マゾはお高いんですよ?

14階は少し重いおなかを抱えながら走破する。

 十分休憩をとったとはいえ食後の運動はなかなかにしてしんどい。

 蟹が美味しい。

 沢田の料理がおいしい。

 そんな美味しいに美味しいの攻撃なんて負け確定の案件じゃん。

 その結果が少し鈍足気味な俺たちなのだろうけどね。

 とりあえず何とかして15階の入り口まで来た。

 一見重そう、固そうに見える扉も

「にゃ!」

 雪が前足でポンと叩けば簡単に開くタッチ式の自動扉なんて言う現代的機能なのだとファンタジー返って来いと心の中で突っ込んでしまう。

 大きく開かれた扉を前に

「行くか」

 千賀さんの気合と共にみんな揃って階段を下りていく。

 マゾごめん。

 今回も過剰戦力でお邪魔します。

  ご機嫌に尻尾を揺らしながら先陣を切る雪の後ろについていけばすぐに光の奔流が始まり、俺達はその間に武器を確認する。

 と言うか今回は工藤に戦わせるつもりでいる。

 せっかく手に入れた下僕。

 俺達の代わりに戦ってくれよと悪役交じりに言えば淡々と作業という様に黒い剣を構え、やがて姿を現したマゾには……


「ちょっと待て。あれはなんだ」

「やだー!子象が三匹だぞう?!

 テンション上がるぅ! 小象かわいいぞう!!」


 一応面倒を見てる母親のマゾもいたけど

「マジか? ガキと戦えとか?」

 まさかの鬼畜工藤から出た言葉に少し疑問を覚得るのもつかの間、しまったなと少し反省。

 結城さんからもらった資料では工藤はレイプに暴力、万引き、器物破損などなど悪行の限りを尽くしたと言ってもいいが、唯一してない事は子供に対しての暴力だった。

 まあ、工藤の犯罪歴を見ればどう考えてもなくした父親の所業が工藤の人格に影響を与えているのは言わなくてもわかる。

 その中で親から暴力を振るわれた事、しかも母親がいないときに一人それをじっと耐えるように受け入れていた恐怖は経験のない俺には全てを理解するのは想像の中でしかできないけど、工藤の中で一番の恐怖が大人が子供に与える暴力だというのは種を超えてもある種の工藤の中のルール、と言うかトラウマによって身動きができない様子に

「雪、小象を倒して」

「な」

 小さな返事をして、最低限の小さな攻撃で、瞬間的な止めを刺すという損傷もほぼなければ小象も何が起きたか分からないという様に倒れ、俺はすぐさま収納し

「あとは千賀さんよろしく」

 残されたマゾが何が起きたのか分からないという様に小象を探していたが、その前に俺が渡した黒い剣を手にして一瞬で首を切り落としていた。

 やば……

 マゾの首を豆腐を切るように抵抗なく切ってるよ千賀さん。

 だけど誰も勝利の歓喜の声を上げる事なく、林さんが宝箱の中身を回収してくれていた。

 それを受け取るにあたり林さんの前に立てば納得しない、だけど工藤も被害者だったことを理解する顔は無理やり感情を飲み込む、そんな顔をしていて……

 ポンと背中を叩いて

「帰りましょう」

 何とも言えない苦い空気の中俺はマゾを収納しようとしたところで14階の階段の所に今このタイミングで会いたくないやつがいた。


「マジか!ここで来るか借金鳥!」


 叫べば一気にみんな戦闘態勢に入る。

 だけどその時はすでに工藤の目の前に居て……


「にゃうっ!!!」


 雪さんが全力で工藤に頭から突っ込んでいって、工藤もものすごい勢いで吹っ飛んでいった。

「雪しゃんナイス!」

「にゃっ!」

「この性悪猫! 鳩尾は本当にやばいの覚えておけっ!!!」

「あ、工藤無事だった」

 意地でも叫んだ後床に転がりながらもだえ苦しんでいたけど

「くそっ!こんな所でなんて隠れる場所もないのか!」

 いくら自分に襲い掛かる事はないとはいえ橘さんが叫んでしまうのはそれだけ謎の威圧を放つ借金鳥のせいだろう。

 巨大な鎌を頭上でくるくる回す芸を見せてくれる借金鳥。

 今までに居なかったパターンだとその一芸に拍手してしまえばピシッと鎌の先を工藤に向けて飛び掛かる様子にすぐさままだ収納してなかったマゾの陰に入るようにして距離を取る。

 ああ、これで……

「工藤っ!借金鳥にマゾを押し付けろ!」

 千賀さんの指示だけどそこまでマゾは軽くないし、前回のように上手くいくとは思えないけど、とりあえずという様に俺はこの世のおぞましき黒いアレを工藤の前に収納から排出させる。

 ちょっとした嫌がらせとかビビらせたりとかそういう意図で持っていた俺の天敵。

 本当に嫌で俺の収納が汚染される気がしたけど……

 

「工藤!手っ取り早く投げつけてみろ!」

 

 突如目の前に現れた沢田より少し小さいサイズのGに工藤でもぎょっとして顔を引きつらせるけど目の前にある奴を掴んで

「くらえっ!!!」

 借金鳥に投げつければべちっと当たってぼとりと落ちた。

「なっ……」

「どういう事?」

 少し期待していただろう工藤の動揺、意味わかんないという沢田。

 だけど借金鳥はぶつかった場所を軽くその手の様な翼ではたき、Gを鎌の先端で上手に部屋の壁にぶち当てるように処分したのだった。

 そう。

 まさかの……


「価値なしだって!!!

 Gマジで買取拒否レベルとか受けるんだけど!!!」


 なんて笑わずにはいられない。

 兵器としては多産系で不快をまき散らすあたり最強なのだが、同じダンジョンの生物でもそこまで拒絶するかというぐらいの対応にもう笑うしかなく、だけど俺は次々にアントやスパイダーなどの魔物を工藤の前に用意して

「とりあえず査定頼む!」

 オープンになった工藤のステータスを見ながら昆虫系と言うか害虫系のお値段がペットボトル一本を買えるかどうかなんて涙が出てきた。

 

 人類はその程度の価値の魔物に翻弄されていて、信じられない数の人たちがなくなっていて……


「はやっさん、メモ取ってもらっていいですか」

「メモ取るのでメモと書くものをよこしなさい」


 そうやってしばらくの間俺が持つ魔物の査定を付き合ってもらい、ストックの関係上手放せる素材の中でやっぱり一番高額だったのは


「まさかのマゾが300なんて……」

「マゾで車一台だなんて……」

「ちっ、これだと工藤の借金返済が早く終わる!」

「300あれば住宅ローンの頭金になるか?」

いろんな素材を投げつけながらなんとかマゾを借金鳥に押し付けての返済金額の高額さに皆さん驚くけど……


「とりあえずまた仲間呼ぶだろうから今のうちに逃げよう!」


 何とかマゾを取り込もうと悪戦苦闘をする借金鳥を置いて脱兎のごとく逃げる俺達にスキル:エスケープが全員に付いたことはなんだか納得が出来なかった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る