魔象と対面する前に
12階入り口についた所で先に村瀬たちに休憩を取らせる。
俺と沢田、橘さん三輪さんはポーションで体力を回復させて呼吸を整える横では同様にポーションで回復したはずの学生さんたちは膝を着いてへばっていた。
「うーん、さすがにレベルアップにつながらなかったか」
「だろうな。レベルも上がったばかりだし相沢の残したクズとマロじゃ今更上がらないしな」
三輪さんの分析に頷きながらも俺たちはエネルギー補給としておにぎりを食べていた。
村瀬はこんな時に食べるのかという顔をするけど
「食べられる時に食べる。どの業界でも鉄則だし、本当なら休まずに15階に行きたかったんだから。こんな所でへばってるぐらいなら食べて栄養補給するよ」
そんな沢田の持論と
「この先は山道を歩いたり不快なジャングルとかを走るんだ。
少しでも疲れる前に栄養補給しておかないとろくに食べられなくなるぞ」
橘さんの指導に言葉通り栄養を補給するように口に詰めるようにしておにぎりを食べだした。
それに気をよくした沢田は
「相沢、みそ汁あったでしょ?塩分補給しないとね!」
「じゃあテーブルだすから。紙コップでいいよね?
あ、漬物も食べたいです。食べさせてください」
「じゃあキュウリの一本漬け出してよ」
「やった!」
沢田の指示に思わず俺はうきうきとテーブルにみそ汁とキュウリの一本漬けを並べ、誰より先に一本漬けに齧り付く。
「んめえ!よく冷えてるし塩分、昆布出汁沁み沁み最高!」
大きな一口で嚙り付けばつられるように村瀬たちも喉を鳴らして手に取って齧っていた。
一斉にポリポリとキュウリをかじる音が落ち着けば
「なんか思っていたダンジョン攻略と違う……」
ふと我に返った村瀬のそんなつぶやき。
皆さんどうやら急に現実に帰ってしまったようだった。
だけどそこは比べるものを知らない俺達。
「そうなの?」
「他を知らんからな俺達は」
沢田は東京のアクティビティになってしまったダンジョンしか知らないし俺は免許講習の時のダンジョンしか知らないし。
うちのダンジョンでは他人の目がないからやりたい放題だったこともあったし俺の収納空間もあるから持ち込みたい放題だったし挙句に見て見ぬふりをして一緒に楽しんでくれた大人ばっかりだったし。
「自衛隊のダンジョン攻略って不便ね」
「それが普通なんですよ」
沢田の感想に苦笑いの橘さん。
出会った頃ただひたすらお仕事中のドーベルマン的な人だったのにずいぶんいろんな表情を出してくるな。というかこの人本当によく食べるなというか……
「沢田さん、お替りありますか?」
「余分に作ってはあるけど、お替りは一本だけにしてくださいね」
他の人が欲しがるからという視線なんて誰も気づかないと言うように
「俺もいただきます!」
「俺も!」
「俺も!」
「俺もー」
一斉に飛びつく学生たちにさらりと混ざって俺もお替りゲット。
「あ、相沢!あんたはそこまで疲れてないでしょ?!」
「普通に食べたいんだよ」
何が悪いというようにかじってしまえば三輪さんも笑いながらお替りを食べていた。
「もー、後発隊のみんなにばれないように早く食べちゃって!」
なんて水分補給と塩分補給を兼ねた軽食を食べ終わるころには林さんが先導する後発隊がやってきて……
「お疲れ様。
俺たちは先に行くから、ここでしっかり栄養補給してってよ」
「はい。って、しっかり食べましたね」
あきれる林さんだけど後発隊の人たちにもしっかり食事はさせるように料理を並べる。
「まあ、この先いつ食べれるかわからないから」
「確かに、ジャングルで虫にたかられながらの食事はおいしくないですからね」
そう。この先は虫問題が多発する。
いくら俺が毒霧でやっつけてもどこからか現れるたくましい奴。
まあ、毒霧の効果継続中の範囲に入れば死んでくれるけど、その中での食事はちょっと遠慮したいという沢田と岳の要望からまともに食事ができる場所はここの後はマゾ部屋ぐらいしかない。
水分補給をしながら走ることにはみんな慣れてくれたけど、栄養補給は当分ないと思ってもらいたい。
とはいえ
「一応何かあった時の非常食渡しておきますね」
リュックにはなんちゃってポーションを詰めたペットボトルと沢田が作ったお弁当のおにぎりは俺の収納空間から出せば時間が経過していけばどんどん傷んでいくし湿度の多い場所を通過するのでできればあまりお世話になりませんようにと願ってしまう。
「あと一応全員靴を履き替えてください」
そういって俺は乱獲したマゾからゲットしたマゾシューズを全員に渡す。
受け取った学生さんたちはこれを俺たちは自分の分を確保しに行くんだよなというような顔をするが
「これは貸すだけです。本来だったら売り飛ばそうと思ったものだけど、みんなの安全を考えて貸し出します。
靴を履き替えたらみんなの靴は俺が預かります。
ダンジョンから戻り次第返すのでこれから先はマゾシューズで進みます」
「それはわかったが、マゾシューズってネーミング何とかならんのか」
千賀さんの突っ込みに沢田はそっと目を反らす。ひょっとしてやっぱり駄目だったか?なんて思わず視線で訴えてしまえば俺に見向きもしない当たりネーミングセンスなしと言いたいのだろう。
まあ、分かってたけど。
とりあえず全員に靴を履き替えさせて俺は靴を預かる。
もう俺のスキル収納空間については誰も突っ込まず、ただひたすらマゾシューズの履き心地の良さに驚いていた。
「これは、軽いな」
三輪さんの驚きの声に
「サイズがぴったりだなんて」
「すごい、なんか理想的すぎる靴だな」
千賀さんも林さんも驚くように学生さんたちもピョンピョン跳ねたりして履き心地を確かめていた。
「一応これなら泥のぬかるみも砂利で足を取られることもないし、水面も歩けます」
驚きに見開かれる数々の瞳に
「とはいえいつ裏切られるかわからないので興味本位で危険なことはしないでください。
そしてマゾにたかりに行くまでにしっかりとこの履き心地を実感して自分のマゾシューズを欲しく思ってください。普通の靴より強度も高いので一生ものだと思います」
そんな説明の合間にも後発隊の皆さんの食事が始まるのを見れば
「では先発隊は出発する!
次は13階の入り口で会おう!」
そんな三輪さんの掛け声に俺たちは階段を駆け下りて空から流れ落ちる滝を眺めながら流れていく川に沿って13階の入り口に向かい、12階入り口同様みんなが追いつくのを待ってから出発するリレー的な方針で15階入り口の前で合流すればみんな泥だらけ、そして戦闘をしたというようなくたびれ方はあったけど全員が無事そろったところで
「マゾを倒してとりあえず休憩しよう。
まず俺が見本を見せるから、みんなの目標にしてもらえればいいともいます!」
なんていえば岳から飲み終わったペットボトルを投げつけられた。
「あんなの俺たちのレベルで見本になるか!」
「そーよそーよ!もっと現実的な戦い方の見本を見せなさいよ!
マゾを一振りで倒せるわけないじゃない!」
沢田にまで空のペットボトルを投げられるのを少し理不尽と思うも皆さんのそれはないわーという視線にみんなにはこれぐらいこなしてもらえるように雪にお願いしてもっと鍛えさせようと密かに誓うのだった。
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