狩りの始まり
全員がそろったところで俺はマゾの住む部屋の扉を開ける。
マゾの扉を開ける、決して略しすぎてはいけない言葉だという事は口には出さず、階段を下りれば光の粒子があふれ出し、そして魔象を形成するどこか神秘的な光景を見る。
現れるのが魔象でなければうっとりとするような美しい景色だが、やがて現れる見上げる巨体に周囲はそこまで余裕はないようだ。
「映像で見るより大きいですね」
橘さんの小さな声に見慣れてしまった俺は小首をかしげながらも
「この先もですが俺が知る限りマゾより大きな魔物とはまだ出会ってないのでこの感動を覚えておいてください」
それがどんな役に立つかなんてわからないけど村瀬をはじめとした学生さんたちの緊張は手に持っている剣の先っぽがカチャカチャと床に当たり不規則な音を立てているところからも理解ができる。
「それより説明したと思いますがマロと同じでしょっぱなから魔法を打ってきます。濁流が発動すると俺たちの身長ぐらいあっという間に埋まります。
ですが俺が不発にさせるのでそのあとは一撃は加えてください。
効率悪いけど少しでも経験値稼ぎましょう。危ないと判断したらすぐに俺が終わらせます」
そんな経験値稼ぎは主に学生さんたちに。
千賀さんたちではあまり餌にもならないだろうから村瀬たちに言うも、誰も足を動かそうとはしない。いや、動かせないのか?
とりあえずマゾが大きく鼻を振り上げて魔法を放つモーションを見て俺は舌打ち。
「終了だ」
なんて床を一蹴り。
「よっ!」
少し空気に水の匂いを感じた瞬間、俺は間の抜けた気合とともにマゾの首を切り落とした。
ごとり……
あまりの綺麗な切り口に血があふれ出すこともなく、そして落ちた衝撃で噴出したそれ。
あまりにもあっけない討伐は10階までみんなもしてきた光景と同じもの。
そしてすぐに出てきた宝箱を開けてマゾグッズの確保とマゾを回収。
今ではうちを見習ってダンジョン内で魔物を解体する自衛隊ダンジョン対策課の武器の開発部の皆様に提供するための素材。
今回マゾグッズとともに大量に収穫する予定なので喜んでくれるかなと皆さん三部体制で24時間運営なことを知らない俺は純粋に貴重な素材に喜んでくれている姿を想像していたかわいい奴だった。
そんな一分にも満たない討伐を終えて
「じゃあリセットしようか」
振り向きざまに言えば
「だから、これじゃあ見本にならないって言ってるでしょ!」
沢田に怒られてしまった。
「確かに、我々がマロを討伐すると同じようにマゾを倒せばいいというのはわかりましたが、やはりそこまで圧倒的な力の差がないのが問題ですね」
なんて林さんの冷静な分析というか見解に
「一度マゾ剣でやってみます?」
なんて血糊すらついていない俺のマゾ剣を林さんに渡せば少し考えて
「橘、お前が試してみろ」
「了解です」
なんてためらわずに林さんの提案を受け入れていた。これがノーを言わない上下関係かと思うも俺から剣を受け取った橘さんは少し素振りをして
「行けそうか?」
千賀さんの心配げな声だが
「思ったより重くはないのですね」
問題ないという不安のない声。
基本俺は魔法中心の戦闘なので橘さんほどパワータイプではないからマゾ剣をひゅんひゅん振り回す様子すら目新しいと思わず見てしまえば
「橘さん、俺も今度参加していいっすか?」
なんて岳も参加宣言。
「じゃあ、一緒にやりましょうか」
「あ、私もやる!」
さらに沢田も手を上げるのを見て
「じゃあ、次は三人でやってみろ」
そんな林さんの指示に一度14階に戻ってからの再挑戦。
しゅわーなんていう効果音が似合う光の本流を眺めて成形されたマゾに襲い掛かる橘さんと岳と沢田。
学生さんたちはとにかくマゾに慣れるようにと見学をしているが……
やはり一撃で倒せれなくなった相手に少しビビってしまっているようだった。
沢田は前回を踏まえてマゾを飛び越えるその脚力でその背中に乗り皮を一枚切るように剣を突き刺してその巨体の背中を走ればその気を反らすように岳がマゾの目の前に立つ。敵を認識したのか魔法を放つことをやめていつの間にかそばに近寄っていた敵を振り払おうとする鼻に向かって剣を振り上げる……
そんなフェイク。
さっとよけたところに横から橘さんがマゾの死角から現れて……
ザシュッ!!
さすがパワータイプ。
初見さんにも構わず切り刻んでいくかと感心していればすかさず沢田はマゾの首の付け根を見つけて振り上げた剣を切っ先から突き刺していた。
これが力の足りない沢田の戦い方なのだろうが、前回もだけどよく骨と骨の隙間に間違いなく剣を突き立てることができるのをすごいと思ってしまう。それと同時になんてえぐいとどめだと思うもこの状況でもぶれずに食材としか見ていない事には感心するしかない。
そして神経を絶たれて身動きが取れずに倒れた魔象の首を悠々切り落とす岳。
〆て5分弱の戦闘に学生さんたちはいつの間にか前のめりの状態で食い入るようにその戦いを呼吸を忘れたかのように魅入っていた。
そうだ。
別に一人で一撃で倒す必要はまだない。
体力温存で数をこなす、それが今回の目標。
確実に討伐できる手順に自分よりはるかに巨大な魔物にも十分太刀打ちできるその戦闘に可能性を見つけた瞳……
この熱を逃すわけにはいかない!
「次、三輪さんと誰か一緒に参戦したい人!」
なんて叫べばすかさず手を上げる村瀬に俺は予備のマゾ剣を取り出して渡し
「いざとなったら助けに入るから一撃で良いから当てて来い!」
そう、これで十分討伐の経験値が入る。
だけどそれすら関係ないというように村瀬は初めてのマゾ剣を手に目をキラキラさせて、まるで子供のように大切に剣を握りしめて……
なんかやばい奴に剣渡しちゃったな……
まさかの戦闘狂の素質を見つけ出してドン引きになりながらも周囲は気付かずリセットしようというように14階に戻る様子にこのまま素直に続けていいのだろうかと悩むのだった。
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