえ我が家から奴らが絶滅しても1.5M級の奴らが存在しえる事さえ許しがたい。
たとえ海を渡った国だとしてもだ!
ひょっこり卵を持ち出した奴がいるとかブリーダーが繁殖を始めたとかそんな訳の分からない事が浸透する前に絶滅させるそれの何処が悪いと握りこぶしを作るものの目の前の椅子に座る男は全く理解してくれないような顔で俺を見ていた。
ふっ、いずれ奴らのおぞましさをその身をもって知る事になるだろう。それまでその無駄にすました顔をいつまで保てるか心の中で笑って見せるも
「ところで一つご教授願いたい」
「ん?」
先ほどの縛って連れて行くとかそう言う流れとは全く違う方向転換に何だと言うように小首を傾げれば
「魔象の攻略を教えて欲しい。
もちろん、各国にその方法を流してもらっても構わない。
水井から魔狼の後の11階の話は聞いた。
他のダンジョンも多少の環境の誤差はあれど、蝗害が発生する条件は確認されている。
魔象を含めその次の階層の対策も纏めて教えてもらえるとダンジョンの攻略に対して有効手段になる。
どうか、世界の平和の為にも教えていただきたい」
なんて頭を下げられてしまった。
つむじ部分薄いな、苦労してるな。
なんて眺めるくらい心に響かない言葉だった。
だって考えてみればすぐにわかる。
そんな事言うくらいならなかった事にした流れは何だったんだよ、その一言に尽きる。
二十そこそこの若者だと馬鹿にされているのは理解できた。
まあ、どうせそんなものだろうと言う事も元ニートとして受け入れ態勢は整っている。
ただ今の俺にはダンジョンつき事故物件の主だが別の見方を変えれば無限にお金を生み出す素材を提供できる生産者としてなかなかどうして素晴らしい環境に居る事を理解している。
たとえ1.5M級のGが出るかもしれない家に住んでるとしてもだ。
結城さんのつむじを眺めながら卑屈になりがちな事を考えているもそもそもこの人は……
「ねえ、結城さん。
一つ聞きますが、結城さんにとってダンジョンとはどういう場所だと思いますか?」
聞けば下げた頭をそのままに
「名を覚えきらぬ前に部下を亡くしてしまった憎き場所」
と言うものの俺には何一つ響いてこなかった。
だってそうだろ?
頭を下げている合間に俺が結城さんのステータスを開示すればこの人レベルまだ15だってさ。
まあ、後方から指示を飛ばす将校さんに必要とするものではないと判ってるが、マロすら倒せないこれでは心揺さぶるかけらもない言葉に結城さんのステータスを見てしまった人たちの困惑気な顔を見て……
「そうだ!せっかくこの山まで来てくださったのだから魔象を見に行きませんか?
今なら片道5時間弱の行程です。
魔象のレベルは25ですが、討伐推奨レベルは30を推薦します。
大丈夫です。俺と雪なら既に難無く倒すことが出来るので一度その目で見てみる事をお勧めします!」
力の限り力説してみた。
千賀さんを始め皆さん訳の分からない、そんな顔をしていたけど俺は
「雪!マゾに会いに行くぞ!」
何も遮るもののない山で雪に声を掛けながら結城さんを捕まえてダンジョンへと潜り込む。
入り口で待ち構えていた雪はきらきらした目で今から行くのかと言うように俺を見上げていてさすが戦闘民族。魔象に立ち向かうチャンスを逃さないのは立派だなと褒め称えながらほぼ一歩一歩が曲がり角になる1階から10階の迷宮ダンジョンを抜ける頃にはマロを討伐する雪の華麗な戦闘を見せることが出来ずに通り過ぎてしまった。
まあ、魔狼の討伐はさんざん動画で上げたからいいかとなぜか気絶しておとなしくなった結城さんを背負って水魔法で集めた水で水分補給したり、沢田が作ってくれたおにぎりを収納から取り出して食べたり、雪にはちゅーるをあげてテンション維持を保たせながら魔象と結城さんのご対面。
さすがにダンジョンに入ってからのこの距離。いつまでも寝ていられる人ではなく……
魔象の迫力にビビって部屋の片隅にうずくまる結城さんを守りながら俺は雪が単独でマゾ、ではなく魔象を討伐する光景を見守っていた。
「わ、悪かった!私が悪かった!
君たちをどうにかできるなんて、君たちを軽く見てすまなかった!!!
ひっ!た、助けてくれ!頼むから私を助けてくれ!!」
安いセリフながら中々に良い景色を見せてもらった。
おっさん面白いなと安全な所で安全な映像だけを見ている人の姿をさりげなくスマホで録画。
使えるかな?と思ったけどいずれ役には立つだろうと確保はしておいた。
まあ、ここまで見せれば結城さんもダンジョン攻略にもっと真剣になって考えてくれるだろうと願って置く。
これで意識改革が出来るのなら安いものだ。
そして俺は未公開の16階の景色を見せて帰還する事にした。
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