戦力外通知ってむなしいね

 マゾ対戦。

 思い付きでタイトルをつけてみたけどなんかかっこよくないなと思いつつも俺はみんながマゾと戦う様子を見守っていた。

 俺だともうマゾじゃレベル上げの餌にもならないしね。

 学生さんたちが順番に参加しながら千賀さんたちも誰か一人混ざるそんな経験値稼ぎと練習。

 そして俺の隣ではパンにバターを塗ってサンドイッチを作っている沢田。

 おかげで毒霧を使うなと言われるこの環境。

 埃が舞ってるけどそこはいいのか?

 全力で聞きたいけどご機嫌に準備をしている様子を見て口は出さない。

 スモークサーモンのクリームチーズサンドを作っているのを見てしまっては下手なことを言って食べさせてあげないなんて言われたときはもうなくしかない。しかもアボガドを挟むなんて……

 絶対食べたい!

 あああ。今度はローストクズのサンドイッチだなんて!!!

 お手伝い…… え? いらない? 味見を…… はい。おとなしく待ってます。

 少し寂しくなって隅っこで体育座りをしてしまうのは誰も相手をしてくれない寂しさを紛らわすため、とは言わない。

 ちゃんとイレギュラーな奴が現れないかステータスをチェックというお仕事をしている俺。面白くない。

 とりあえず俺からマゾ剣を受け取った村瀬はなぜかみんなを引き連れるように毎回戦いに参戦している。

 これがリーダー資質というやつか?

 同様に千賀さんも参加しているのがデジャブを覚える。

 因みに岳も参戦しているが、これは単に楽しいからという理由だけで深い意図はない。

「あーあ、岳お祭りモードに入ってるよ」

「いいんじゃね?岳が楽しそうで何よりじゃん」

「そうだけどね。

 マゾに下手にダメージ入れると素材として価値が下がるから上手に倒すのも技術だと思うのよね」

「まあ、そのほうが買い取り価格高いしな」

 ただでさえ食用の肉としては価値が低いマゾ。まったくないわけじゃないけどマロ肉やうさっきーと比べれば豚コマ以下のお値段に使い方はそれなりにあるらしい。

 想像がつくから深くは突っ込まないけどそれでもお役に立つのならお肉にダメージが入りきらないうちに回収するのが俺の仕事ぐらい。

 まあ、思ったよりもスムーズに事は運ぶけど全員の装備を繰り返すその作業。 

 うん。作業。

 命って何だろうって思うけどそれを口に出したからって目的が達成するまで得ることはできない武器のほうが価値があるというその考えをぶれずにいるほうがしんどい。

 作業的に屠る命があればそれと引き換えに守られる命がある、そんな作業。

 せめてというようにその素材残さず利用させてもらうのがせめてもの弔い。

 お肉以外はすべて兵器転用というのがなんだかもやもやするけど今の時代の兵器転用は基本ダンジョン探索に使われる。

 なんせダンジョン爆誕以前の兵器ではダンジョンで稼働することができない謎なことがおきているから。

 ダンジョンが俺たちの世界を確実に攻略しに来てるなと感心しながらも想定外の兵器については全くノーマークなのでうまく隙を付けたのがバルサンだとは……

 残念過ぎるとは思ってるけど確実に有効魔法になってくれたのはありがたいと思ってるけどね!

 ほんと残念過ぎる結果が俺というもうバグという存在。

 とりあえず一戦ごとに三分過ぎると介入して強制終了。

 この後は帰還という長距離移動というのが待っているからね。

 戦い方を研究なんて優雅に時間は使わせてあげない。

 とにかくマゾを狩って宝箱を確保。

 そのあと参加した人の中から俺が貸した靴と履き替えてもらってノルマは終了。

 村瀬みたいにマゾを一撃で狩れる可能性を追求するめんどくさい奴が一人だけなのがありがたいけど。

 だけど確実にマゾを倒すコツをつかんでいるあたり次のレベルアップの時のステータスの増加が楽しみな成長をしていると見守るのは千賀さんも同じようで

「村瀬ならすぐに実戦に投入できるな」

 そんなお墨付き。喜ばしいことかどうかなんてわからないけど。

 千賀隊長のいう事なら確実だからあとは無傷でおうちに帰るだけ。

 「今のところ水井班がばらけてまで各ダンジョンを回ってマロ討伐してくれたおかげで安定はしているけどな。バルサン持って」

「だけどそれで落ち着くダンジョンではない」

「そのためにマロの次のマゾ討伐のスペシャリストを鍛え上げなけれないけない」

 林さんが俺たちの会話に口をはさむ。

 どんどん若い世代を鍛えなければと使命のように口にする。

 まあ、村瀬の成長を見てればそう思うよなと軽く10回以上連続で挑戦しているのを見ればそういうしかないよな。おっさんを実感するよなとまじめな顔をしつつも真剣な顔をしていればとたんに呆れた視線を向けられた。


「相沢、お前まるで人ごとのような顔をしているけど一番の期待の星はお前だぞ」

「えー?俺の職業は自宅警備員なのに……」

 ダンジョン発生する前からそうだったと言えば

「安心しろ。自宅警備員から冒険者に昇格した」

「えーと、ニートからフリーターになったってことだね?」

「どっちにしても税金を納税できるようになって立派になったなというところだな」

 林さん、沢田、千賀さん。どれをとっても絶対誉め言葉じゃないよと突っ込みたかったけどただの本当のことなので全くの反論ができない。だけど

「住民税は前年比なのでこれから貯めないとな」

「億を超えたら半分が税金だと思え」

「働きたくねー」

 余裕なその決定事項にネットで売らなければよかったと後悔は半端ない。

 だけどしてしまったものはどうしようもないというように開き直って

「ガンガン売るか」

「30億はこえるなよ」

「え?」

 どうやら俺の知らない世界があるようだ。

「超富裕層に認定されて」

「課税が強化されるぞ」

 千賀さん、林さん何言ってるの?と思うもそこはダンジョンバブルを真近に見てきた人たち。

「なんで国に買取してもらってるか少しは考えろ」

 林さんのごみを見る目にしくしくと泣いてしまう。

「ただの自衛隊の強化だと思ってたのに……」

  自宅警備員には「納税」なんて縁のない遠い世界の言葉がこんなにも身近になっていたなんて……

「じゃあなんだ?俺達から買い取った奴はそういったことも見越しての価格を上げてきたのか?!」

「いや、それは単にレアコレクションの奇特な人間の好奇心なだけだろ」

 呆れる千賀さんに

「くそっ!園芸と同じでどんどん市場に流して価値を下げてやる!!!」

「あー、うん。まあ、分母と分子を考えても価値は下がりにくい問題だな」

 さらに呆れている林さん。

 二人そろってかわいそうな目で見るのはやめろと言いたいけど……


 そこでマゾとの戦いが終わったから戦闘参加者の名前を書いたメモを張って収納。

 ついでに調理中の沢田の料理も収納してリセット。

 部屋を出て戻る三分おきの作業はカップラーメンのわんこそばだなと口には出さずにのんきに考えていれば光の奔流とともに形成されたマゾのレベルが……


「全員退避!」


 俺の叫ぶ声に全員が振り返った。




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